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高校生150名が異世界廃墟に集団転移したようです。みんなは戸惑っているようですが、おれたち三人は好きにやらせて貰います。  作者: (=`ω´=)
ダンジョン篇

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亥のダンジョン攻略

『亥のダンジョンが攻略されました』


 当然のことながら、そのアナウンスは訓練を受けている者も全員、聞くことになった。

「ふぁ?」

「え?」

「うそ」

 反応は、それぞれだった。

「一体誰が?」

「おれたちが全員、ここに揃っている今」

 奥村が指摘をする。

「出来そうなやつは、一人しかいねーだろ」

「そういえば」

「宙野さんたちはいるけど」

「あと一人が、居ない」

「先輩」

 新城が確認する。

「馬酔木くんは、どこに」

「わたしは、反対したんだけどね」

 遥は、渋い表情をしている。

「あの馬鹿、仲間を傷つけかねないなら、一人でいく方がマシだって」

「実際、あのダンジョンは、一人の方がなにかとやりやすいところだったしね」

 彼方も、複雑な表情で、そういい添える。

「十分に育ったプレイヤーが何度でも挑めば、いつかは攻略出来る。

 現状だと、一番可能性があるのは、恭介だ。

 反対する理由はあるけど、それ以上に賛成するべき理由が多かったんだ。

 なんというか、すっごい不本意だけどね」

「一人で、って」

「それ、大丈夫なんですか?」

「いや、大丈夫じゃなさそうだったら、連絡が来るはずだから」

 遥は、そう応じた。

「今の時点でキョウちゃんからなにも連絡が来てないってことは、どうにか一人で帰って来られる状態なんでしょ。

 多分、かなりボロボロにされていると思うけど」


 アナウンスから約一時間後。

 遥が予想していた通り、恭介がかなりボロボロにされて拠点へと帰還した。

 コートは着用していたものの、そのコートを脱ぐとかなり悲惨な状況だった。

「かなり苦戦したみたいだね?」

「そう、みたいだな」

 彼方の問いかけに、恭介は他人事のように答える。

「例によって記憶がないから、推測だけになるけど。

 自力で歩けるようになるまで、二十分くらい回復術を使うはめになった」

「連絡して、呼んでくれればよかったのに」

 遥が、口を尖らせる。

「いや、こっちはこっちで、忙しいでしょ」

 恭介は、そう答えた。

「回復術で治らない傷でもなかったし、自分で治した方が手っ取り早かったよ」

 そんなやり取りを、同じように出迎えた訓練を受けている三パーティ、訓練をしていた魔法少女隊も目撃する。

「いつも、こんな感じなんですか?」

 新城が、傍らの魔法少女隊の方に顔を向けて、訊ねる。

「いつも、ではないですけど」

 仙崎が、代表して答えた。

「なにか立案するのは、馬酔木師匠で。

 あとの二人は、なんだかんだいいながらも、それに従う感じ、ではありますね」

 慎重に、言葉を選んでいる態度だった。

「こいつら、歪んでるな」

 奥村が、吐き捨てるような口調で、そういう。

 その場に居合わせた誰もが、その言葉を否定出来なかった。


「いや、だって。

 あのダンジョン。

 他に、攻略出来そうなパーティなり、プレイヤーなりがいなかったからさあ」

 その直後、夕食の席で、恭介はそう答える。

「だったら、自分でやるしかないかなあ、と。

 いつまでも、攻略が滞るのも問題があるし」

 ダンジョンは、プレイヤーのレベリングをする道具でしかない。

 そういう説を唱えていた恭介が、そんなことをいう。

「ひょっとして」

 坂又が、確認した。

「すべてのダンジョンを制覇したプレイヤーの願いをなんでも聞いてくれる。

 あんな御託を、本気に受け止めているのか?」

「いや、そこまで、本気にしているわけではないけどね」

 恭介は、答えた。

「それでも、万が一ってことがある。

 何事も、実際に試してみないことには、正誤の確認も出来ない。

 ひょっとしたら、全員で元の世界に帰れるかも知れないんだから。

 多少の無理は、したくなるじゃないか」

 特に、力を込めたいい方でもなかった。

 おそらく、普段から考えていたことを、そのまま口に出しているだけだ。

「その、万が一のために、そこまでの無茶をするのか」

 坂又は、ため息混じりにいった。

「少し前から思っていたが、君は、案外に壊れたところがあるな」

「うん」

 恭介は、素直に頷く。

「それは、前々から自覚している」

 この馬酔木恭介という少年は、どこか、心の中のブレーキみたいなものが、壊れているのかも知れない。

 従来の日常生活では特に目立つことはなかったが、現在のような特異な環境だと、その特性は異彩を放つ。

 多分、自分自身を守る、大切にするという心理が、他の人に比較して、希薄なのだ。

 好んで危ない橋を渡るような、自傷癖のような行動には出ることはなかったのだが。

 逆にいうと、合理的な理由、正当な名目さえあれば、自身の危険を顧みずに行動に移してしまう。

 この恭介と行動をともにしている宙野姉弟も、そうした恭介の特性を理解した上で、ある程度は容認しているように、見えた。

 いや、これまでに散々に諫め、矯正しようとした上で、処置なしと判断して、しぶしぶ放置している感じなのか。

 危ういな。

 と、坂又は思う。

 そうした、極端な恭介の個性と、これまで、その活躍に乗っかってきた形の、百五十人のプレイヤーたち。

 一歩踏み間違えたら、多分、今後のこの世界での生活は、根底から違ったものになりかねない。

 そうならない、ためには。

「特定のプレイヤーに頼らない程度には」

 あえて坂又は、そう口に出す。

「他の全員が、強くならなければいけないわけか」

 特に大きな声でもなかったが。

 その言葉は、その場に居た全員に染み入った。

 だが同時に、

「それを実現するのは、並大抵の努力では追いつかないぞ」

 とも、ほぼ全員が思ったが。

 多少、特殊なジョブに頼ったとはいえ、今回、恭介は、単身でダンジョン攻略を成功させている。

 たった一人でダンジョン攻略を成功したプレイヤーは、この恭介がはじめてであった。

 それに匹敵するだけの実力を、ということになると、いったい、どれほどの経験を積まねばならないのか。

 さらにいえば、恭介は、こうして他のプレイヤーが訓練を受けている間にも、勝手に先に進んでいく。

 こちらが進歩するまで待ってくれるほど、優しい存在ではなかった。


 そんな出来事を挟んでも、訓練はそのまま、何事もなかったように続く。

 訓練を受けているパーティメンバーと、他のプレイヤーの行動は、本来、関連しない。

 各プレイヤーはおのおの勝手な都合で動くものであり、他のプレイヤーの行動によってなんらかの制約を受けることはない。

 市街地のプレイヤーたちは、拠点のプレイヤーたちに構わず、これまでと同じようにダンジョンを攻略し続けている。

 その、はずだった。

 ただ、現在、訓練を受けているプレイヤーたちは、全プレイヤーの中でも上位の実績を持ち、同時に、伸び悩んでいるプレイヤーでもある。

 これまでの方法論では、この先、通用しない。

 このままでは、さらに先に、進むことは難しくなる。

 そういう不安を持っているからこそ、この場に身を置いている。

 そして、その不安は、ここの訓練を受けると、ある程度は解消される。

 これまで採用していなかった方法論を提示され、自分たちでは思いつかなかった戦い方、新しい装備を勧められ、短所を矯正され、長所は伸ばす。

 パーティ内部での分業や各人の役割を洗い直され、誰かが戦闘不能になっても全滅しない戦い方について考える。

 これまで交流のなかった他のパーティと意見を交換し、様々な方法論に触れる。

 この拠点に居る間、ダンジョンから遠ざかるのは確かであったが、その分、パーティ全体は着実に力をつけ、強くなっている。

 そういう、実感があった。

 訓練を主導していたのは、トライデントというパーティではあったが、この三人は、すべての内容を自分たちの手をおこなうほど殊勝なタマではなく、自分たちではうまく出来ないと判断した分野は、すぐに酔狂連なり魔法少女隊なりに頼った。

 トライデントはどちらかというと、この訓練には積極的ではなく、どちらかというと、

「他のやる人がいないから」

 的な、消極的な理由で、しぶしぶやっているような節があった。

 その癖、手を抜くことはなく、必要なことはしっかりと伝え、教えてくれる。

 あるいは、いっしょになってよりよい対処法を考えてくれる。

 トライデントは、いい教師とは、とてもではないが形容出来なかった。

 しかし、その分、とことん実戦的な思考を持ち、現場で確実に役に立つ方法を、結果として教えてくれる。

 なにより、そんな先行者が存在してくれたことは、他のパーティにとっては幸運だといえた。

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