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高校生150名が異世界廃墟に集団転移したようです。みんなは戸惑っているようですが、おれたち三人は好きにやらせて貰います。  作者: (=`ω´=)
ダンジョン篇

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188/401

異変源

 恭介は今、上空十メートルほどの位置を浮遊ボードに乗って牽引されていた。

 浮遊ボードとは、比較的最近、魔法少女隊が実用化したアイテムで、同じ空を飛ぶ道具でも推進力に主眼を置いた箒とは違い、姿勢の制御や安定性を重視した「空を飛ぶためのアイテム」になる。

 ボードそのものには推進力はほとんどなく、強いていえば、重心を変え、ボードを傾けたりすることでその方向に移動する。

 この運動は、魔法の句力によって相殺された、緩やかな落下の一種でしかない。

 つまりこの浮遊ボードは、同一位置にずっと居続ける時くらいにしか、実用的な価値はなかった。

 と、されている。

 なぜ、その浮遊ボードに乗ったまま、腰にロープを結んで牽引されているのかというと、恭介自身は地上の様子を見て、大きな遮蔽物を見つけたら、その度にZAPガンなどでそれを排除する仕事に集中をしていたから、ということになる。

 もともと、恭介はこれまであまり空を飛ぶ機会が多くはなかったし、箒に乗り、自分でそれを操作して移動しながら、地上の様子までモニターして適宜必要な作業をおこなう、などという作業も並行して実行可能なほど、器用でもなかった。

 そこで、彼方が乗る箒に牽引されつつ、地上の遮蔽物処理作業を黙々とおこなう、という、今のスタイルになる。

 森の外に続く道、といっても、正確には、道の残骸、であり、風化により路面は凹凸の激しい状態になっているし、それ以外に、倒木や下から持ちあがった根などによって、半ば森に浸食されているような有様だった。

 道に状態は、ある程度までは許容するしかないのだが、あまりにも大きな遮蔽物などがあれば、後続の車両組のために除去しておいた方がいい。

 そうしておかないと、何度も遮蔽物を始末するため、足を止める必要が出て来る。

 他の、恭介以外の空中移動組は、箒に跨がって空を飛びながら、周囲を警戒していた。

 これまで、プレイヤーの活動範囲は市街地を中心にして、そこからわずか数キロ圏内に限定されていた。

 いや、ほとんどのプレイヤーは、市街地内部から出ることなく、生活している状態であり、市街地から離れた拠点に居住している恭介たちの方が、少数派になる。

 これまで、ここまで市街地から離れた場所に来たプレイヤーは皆無であり、だから当然、なにが起こってもいいように、警戒はしておく必要があった。

「とはいえ」

 恭介を牽引していた遥が、システムを介して通信で伝えて来た。

「今のところ、視界に入る限りは、ずっと森が続いている感じだね。

 代わり映えしない、っていうか」

「あの市街地を作った連中は、今では完全にこの近くから引き払っているっていうことかな?」

「多分、ね。

 なにか、人工物の痕跡らしきものとかも、今のところ、眼に入らない」

 恭介が確認すると、彼方が答える。

「なんらかの遺跡みたいなのが他に残っていたとしても、それももう森に飲まれていると考えるのが、発想としては自然だろうね」

 もしそうなら、その遺跡のありかを探し出し、本格的に調査するのは、当分は無理そうだな。

 と、恭介は考える。

 なんといっても、手間がかかりすぎる。

 その割に、その調査によって得られるリターンが少な過ぎる。

 多少、市街地を作った連中について知れたとしても、それによる実利はほとんどなかった。

 だから、他のプレイヤーも、積極的に協力してくれることはないだろう。

「一度、休憩しないっすか?」

 赤瀬が、通信で提案してくる。

「お客さんたちが、かなりグロッキーな状態なんで」

 だろうな。

 と、恭介は思った。

 悪路を走行する車に長く乗り続けられるのは、三半規管が強い、ある種の適性がある者だけだ。

 恭介たちが乗っていた時は、市街地と拠点の往復をするくらいだったから、比較的短時間で済んだのだが。

 今回は、拠点を出てから、すでに一時間以上は経過している。

 むしろ、今までよく保ったと、そう判断するべきだろう。


「いやあ、寒い寒い」

 休憩場所に集合してから、遥がいった。

「上空、プラス、高速移動で、どんどん体温を持っていかれるね。

 アドバイス通り、暴風対策きっちりしておいて、正解だったわ」

 空中移動に関しては、一日の長がある魔法少女隊のアドバイスが参考になった。

 それでなくてもここ最近、冷え込みが強くなっているのだ。

 野外活動をする際には、使い捨てカイロを服の中に入れるのがデフォルトになっている。

「最近、なんか、いよいよ冬って感じになってますよねえ」

 今度は魔法少女隊の青山が、口を開く。

「この世界にも、どうやら季節はあるようで」

「マーケットがあるから、冬ごもりの支度をせずに済んでいるよな」

 オフロードバイクから降りた八尾が、そういった。

「食糧まで自力調達しなければならない仕様だったら、ほとんどのプレイヤーは今頃詰んでいる。

 動物を狩るにしても数に限りがあるだろうし、それに、栄養が偏りすぎる。

 一冬越せるだけの、人数分のカロリーを、短時間で調達することは、事実上、無理だろう」

「マーケットがあるから、ダンジョン攻略にかまけていられるって側面はあるな」

 恭介も、その言葉に頷いた。

「ポイントさえあれば、飢えることはない。

 その分、他のことを考える余裕が出来る」

 この強制転移事件の、奇妙で、かつ、微妙に合理的な点だった。

 恭介などが、

「この件を仕組んだ何者かは、明らかにおれたちを誘導しようとしている」

 と考える、一因となっている。

 少なくとも、無作為な自然現象だとは、考えられなかった。

「現地民の人、いや、種族的には、ヒトではないかも知れないけど。

 とにかくここの、地元の人たちとコンタクトはしてみたかったなあ」

 彼方がいった。

「好奇心だけではなくて、知識や技術の交換は、出来ると思うんだよね。

 地元の人なら、農耕のノウハウなんかも、豊富に持っている可能性が高いわけだし」

「知的な生命体が存在したとしても」

 恭介は、その希望に水を差すようなことを、あえて口にする。

「会話が出来ないかも知れないぞ。

 それどころか、本格的に敵対する可能性も、大きい」

「言語に関しては、そりゃ、最初のうちは苦労するだろうけど」

 彼方は、そう続ける。

「なにより、こっちには豊富な、ほぼ無尽蔵ともいえる物資があるから。

 根気よく交渉すれば、交易と交流は可能だと思うね。

 こちらのプレイヤーも、底あげがうまくいって、弱い人が少なくなっているところだし」

 彼方は、実力行使による交戦の可能性を認めた上で、さらにその先の展開を予想しているらしい。

 それまで交流がなかった集団が接触した時、交戦は、ほぼ避けられない。

 というよりも、実働戦力に乏しい集団は、それだけで足元を見られるし、最悪、隷従を強要される。

 今のプレイヤーたちならば、よほど強い集団が相手でなければ、おくれを取ることはないだろう。

「まあ、それも、相手が居ればってことだなあ」

 八尾が、そうまとめた。

「今のところ、影も形も、気配すら、感じないが」

 そういい終えた時、唐突に、森がざわめいた。

 拠点とは反対側の、つまり、恭介たちが向かっている方向の森から、おびただしい数の鳥が一斉に飛び立ち、一瞬、その方向の空が黒くなる。

 音などの異変は、誰も感じなかった。

 空に飛び立った鳥たちは、そのまま四方に飛び去っていき、空はすぐに元通りになったのだが。

「あそこでなにが、起こっている?」

 恭介は、疑問を口にした。

「ハルねー。

 なにか、感じた?」

「ここからだと、なにも感じなかったね」

 遥が即答する。

「鳥が飛び立ったのは、何キロか先みたいだし。

 わたしの察知も、流石にそこまでは届かないよ。

 なんなら、ひとっ飛びして、様子を見てこようか?」

「いや、いくんなら、全員で、だろう」

 恭介はいった。

「なにが起きているのかわからない以上、少人数に分けるのは得策ではないと思う。

 急いで対処する必要も、なさそうだし」

「あるいは、すでに手遅れになっているか、だよね」

 彼方は、そういって頷いた。

「森に住む動物たちが、遠い場所まで移動したくなるなにかが。

 どうやら、起こっているようだけど」


 十分な休憩を取ってから、一行はさらに先に進んだ。

「うーん。

 この近く、だとは思うんだけどなあ」

 空を飛び続ける遥から、通信が入った。

「ただ、上空から見た限りでは、なんにも見つからないね。

 いつもの森のまま、っていうか」

「どうする?」

 彼方が、同じく通信を介して確認してくる。

「森の中を歩いて、なにかないか捜してみる?」

「いや、そこまで……」

 する必要はないだろう。

 そう続けようとした恭介の言葉は、唐突に割り込んできた緑川の通信によって遮られる。

「大きな魔力源、見つけた」

 緑川が、平坦な口調で、そう告げる。

「かなり遠く、でも、ここからでも、そうとわかるほど、大きな魔力。

 こんな現象、前例がない。

 様子を見にいくことを、強く推奨する」

「だ、そうだ」

 恭介はいった。

「その近くまで道なりにいって、近くまで出たら、そこから森に入ろう」

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