求人活動
セッデスたちの妻子が住まう場所は何カ所かあり、現在、アイレスが向かっているのはその中でも一番近い場所になる。
そうしたセッデス勢の非戦闘員が住む場所は、ケレセッデスと呼ばれている、そうだ。
そこでは住居の他に若干の畑や日常用品を作るための工房なども存在している。
ただ、敷地的にも人数的にも食糧の生産量としては限られており、結局はフラナからの支援に頼るところが大きい、という。
「ただ、倉庫が使えるようになったので、これからは、少なくとも肉類が不足することはありませんね」
御者席のアイレスは、そんなこともいう。
倉庫の中には歴代のセッデスたちが倒してきたモンスターの死骸がそのまま保存されており、そして、倉庫に収納された物はどうやら時間が経過しない、という性質がある。
つまり、何十年保存されているようが鮮度はそのままだった。
そのすべてが食用に適しているわけではないのだが、保存されている量は膨大だったので、当面、少なくとも餓死の心配はないようだ。
「あそこに見えるのが、目的地になりますね」
アイレスは恭介たちに示した。
「一番近いケレセッデス。
ハシュウと呼ばれております」
恭介たちは現在、タンデという巨獣の背に乗っていた。
それなりの高さから、遠くの村を眺めている形になる。
「大きすぎもしないが、小さすぎもしない、かな」
恭介は、そんな風に感想を述べる。
ざっと見て、百戸以上の家がパラパラと点在している。
家と家の間が離れて見えるのは、間に畑などがあるからだろう。
のどかな生活をしているんだろうな、と、恭介は想像した。
「防壁なんかは見当たりませんが、モンスターが襲って来ることはないんですか?」
彼方が、アイレスに質問した。
「出現地点からこれだけ距離があくと、モンスターの方もまばらになりますからなあ」
アイレスは、そう答えた。
「モンスターに襲われることが皆無とはいいませんが、たまに村を襲ってきても、村の者が総出で対処します。
そういうことは、年に一度か二度、あるかないかで」
そんなもんか。
と、恭介は思う。
タンデは巨体で、大股にテンポよく足を動かして移動する。
歩幅が大きく、地面の高低差などで歩速が緩むこともなく、結果としてかなり速い移動速度となっていた。
体感で、時速四十キロ以上は出ているのではないか。
城塞を出てからすでに一時間以上は経っているので、確かにあの城塞からはかなり距離が空いている。
あの城壁を出たモンスターが、そのあと、どういう行動をするのか。
恭介は、想像してみる。
モンスターの種類にもよるのだろうが、動物型のモンスターについては、お互いを捕食対象と見定めて食い合いをはじめるのではないだろうか?
ここは、向こうの世界が森に囲まれていたのに比べ、草木がまばらな荒涼とした大地がどこまでも続いている。
あるいは、ここでたまたま生き残ったモンスターはこの地に定着し、そのまま生態系の一部に組み込まれているのかも知れない。
今、恭介たちが背中に乗っているタンデという巨獣も、モンスターとして出現した生物の子孫かも知れなかった。
タンデがハシュウ村の近くで足を止めると、アイレスは手慣れた様子で御者席から縄梯子を取り出し、それをタンデの背から地面に垂らした。
恭介たち乗客は、その縄梯子を伝って地上に降り、そして、何事かと興味を持って集まってきた村人たちに囲まれる。
「あー。
本当に、顔つきも肌色も、微妙にわたしらとは違うねえ」
「この人たちが、別の世界から来た人なのかい?」
「まだまだお子様に見えるけどけどねえ」
確かに、女性が多い。
男性も、まったくいないわけではないのだが、ほとんど老人か子どもに限られていた。
たまに見かける成人男性も、四肢の欠損など、外見からわかる障害を抱えているようだった。
ここが「非戦闘民」の居場所であるというのは、どうやら嘘ではないらしい。
「先に連絡しておいた通りだろう」
アイレスが集まってきた村人たちに向けて、大きな声を発した。
「この方々は、別の世界から来た戦士たち。
ここに居る小柄な方などは、こう見えて、決闘であのシュミセ様の首を一瞬で落としたほどの猛者である」
おお。
と、村人たちが一斉に感嘆の声をあげる。
「それで、今日、その猛者様たちがこの村に来たのは他でもない。
この村の中で、志望する者に助力を求めるためだ。
もちろん、相応の報酬は用意する」
移動中、恭介たちが各所に連絡をしていように、アイレスもシュミセ・セッデスやこの村に連絡を取って、簡単に事情説明をおこなっていた。
村人たちにどこまで伝わっているのか定かではなかったが、村の代表者くらいにはそうした主旨は伝わっているはず、になる。
「具体的な仕事内容は、城塞で負傷したセッデスの方々の治療になります」
彼方も、大きな声を張りあげる。
「回復術を取っていただき、その上で、必要ならばレベルあげにも協力する予定です」
「つまるところ、野郎どもの尻拭いなんだろう」
体格のいい女性が、村人たちの集団を割って前に進み出た。
「わたしは、狩人のスジャンっていうもんだ。
この村では、一番の狩人だと思っている。
弓の腕なら、城塞の野郎どもにも負けていない。
しかし連中は、わたしが城塞に籠もるセッデスになるのを拒んだ」
「古来から、そのようなしきたりになっておりますもので」
早口に、アイレスが補足説明をする。
「セッデスと名乗れるのは男性のみ、なのです。
女性は、その能力に関係なく、セッデスとは認められません」
「スジャンさん、といいましたっけ」
恭介が、前に進み出た。
「つまり、あなたは。
モンスターと戦いたいのですか?」
「モンスターとは、いつも戦っている」
スジャンはいった。
「この地に定着し、野生化した連中とな。
城塞の野郎どもと同じことをしているのに、こちらだけセッデスと認められないのは不公平ではないかと、そういっているんだ。
これは、昔から、主張していることだ」
「あなたの不満は理解出来ました」
恭介は頷いた。
「他に、同じような不満を持っている人はいますか?
いたら、名乗り出てください。
おれたちはこちらの習慣とは無関係に動いています。
要は、こちらが求める仕事をしてくだされば、その分の報酬は支払う。
ただそれだけの、ドライな関係です。
スジャンさんのようは腕におぼえがある方だけではなく、現時点で自分の実力に自信がない方も含めて、同じ条件で雇います。
ただ、実力がない方に関しては、一度、うちの世界に足を運んで貰って、レベリングという作業に従事していただく形になりますが」
集まった村人たちが、一斉にどよめいた。
ただ、実際に集まってきたのは、年端もいかない子どもたちが大半だったが。
「仕事ってのをすると、ポイントが貰えるの?」
「ポイントがあれば、おいしいものが食べられるよな」
「村に居ても、退屈なだけだし」
ほとんどが、十歳になるかならないかといった子どもたちであり。
「恭介、本当にいいの?」
彼方が、小声で恭介に確認する。
「ぼくたち、別に託児所を作るわけじゃないんだけど」
「ガキども、静かに!」
スジャンが一喝すると、集まってきた子どもたちがピタリと静まりかえった。
「お客人が困っているじゃないか。
あと、最低限、自分で自分の面倒を見られないやつは、次の機会にしな。
お客人だって、別に子守をしたくて人集めをしているわけじゃない。
そういうことで、いいね?」
恭介に向けて、そう確認してくる。
「的確な判断だと思います」
恭介はそういって頷いた。
「こちらの村で成人年齢がどうなっているのかはわかりませんが、今もおっしゃっていたように、自分で自分の面倒も見られない方に集まって貰っても、こちらでは対処のしようがありません。
それから、あまり年若い方に関しては、ご家族の承諾を得てから来てください。
われわれは、こちらの村と揉めたくはないので。
それ以外に、条件はありません。
性別も年齢も問わず、必要な仕事をこなせれば、働きに応じたポイントを支払います」
「そういうことなら」
顔を見合わせて、二人とか三人といった少人数の少女たちが、ばらばらと集まってきた。
恭介たち自身と同じような年齢の、つまりは十代の娘たちだ。
「この村で、すでに仕事を持っている人たちではないですか?」
彼方が、集まってきた少女たちに向けて確認した。
「労働力の引き抜き、みたいな形になるのも、こちらとしては困るんだけど」
「働き手の数は、むしろ余っています。
こんな小さな村ですので」
少女の一人が、彼方に答えた。
「この村に留まっていても、いつかは顔も知らない男の元に嫁がされるだけなので」
それよりは、恭介たちについていった方が、将来的には選択肢が増える。
と、そう踏んだのだろう。




