審判
こうして背景が明らかになってくると、シュミセ・セッデス側が根本的に抱えている焦りについても、理解が深くなる。
彼らは、人数的には少数派であり、民族的なアイデンティティの危機を常に抱えているわけで。
転移してから最初に与えられた目的、「出現するモンスターを殲滅せよ」、という目的を放り出してしまえば、周囲を取り囲む異民族に、あっという間に取り込まれ、吸収されてしまう。
彼らが「戦士」であることに拘りを見せるのも、相応の理由があるようだ。
常にそういう矜持を抱いていないと、自分たちが自分たちではなくなってしまう恐怖を抱え込んでいるのだろう。
と、恭介は、そんな想像をする。
「ええと」
恭介は、いった。
「儀式だか審判だとかの内容、つまり、なにを目的としてこんな大掛かりなことを実行したのか。
その事情を、今一度、確認したいのですが」
実は、ここまで事情を説明された恭介は、大方の事情は推測していた。
しかし、小名木川会長をはじめとする生徒会の面々の前で、当事者の口から説明して欲しかった。
「目的は、フラナ・トオ・ファンの一党にも、モンスター退治のお手伝いをさせていただく。
その許可を、セッデスの郎党側から正式に受けることになりますね」
アトォ・フラナが即答した。
「これまで、つまり、八十年前。
セッデスの郎党が彼の地に現れた時、彼らは自分たちは戦うことしか知らないと、そういいました。
それでは、食料その他、生活に必要な物資をこちらが供給する代わりに、毎日定刻に出現するモンスターと戦う仕事を請け負って貰おう。
そういう契約を、結んでおります。
これまでは、それで十分だったのですが」
「なにか、事情が変わりましたか?」
彼方が、訊ねた。
「セッデスの郎党だけでは、間に合わないようになった、とか?」
「間に合わないのは、最初からなんですけど」
アトォ・フラナは、そう答える。
「契約当時から、セッデスの郎党が始末出来たモンスターは、全体のうちの、四割から五割ほどで。
フラナ・トオ・ファンの一党も、別にそれでよいと思っていました。
そこから逃げ延びたモンスターは、邪魔になれば自分たちで始末するだけですし。
元から、わたしたちはそうして来たわけですし」
「じゃあ、今になって、強引に割り込もうってしているのは、何故なん?」
今度は遥が、訊ねる。
「フラナさんたちとしては、モンスターとかは邪魔になれば狩るし、邪魔にならないようなら放置する。
そういう、方針だったわけでしょ?」
「最近、ええと、ここ数年、ですね」
アトォ・フラナは、言葉を選びながら、答える。
「出現するモンスターが、目に見えて大きく、強くなって来ました。
セッデスの郎党だけでは、対応出来ないモンスターが、多くなって来たのです。
それが、一番の理由になりますね。
こちらとしても、あんまり大きいのにあちこちを闊歩されると、それだけで生活空間が壊されるわけでして」
「明らかに、セッデスさんたちだけでは、処理能力が不足した状態になって来ていたわけですか」
彼方は、アトォ・フラナの言葉に頷く。
「こちらも、後半になるに従って、強い、モンスターが出て来ましたからね。
百年もクリアをせずにだらだらやっていれば、運営側もしびれを切らすか」
「公平を期するために確認しておきますが」
恭介は、シュミセ・セッデスの方に顔を向けて訊ねた。
「こうした経緯に、間違いや修正したい部分はありますか?」
「ないな」
シュミセ・セッデスはいった。
「おおむね、その通りであると認めよう」
「いや、でも」
遥は、シュミセ・セッデスに訊き返す。
「自分たちの手に余る。
って認めているんならさ。
なんで、フラナさんたちが手を貸そうっていってるのに、それを拒否するのよ」
「フラナ・トオ・ファンの一党だけで対応が可能であると、そう判明してしまえば」
シュミセ・セッデスは、そう答えた。
「われらセッデスの郎党は、存在意義を失ってしまうではないか」
「別に、セッデスでなくなっても、いいじゃん」
遥は、そうコメントする。
「フラナさんたちに混じって、いっしょに生活すれば」
「その理屈は理解出来るが、だからといって、そうしたくはないな」
「だから、それはなんで?」
「強いていえば、そうだな」
シュミセ・セッデスはそこで言葉を句切り、
「自身が、セッデスであることの、意地というやつだ」
と、返答する。
「ああ」
遥は、頷いた。
「馬鹿馬鹿しい。
ちょっと、わたしには理解出来そうにない」
「で、セッデスさんたちは、その意地とかを賭けて審判の儀式に臨み、結果、フラナさんに負けました」
彼方が、そう続ける。
「こういう結果が出た以上、今後は、どうするおつもりで?」
「どうもこうもない!」
シュミセ・セッデスが声を大きくする。
「負けた以上、フラナの一党と協働して動くことは認めるしかない。
その上で、こちらで知った新たな技、兵器、魔法などを駆使して、最後まで戦い抜く。
それしか、ないであろう!
聞けば、出現するモンスターをすべて屠った暁には、ダンジョンとやらが出現するというではないか!
で、あれば!
セッデスの戦いは、まだまだ続くことになる!」
「そのダンジョンの出現、なんですが」
恭介は、冷静に指摘をした。
「こっちでは、そうなった。
それは、事実です。
しかし、そちらでも同じ現象が起こるとは、限りませんよ」
「そうなのか!」
シュミセ・セッデスは驚愕とした表情で恭介の顔を見返す。
「それは、なにゆえ!」
「なにゆえ、と訊かれましても」
恭介は、そう答える。
「百五十名を異界に放り出すような存在の思考なぞ、まともに読めるもんですか。
あくまで相手次第であり、相手がこちらの予想通りに動いてくれる保証など、どこにもない。
そういう、ことです」
「む、むむ」
シュミセ・セッデスは呻いた。
「その時になってみなければ、どうなるかは判然としない。
そういう、ことなのか?」
「そういう、ことなのです」
恭介は、そういって頷いた。
「あまり、希望的な観測に縋らない方が、身のためかと」
「フラナ・トォ・ファンの一党としては、どちらでも構いませんけど」
アトォ・フラナがいった。
「日々出現するモンスターは、脅威であると同時に恩恵でもあります。
それまで、その地に居なかった動物が出現して、番い、生殖して増えていくわけですから。
そうして居着いたモンスターは、他の動物とかわりません。
わが一党にとっては、資源となります。
そうした事情は、ダンジョンとやらでもさして変わらないと思います」
「あー」
小名木川会長が、そういった。
「もろもろ、理解が追いついていない部分も、あるんだけどね。
当面の結論としては、セッデスとフラナの両勢力は、協力してチュートリアルのクリアを目標とする。
ということで、いいのかな?」
「異論はない」
「そうなりますね」
シュミセ・セッデスとアトォ・フラナは、そういって頷いた。
「そのあと、どうなるかわからぬ以上」
「この時点であれこれと想像を逞しくしても、無駄であるかと」
「了解した」
小名木川会長も、頷いた。
「審判うんぬんは、そちらとこの馬酔木が勝手にやっていることだから、生徒会としては干渉する立場にない、と。
で、だ。
すると、セッデスとフラナ。
この二勢力は、こちらの生徒会とどのような関係を築きたいのか。
いや、敵対関係と答えられても、困るんだけどね。
てか、そもそも。
根本的な疑問として、今後も、あちらの人たちがこっちに来るようなことは、あるの?」
「こちらと出入りをすることは、可能か不可能かといえば、可能です」
アトォ・フラナは明言した。
「伝聞に近かった儀式のやり方も、此度のことでその有効性が確認されたわけですから。
術式の研究も進み、今後はより円滑な形で通行が可能となるはずです。
無論、そのための魔力は、必要となるわけですが」
「ええと」
遥が訊ねた。
「その、世界を渡る儀式、みたいなもの。
向こうで使える人、多いの?」
「数名は、居ますね」
アトォ・フラナは即答する。
「今後は、もっと増えることでしょう」




