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高校生150名が異世界廃墟に集団転移したようです。みんなは戸惑っているようですが、おれたち三人は好きにやらせて貰います。  作者: (=`ω´=)
接触篇

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VS結城姉弟(三)

「ハルねー」

 恭介がステルス状態を解かないまま、声をかけてきた。

「これからこれを使うから、うまくいったらこのロープ引っ張ってしばらく走って貰える」

「え」

 遥かは、恭介が手にしている物体を見て、絶句する。

「なに、これ」

「ロープの端にレンチを結びつけたもの」

「いや、そういうことではなくて」

「こう使う」

 恭介は端にレンチを結びつけた側を外側にして、ロープをぶんぶんとまわす。

 レベルアップによって筋力も速度も向上しているので、わずか二、三秒でレンチはとんでもない速度で円運動をするようになった。

 ロープも、かなり伸びている。

 ロープが伸びた先に、結城紬が居た。

 結城紬は、棒立ちになって決闘開始時の居場所から動いていない。

 多分、その場から動かなくてもスキルを行使出来るのと、それに、先ほど遥の攻撃を軽くいなしていたように、たいていの攻撃は自力で捌ける自信があるからだろう。

 その結城紬の股あたりの位置に、恭介の手元から伸びたロープが迫る。

 結城紬は、そのロープの気配を察知したのか、そちらの方に目線もやらずに、反射的な動きで杖でロープを払おうとする。

 杖の柄で軽く払われても、ロープはその場で折れるだけだった。

 先端のレンチはロープを結んだまま円運動を続け、結城紬の股あたりに巻きつきつつ、杖の柄もいっしょに巻き込み、ぐるぐると結城紬の股と足を何重にも戒めはじめる。


「え?」

 その時になってはじめて、結城紬は自身の下半身に起こった変事を自覚した。


「はい」

 恭介が、何事でもないように、遥にロープの端を手渡す。

「これ持って、しばらく走り回っていて。

 身動きが取れない状態であちこち引きずり回されれば、流石の聖女様も対処に困ると思うんだよね」

「ああ、うん」

 遥は、恭介からロープを受け取って、素直に頷く。

「そうするのが、いいのかも?」

 遥は、聖女である結城紬を無力化する方法として、倒すことしか思いつかなかった。

 それに対して恭介は、別のアプローチを提供してくる。

 つまり、

「すぐに倒せない存在ならば、しばらく、自分のことで忙しくさせておいて、相棒の勇者との連携を難しい状態におけばいい」

 と。

 有効か、有効でないかといったら。

 おそらくは、有効だとは思うけれど。

 よくもまあ、こんな手段を思いつくものだ。

 と、遥は呆れ半分に感心をする。

「おれは、ちょっと勇者対策してくるから」

 遥の内心を斟酌することはせず、恭介は軽い調子でそんなことをいって、その場を去る。

「しばらく、結城先輩を忙しくさせておいて」

 とりあえず、遥は走り出した。

「きゃぁぁぁぁぁぁー……」

 という、結城紬の悲鳴があとからずっと追ってくるわけだが、気にしないことにする。

 下半身をロープで戒められた上で、高速で引きずり回されるって、どういう気分になるんだろう?

 少なくとも、遥としては、絶対に、自分で体験したくはなかったが。


 ユニージョブ勇者である結城ただしと上位職領主ロードである彼方は、相変わらず接近と反発を繰り返しながら相手の隙をつこうと企図している。

 速度や俊敏性では結城ただしの方が上だったが、彼方の方もジョブの特性である防御力の高さと場慣れした感覚で、うまく結城ただしをあしらえていた。

 微妙なバランスで、かろうじて、均衡している形ではあったのだが。

「こんなの、あまり長く続いても困るなあ」

 内心で彼方は、そんな風に思っていた。

 パラメータ的に格上の相手と正面からやり合うのは、とにかく集中力が必要となる。

 正直、とても疲れる。

 あまり長く続けたくなる、ようなもの、ではなかった。

 結城ただしとこうしてどつき合いをはじめてわずかに数分しか経っていないはずであるが、その短時間だけでも、彼方はかなりの疲労を感じていた。

 などと思っている時に、突然、異変が起こる。

 彼方から距離を取った結城ただしが、なぜか、白い泡にまみれたのだ。

「泡?」

 なに、それ。

 と、彼方もとまどう。

 いや、きっと。

 恭介が、またなにか仕出かしたのだろうけれど。

 しかし、なんで泡?

 なんの泡?

 頭の中で疑問が渦巻く彼方の前で、結城ただしの全身は泡にまみれていく。

 頭部が、特に多くの泡にまみている感じだ。

 視界を塞ぐ。

 同時に、ああ、窒息狙い、って手もあるな。

 彼方は、目まぐるしく頭を働かせて、姿が見えない恭介の手口を推測していく。

 となると、あれは、消化器か。

 泡消火器は、炎を包んで酸素の供給を絶つ原理のはず。

 それを顔面に厚く浴びれば、流石の勇者様もしばらくは戦闘不能になるはずだ。

 よくもまあ、こんな悪辣な手口をほいほい思いつけるものだ。

 彼方は味方の、悪い意味での臨機応変ぶりに感心する。


 なに?

 なに?

 なに?

 これ、一体どういう状態?

 下半身をロープで戒められた状態で、地面を引き回されている。

 そのことは、理解出来ている。

 だけれど、どうしてそんなことをしているのか。

 その動機が、理解出来ない。

 確かに、身動きを封じられて高速で引きずり回されていれば、あちこち、地面に擦れた部分が傷になる。

 だが、その程度の傷なら、今の自分なら、すぐに回復可能だ。

 時間稼ぎにも、ならない。

 これでは、相手にとってもあまりメリットがないのでは?

 この状態では、絶えず自分の傷が出来て、それを癒やすために他のことをする余裕はなくなるけれど。

 そこまで思考して、ようやく結城紬は相手の意図に思い当たる。

 ああ、そうか。

 それが狙い、か。

 結城紬を、自分のことで目一杯の状態にして、相棒の結城ただしの支援を不可能にする。

 いささか迂遠ではあるものの、狙いとしては理解可能だった。

 だったら自分は、このロープを切って……と、そこまで思考をしたところで、結城紬の意識は別のことに占められる。

 突如、自分の体が宙に舞い、大きな弧を描いて回転しはじめたのだ。

 なんだ、この状態は。

 結城紬は、ひたすら、戸惑った。

 この状態で足元のロープを切れば、結城紬の体は遠心力により明後日の方に飛んでいくはずだ。

 多少の負傷をしても、すぐに回復は可能だ。

 そのことには自信があったが、同時、頭部でも強く打ち、一時的に意識を失いでもしたら。

 少なくとも、自力では、その状態から回復する自信がない。

 聖女のスキルは、基本的に、

「本人の意思により行使するもの」

 であり、自動的に発動する性質は持っていない。

 少し前に感じていたよりも、今の自分は、かなり危機的な状況にあるのではないか。

 結城紬がそんな風に思った時。

 全身に、大きな衝撃を感じた。


「これを」

 彼方は、戸惑いつつも、遥から手渡されたロープを握る。

「こうして」

「そうそう」

 遥は、頷く。

「あんたの力で、思いっきりぶん回して」

 遠心力に耐えきれず、ロープが千切れたとしても、その時はその時だし。

 結城紬を引きずって走り回ることに飽きた遥が、彼方にロープの扱いを任せたのだった。

 遥よりも力がある彼方は、結城紬の体を末端につけたまま、ロープを軽々と振り回す。

「で、いつまでやってればいいの?

 これ」

 彼方が、遥に訊ねる。

「そうね」

 遥は、少し考え込んだ。

「一度、勢いをつけてから、勇者様にぶつけてみて」

 姿を現した恭介が、遥の代わりに答えた。

「耐久度的に、勇者様の方はともかく、聖女様の方は気を失ってくれるかも知れない。

 あくまで、予想というか希望的観測だけど」

「なるほど」

 彼方は頷いた。

「イメージ的には、勇者よりも聖女の方が脆そうではあるよね」

 彼方は、躊躇うこともなく何度か高速で結城紬を振り回してから、勇者の胴体にぶち当てた。

 顔の泡を取ろうと藻掻いていた勇者は、横方向から来た不意の衝撃に耐えきれず、そのまま数メートルほど吹っ飛び、しかしすぐに起きあがった。

 聖女の方は、うまい具合に気を失ったのか、地面の上に寝そべってぐったりとしていて、動く様子がない。

「まあ、この程度では、勇者は倒れないよね」

 彼方は、冷静な口調でそういった。

「ちょっと、おれが勇者様の相手をしてみる」

 恭介はそういって、起きあがった勇者の方に歩きはじめた。

「確認なんだけど、この辺、まだ彼方の領地になっているんだよな?」

「そうだね」

 彼方は、反射的に頷いている。

「聖堂の方は、銭湯にするっていってた聖女に譲ったけど。

 それ以外の場所は、まだぼくの名義だったはず」

「ちょっと!」

 遥が、恭介に文句をいった。

「また危険なこと、するつもりじゃないでしょうね!」

「危険はないよ、これは決闘だし」

 恭介は即答する。

「このまま三人でタコ殴りにすれば、いくら勇者様でも沈めることは出来ると思う。

 でもそれだと、勇者様が納得出来ないでしょ。

 だからここは、一度おれに任せてくれないかな」

 そういいつつ、恭介は自分のシステム画面を開いて、ジョブを「野戦士」に変更した。

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