いくつかの、打開策
続いて四人は、アイレスに案内されて、別の先行組が駐留しているという場所に向かう。
「戦車とか乗り回していた人たちかな?
あれ、こちらのプレイヤーでしょ?」
歩きながら、遥がアイレスに確認する。
「左様でございますな」
アイレスはそう答えた。
「先ほどの聖女様と、銃術や砲術を指南してくださった方々、それに、先ほどのキャタピラーを操る方々。
今のところ、こちらに助力してくださっているのは、この三組になります」
「キャタピラー?」
彼方が、首を傾げる。
「戦車のこと?
確かに、履帯はキャタピラーと呼ぶこともあるけど」
「そうなのですか?」
アイレスも、小さく首を傾げる。
「センシャ、ですか。
あれを操っている方々は、マダム・キャタピラーと名乗っていますもので。
てっきり、あれがキャタピラーという名なのだとばかり思っていましたが」
「マダム・バタフライと履帯のキャタピラーを掛けたのかな?」
恭介が、そう指摘をする。
「多分、そういうパーティ名をつけたやつが居るんだろう」
近代兵器は全般にそういう傾向にあるのだが、近代兵器はとにかく、運用コストがかかる。
弾薬や燃料はもちろんのこと、戦車のような複雑な機構のものは、それにプラスして整備に人手がかかるはずだ。
恭介たちがチュートリアルに勤しんでいた時分、戦車などを持ち出したパーティが現れなかったのは、これが原因だった。
あの時点では、あの時点で戦車を買えるほどポイントを持て余していたパーティはいなかったのだ。
「弾薬とか燃料とか、ひょっとしてセッデス持ちだったりします?」
ふと思いついた疑問を、恭介はアイレスにぶつけてみる。
「そうなりますな」
アイレスは頷いた。
「なに、八十年に亘って溜め続けたポイントは、よほどのことがない限り蕩尽することも出来ません。
それに、ポイントを使った以上の成果は出ているので、今のところは問題もありません」
うまいこと取り入った連中が居るようだった。
おそらくは、生徒会がセッデスへの助力してくれるパーティを募った時、これを幸いと参入した連中になるのだろう。
結果的に役に立ってくれているのなら、いいのか。
恭介は、そう思うことにした。
「あれ?」
アイレスに案内された場所に着くと、すぐに遥が大きな声をあげる。
「宇田くんじゃない!」
「これはこれは」
遥に宇田と呼ばれた男子生徒は、うやうやしい口調でそう応じる。
「誰かと思えば、トライデントの皆様ではないですか!
今日は、何用あってこのような僻地まで?」
なんだか、芝居がかった言葉遣いだった。
おおよそ、今時の高校生らしくない。
「知り合い?」
彼方が、遥に確認する。
「元、クラスメイト」
遥は、宇田をそう紹介した。
「こっちに来た初日に、別れたっきりだったけど」
「なになに?」
「さきちっちにお客さん?」
油にまみれたつなぎの作業服を着た集団が、ぞろぞろと周辺の戦車から出て来る。
なぜか、女子が多かった。
「なにかと注目されている、トライデントの方々が来ております」
宇田は、大きな声でそう告げた。
「マジ?」
「あの、超絶強いパーティーの?」
「あとでサイン貰おうかな」
そんな声が聞こえて来る。
なんだか、ノリが軽い。
「それで本日は、どのようなご用件で?」
宇田が、恭介たちに向き直って、そう訊ねる。
「皆様がこんな場所まで来たということは、なにかしら大きな進展があったのだとは思いますが」
恭介たちは宇田が用意した椅子に座って、生徒会経由でセッデス勢のチュートリアルに協力することになった経緯から、順を追って説明した。
宇田だけではなく、戦車を運用しているマダム・キャタピラーというパーティのプレイヤーたちも、恭介たちを取り囲んでその説明を聞いている。
「そういうことでしたか」
一通りの説明を聞いたあと、宇田は、大きく頷く。
「それで、今日のチュートリアルを見学して、皆様方はどういう感想をお持ちになりましたかな?」
「セッデス勢の人たちは、それなりに柔軟だと思うよ」
代表して、恭介がそういった。
「宇田さんとかのアシストがあったとしても、これだけ短期間の間に近代戦のノウハウを取り入れられているわけだし。
ただ、ボトルネックになる要因なんかも、いくつか見つけたけど」
「そうでしょうなあ」
宇田は、いった。
「近代兵器で攻撃力はあがったものの、それ以外の部分はこちらではどうしようもありません。
なにせ、セッデスの方々は、ええと、好戦的でいらっしゃるので、敵を認めればすぐに飛びついていきがちで。
そういう心性については、こちらではどうにも干渉が出来かねます」
「平たくいうと、脳筋の戦闘民族ってことね」
「ねーちゃん!」
遥が指摘し、彼方がそれをたしなめる。
「アイレスさんの前だよ!」
「いえ、結構」
アイレスの方は、落ち着いたものだった。
「不当な非難というわけでもございませんしね」
このアイレスは、案内係ということだったが、おそらくは恭介たちにつけられた監視という意味合いも持っている、はずだ。
まあ、いいか。
と、恭介は思い、気にしないことにした。
ここで怒り出すような人なら、それまでだし。
と、割り切ることにする。
「その、ボトルネックだけど」
恭介が、口を開いた。
「さっき、結城さん、聖女様の方を見学してきたばかりなんだが。
彼女、ぼちぼち限界が近いかなあ、と。
回復術を使える医療チーム、急いで組織した方がいい。
ええと、アイレスさん。
こうした性格を持つ集団、セッデス勢の中から選抜して組織するのは難しい。
ということで、よかったですよね?」
「恥ずかしながら、その通りでございます」
アイレスは、恭介の言葉を首肯した。
「これからそうした組織を作るとなれば、セッデス勢以外から人材を求める方が早いかと」
「だとすると、人材の募集先は実質二種類。
あちら側のプレイヤーと、それに、フラナの人たち。
それくらいに、なるのかなあ」
「募集をかけるのはいいとしても」
アトォが、意見を述べる。
「条件次第では、フラナの人々も集まるかも知れません。
ただし、募集に応じた人たちがここに来るまで、かなりの日数がかかると思いますよ」
「転移魔法で、ぱっと来れないの?」
恭介が、アトォに訊き返す。
「転移魔法を使える者は、現状、限られていますし」
アトォが答えた。
「それに、あの術式は、基本的に世界間を渡るもので、同じ世界内の別の場所を繋げるような機能はありません」
駄目じゃん。
と、恭介は思う。
「それじゃあ、さ」
おずおずとした様子で、遥が、思いついた意見を述べる。
「たとえば、だよ。
フラナの人たちが大勢集まるような場所に、うちの拠点から転移魔法の経路を繋いで、同じように、この城塞内部にも、うちの拠点から経路を繋いでおけば。
うちの拠点を経由して、かなり気軽に行き来できるようになるんじゃない?」
「あ」
彼方が、声をあげる。
「うちの拠点を、ハブにするわけか。
いいな、それ。
この件がなくても、あとで手配してみよう」
「フラナ方面はそれでよしとして」
恭介が、話題を変える。
「アイレスさん。
セッデス勢の非戦闘民、ええと、戦闘に直接参加しない、女子どもなんかはどこに暮らして居ますか?
差し支えないようでしたら、そうした人たちが集まっている場所まで、案内していただきたいのですが」
「ほう」
アイレスは、複雑な表情を浮かべた。
「そうした者が暮らす居住地は、確かに存在します。
しかし、ここからですと少し距離がありますよ。
それに、そんな場所に出向いて、どうするというのですか?」
「もちろん、医療班になり得る人を募集します」
恭介はいった。
「どうやら、ここから一番近い、大勢の人が集まる場所は、そこになるようなので。
まずは、身近なところからはじめたいかな、と」




