配置の実際
休憩が終わったあと、全員でぞろぞろと中央広場へと移動する。
そこに転移魔方陣があるから、だった。
「ああ、アトォ」
魔方陣の番人は、昨日とは違う少女だった。
「本当に、こっちの人と連んでるのね。
それでうまくやれているんなら、別にいいか。
それで、今日は団体さんでセッデスのところにいくのかな?」
昨日の少女とは違い、若干クールな対応だった。
顔見知りではあるが、アトォとはそんなに親しくはない感じか。
「ここに居る全員、三十人分、お願いできるかな?」
恭介は、そうオーダーする。
「五十万ポイント足すことの、ええと、二十五人追加だから……」
「追加人数二十五人、掛けることの十万で二百五十万。
総額で三百万ポイントになるね。
人数が多い時は、一人頭十万ポイントっておぼえておくといいよ」
彼方が、声に出してそう教えた。
この子は、暗算があまり得意ではないらしい。
「ええと、そう。
それで、あっている」
その子は、少し考え込んでから、頷く。
「じゃあ、三百万CP、払うね」
恭介がシステム画面を開いていった。
「確認して」
「はい、確かに」
その子は、自分のシステム画面を確認して頷く。
「今すぐ、向こうにいく?」
「うん」
恭介はいった。
「余計なお世話かも知れないけど、計算が苦手ならマーケットに電卓って機械があるよ。
安いし、こっちの数字が読めるんなら、試してみるといい」
「ああ、そうね。
考えておく」
その子はまた頷いてから、転移魔法を使う。
「それじゃあ、送るね」
「皆様、お待ちしておりました」
全員でセッデス勢力の城塞に移動すると、すでにアイレスが待ち構えていた。
「これほど大勢の助っ人を伴われたのですね。
こちらとしても助かります」
「アイレスさん。
早速だけど、先に昨日来た増援部隊の人たちのところに案内してくれるかな」
恭介は、そういった。
「チュートリアルがはじまるまでまだ少し時間があるし、あれから事態がどうなったのかの確認と、今後の打ち合わせなんかをやっておきたいんだけど」
「それでは、こちらへ」
アイレスはそういって歩き出した。
「自体としては、一応、落ち着いております。
ただ、聖女様に関しては、あれからすべての負傷者の手当て、死者の復活処置を終え、その直後にお休みなられたあと、まだ起床しておりません」
「それ、すべての仕事を終えたの、いつ」
遥が、短く訊ねる。
「ほんの少し前、になりますね」
アイレスが答えた。
「昨日は、昨日よりも死者が多かったので」
「なるほど」
恭介は頷く。
「損傷の具合によって、復活にも時間がかかるっていってたもんな。
聖女様に関しては、自然に起きるまでそのままそっとしておいて」
聖女にしか出来ない仕事は死者の蘇生。
それ以外の治療行為は、一応、他のプレイヤーにも出来る。
聖女である結城紬の負担をこれ以上重くしないためにも、これからは負傷者に関しては可能な限り他のプレイヤーが治療しる体制と整えていくべきなのだろう。
その結城紬も、回復術を使える支援者が増えたことで、気が抜けたのかも知れない。
「聖女様抜きでチュートリアルをおこなっても、支障はありませんか?」
アイレスが確認してくる。
「軽い負傷ならその場で治せますし、重傷であっても延命治療くらいは出来るはずです」
恭介は即答した。
「なにより、人数が居ますので、どうとでもなるでしょう」
結城紬に関しては、今回はそっとしておいても、問題はないはずだ。
「おお、来たか」
案内された場所に着くと、すぐに坂又が手をあげて挨拶してくる。
「坂又さんですか」
恭介が応じる。
「今回は、パーティ丸ごとこちらの支援に?」
「うちのパーティだけではないがな」
坂又はそういって頷く。
「うちのパーティが一番平均レベルが高いもんで、こうして取りまとめ役を仰せつかっている。
なんなら、そっちと交替するか?」
「いや、そのままで」
恭介は即答する。
「今日はうちも大勢の低レベル者を抱えているんで、あんまり余裕がないです」
「なるほどな」
坂又は頷いた。
「結構、人数が多いな」
「うちのパーティを含めて、全部で三十名」
恭介は、そう伝える。
「全員、回復術をおぼえさせました。
慣れていない者が大半ですが、うまく使ってください」
それから、具体的な打ち合わせに移行する。
坂又の説明を要約すると、現在、向こうから支援に来たプレイヤーは二十名ほど。
この城塞の各所にある詰め所に、分散して配置されている、という。
「これまで、回復役は実質聖女様一人だったんで、あちこちに担架を持った人形を配置して、怪我人が出たら聖女様のところにまで搬送する、という体制だったそうだ。
今は、あちこちに回復役が分散しているんで、一番近い回復役のところにまで怪我人を運ぶ手筈になっている」
「うちの三十人も、何名かづつに分けてあちこちに配置しましょう」
恭介が提案する。
「どこか一カ所に負担が掛かり過ぎるのも、都合悪いでしょうし」
「だな」
頷き、坂又は城塞の配置図を見おろす。
「回復役がまったく居ない詰め所も残っているから、そこに数名ずつ別れて向かって貰おう。
そちらは、ここでの仕事については理解しているのか?」
「簡単には説明してます」
恭介は答える。
「詳細は、これから。
まずはこちらの状況を把握してから、と思いまして」
「説明は、こっちでやっておくよ」
彼方がいった。
「全体の方向性とかは、恭介が確認しておいて」
「それでは、三名ずつ、十組に分かれるとして、適当な詰め所はありますか?」
恭介が坂又に質問した。
「これから数名づつに別れて、別々の場所に配置されます」
彼方はみんなに説明する。
「仕事としては、単純。
運ばれてきた負傷者を、片っ端から治していく。
基本的には、患部を麻痺させて、消毒液をたっぷり掛けて、そのあとで回復術を使う感じになります。
もし想定外のことが起こったり、なにかわからないことがあったら、すぐにシステムを使ってトライデントの誰かに連絡して指示を仰いでください。
各自で勝手な判断をするよりは、他の人に責任を預けちゃってください。
あ、麻痺のスキル、まだ取ってない人は、今のうちに取っておいて。
このスキルについては、とりあえず最小限でいいです。
ポイントも、そんなにかからないはず。
ええと、そうだ。
それから、護身用として、全員、ZAPガンは身につけて、いつでも使用可能な状態にしておいてください。
チュートリアルがはじまるとこの城塞は、全域で臨戦態勢に入ります。
ここは、防備はかなり厚い場所になりますが、絶対に安全とは断言出来ません。
モンスターを発見した場合は、まずモンスターにZAPガンを斉射してから、助けを求めてください。
そうした際にも出来るだけ落ち着いて、間違っても人にZAPガンの銃口を向けないように、注意してください。
ここには聖女様はいらっしゃいます。
最悪の場合でも生き返ることが可能なので、くれぐれも落ち着いて、ミスのないように行動してください」
その後、新規参入者の行き先が決まり、彼方と遥が手分けして大量の消毒液を手渡しながら、三名ずつ別の詰め所へと割り振られ、人形に案内されて散っていく。
恭介はそのまま、坂又が居た詰め所に残ることになった。
全体の監督補助と、それに、いざという時ための予備戦力も兼ねて、ということだった。
「大丈夫なのか?
あっちから来た人たち」
坂又が、恭介に訊ねる。
「大丈夫、だと思います」
恭介はいった。
「仕事としては、単純な部類になりますし」
ただし、想定外のアクシデントなどが起これば、その限りではないが。
と、恭介は心の中でつけ加える。
もっとも、そのアクシデントに関していえば、こちらのプレイヤーにしてもどこまで即応出来るものか、定かではない。
その意味では、向こうから来たプレイヤーと、事情はあまり変わらないのだった。
あとは、今回のチュートリアルが無事に済むことを祈るだけだな。
などと、恭介は思う。




