魔法談義
「スキル、というナニカも、今の段階ではあまり理解出来てないのですが」
アトォは、続けた。
「こちらの方は、スキルとしての魔法と物品をうまく結合して、実用的な品をよく作っていると思います。
空を飛ぶ際には、箒とか板状の物品をうまく使っていますし、それに、行く先々で見かけた、大量の、勝手に動く木人形たちとか」
「ああ、それは」
仙崎が頷いた。
「今は酔狂連の人たちもいろいろやっているけど、最初にはじめたのは師匠だね。
彼方師匠の、杖が最初だ」
「そだねー」
赤瀬が、その言葉に頷く。
「師匠が杖の作り方を教えてくれなかったら、わたしら全員、いまだにモブプライヤーのままだったろうし」
「カナタ様が最初、なのですか?」
アトォが、首を傾げる。
「他に、同じようなタイミングで同じようなことをやっていた人がどこかに居たかも知れないけど」
青山がいった。
「真っ先にいろいろなスキルを試して、実用的なアイテムを使ったのはこの彼方師匠になるね。
これまでのところ、確認されている限りでは」
「ついでにいうと、わたしたちの世界には魔法もスキルも存在しない」
緑川が補足した。
「他のみんなが、わけもわからずに戸惑っていた時点で、実際に動いてそれなりの成果を出していた師匠ズは、素直に凄いと思う。
わたしたちは、結局、そのフォロワーでしかない」
「そう、ですか」
アトォは頷いた。
「こちらのお三方は、立派な方々なのですね」
「立派、という形容の意味によるかなあ」
恭介がいった。
「とりあえず、ポイントを集めると有利になるってルールは理解出来たんで、効率よくポイントを集めるために動いていただけだよ。
結局、そのルールを一番よく理解して効率よく動いていたのは、この彼方になるわけだけど」
「スキルの組み合わせと、それにプラスアルファで、どうすればポイントを巧く集められるのかって考えると、自分自身で動かないと集められないようだとすぐに限界になるな、ってわかったから」
彼方は、簡単に説明する。
「自動でポイントを集めるためにどうすればいいのか、って考えた。
最初のジョブに罠師を選んだもも、錬金術のスキルを取って杖を作ってみたのも、結局はその目的に沿って動いただけで。
あの時は時間制限のことまで頭が回らなかったから、とりあえず試してみてうまくいきそうな方法で進めた。
って、感じになるかなあ。
杖を作ってみたのは、スキルをそのまま使っても、想像以下の威力しか出なかったからだし。
だったら、この膨大なスキルの中に、魔法の威力を増大させるための方法が潜んでいるんじゃないかと考えて、いろいろ試したから。
幸い、錬金術で魔石を精製する方法を早めに見つけられたから、結果としてかなり助かったわけだけど」
「あんな場面でもゆっくりと考えられるっていうのが凄いよな」
恭介は、素直に感心した。
「おれなんか、目の前のモンスターにどう対処するか、しか、考えていなかったのに」
「それはそれで、意味はあったでしょ。
罠師のスキルでポイントが入りはじめるまでは、恭介の稼ぎに依存していたわけだし」
彼方は、そう答えた。
「パーティ内での役割分担、でしかないよ。
それに、恭介が後方でなにか作る役割だったとしても、ぼくとは別のアプローチでなにかしらやらかしていると思うし。
いや、恭介の場合、杖なんか使わなくても魔法の連発でゴリ押ししていた可能性もあるのか。
でもそれだと、属人性が強くて他の人には真似出来ないから、あまり発展性はなくなるかな」
「結果として、馬酔木師匠の方が魔法の使い方を最初に試す役割でなくて、よかった、と?」
仙崎が、そうまとめる。
「もしも、そうなっていたとしたら」
彼方は、そう答えた。
「恭介個人だけが無双する展開になっていたと思うんだよね。
なんでも、恭介は魔法関連の効果が他の人に比べ、かなり威力が大きくなる体質だそうだから」
「そう、なるでしょうね」
アトォは、恭介の方をまじまじと見ながら、彼方の言葉に頷いた。
「キョウスケ様は、そちらの適性があり過ぎるくらいですから」
「アトォちゃんから見ても、そう感じるんだ」
遥がいった。
「わたしら、魔法なんてない世界から来たから、ほとんどそっち系の素養がないんだけど。
でも、このキョウちゃんに実際に魔法を使わせてみれば、とんでもない威力が出ているわけで。
そういうところから判断すると、そういう体質なんだろうな、って結論になっているわけだけど」
「体質というか、なんというか」
アトォは、視線あらぬ方向にさまよわせた。
「これを体質の一言で済ませられると、そこまでには及ばない師匠なんかは激おこで地団駄を踏むと思いますけど。
ええと、体質は体質で間違いはないと思いますけど。
ただそれにも限度というものがありまして」
「つまり、うちのキョウちゃんは、常人の枠には収まっていない、と」
遥が確認する。
「魔法の素質的に」
「はい」
アトォが、遥の言葉に頷く。
「常人の枠内、ではありませんね、どう見ても。
ええと、普通なら、まず見ないくらい。
もっというと、十世代に一人か二人、出るか出ないかというくらいの逸材だと思います。
あくまで、素質だけなら、ですけど。
こちらの偉大なる精霊様に見初められるのも納得、といいますか。
審判者を求めて走査した際、真っ先に引っかかったのも道理、といいますか」
「そこまでか」
恭介本人が、そう呟く。
「それ、大袈裟にいっていない?」
「むしろ、これでもいい尽くしきれていない、というか」
アトォはいった。
「ただ、あくまで素質は素質ですからね。
こちらの魔法の使用法はかなり癖があるので、単純に比較は出来ないのですが。
ええと、キョウスケ様のような素質の者がわたしのところで生まれていたとしたら、幼少時から監視がついて一生いいように酷使されます」
「とりあえず、そちらに生まれないでよかったよ、おれ」
恭介は、そう応じておく。
「そこまで凄いと、最早才能を通り越して呪いだなあ」
「そうですね」
アトォは、その言葉に頷く。
「ここまで凄いと、希代の梟雄になるか欲望に忠実となって非道の限りを尽くすか。
他の人からはそういう存在だと見なされて、警戒されることになります。
才能というよりは、呪いに近いでしょう」
「なんだかなあ」
恭介は、ぼやいた。
「おれ、たまたま魔法がない世界に生まれてよかったよ」
「そもそも、魔法ってなんなの?」
遥が、アトォに訊ねる。
「こっちの人たちは、わけがわからないって頭抱えているところなんだけど」
「わたしたちの間では、本来あってはならない力であると、そのように認識されています」
アトォは、そう説明する。
「各所に偏在する霊とか、それ以外のモノも。
ヒトが住む場所とは違った論理で動くチカラ、その総称といったところですか」
「やっぱり、異質な存在なんだ」
彼方は、そういって頷いた。
「こっちの別レイヤー理論と同じような認識なんだな。
アトォの方では、その異質なチカラをどうにかして制御する方法を構築して来た、ってことでいいのかな?」
「完全に、制御出来る性質のモノでもないんですけどね」
アトォは、そう続ける。
「長い時間、何世代も試行錯誤を繰り返しで、どうにか今の時点まで練りあげた、ということろですか」
「そちらでも、全貌はわかっていない、って認識なのかな?」
恭介が質問した。
「全貌なんて、とんでもない」
アトォは即座にいった。
「ようやく、性質や使用方法の一端が判明した程度ですよ」
「世代を重ねて研究してもその程度なら」
彼方がいった。
「ごく短期間しか触れていないぼくらなんかでは、なにもわからなくても仕方がないね」




