Sソードマンの詳細
翌日、朝の日課が終わったくらいの時刻に、約束通り、Sソードマンの面々が拠点を訪れて来た。
市街地よりも拠点の方がなにかと都合がよかったので、わざわざ来て貰った形だ。
「はぇー」
楪たち女子三人組は、物珍しさを隠そうともせず、周囲を見回している。
「お、おい」
奥村は、若干、落ち着かない様子だった。
「本当に、ここ、お前らだけで整備したのか?」
「わたしらだけ、ってわけではないけどね」
奥村とは以前から顔見知りであった遥が、代表して答える。
「魔法少女隊とか、酔狂連の人たちにもかなり手伝って貰ってるし」
「いや、そういうことではなくて、だなあ」
奥村は、なにかをいいかけ、それを途中で止める。
「労力を提供した具体的な人数は、ともかく、としてだ。
ここの整備をしながら、お前らは、ダンジョン攻略をして来たんだな?」
少し間を空けてから、そう、続けた。
「こちらの感覚でいえば、ダンジョン攻略の方が明らかにおまけ扱いなんだけどね」
遥は、率直なものいいをした。
「そっちは別に、わたしらが直接手をかけなければならない理由がないし」
自分たちの住環境などは、自分たちで整備するしかない。
トライデントの三人からすると自明の事実でしかないのだが、Sソードマンの面子にとってはそうでもないようだった。
程度の差こそあれ、なんだかその発言にショックを受けているように見受けられる。
「なんか、さ」
「根本的なところで、考え方が違うんだ」
「うちら、そんなところはだいぶん、手を抜いてきているし」
女子たちは、三人で固まって小声でそんなやり取りをしている。
「ええと、身内での会話は、あとにしてくれるかな」
彼方がいった。
「まずは、そうだね。
師匠がいない範囲で、全員のジョブとその特性なんかを教えて欲しい。
そうでないと、指導のしようもないから」
「はいはーい」
楪が、最初に前に出た。
「うちのジョブは、ガンナーっす」
「それは、狙撃手とは違うのか?」
恭介が、すかさず疑問を口にする。
「ジョブ固有スキルとかは?」
「ジョブ固有スキルは、速射っすね。
連射しても、命中精度が変わらない、って」
「命中補正に関連したスキルとかは、ないの?」
「狩人の固有スキルはそのまま使えますが、このジョブで命中補正関連のスキルはないっすね」
「そうか」
恭介は、少し考える。
「正直、まだ理解しきれない部分はあるんだが、だいたいはわかった」
連射しても、命中速度は変わらない、か。
多分、マシンガンとかアサルトライフルとか、その手の火器に特化したジョブ、なのだろう。
「次。
うちは、ストカーっすね」
片手をあげて、内海が発言する。
「斥候の上位互換、だと思う。
固有スキルは、隠蔽。
あと、スキルとはちょっと違うのかも知れないけど、このジョブになってから、足が速くなりました」
「どう思う?」
同じく、斥候の上位互換職に就いている遥が、恭介に意見を求める。
「その名前の通り、追跡とか尾行に特化したジョブ、なんだろうな」
恭介は、印象を告げた。
「案外、単独行動に向いているのかも知れない」
「そのジョブ、力とかは、あがってますか?」
彼方が、確認する。
「正直、そっち方面はあんまりっすね」
内海は答えた。
「攻撃力は、基本の攻撃職並み、だと思う。
あんま、強くなった気がしないっす」
「静音行動と追跡特化、ってところかな」
彼方が意見を述べた。
「忍者ほどには、不意打ちに向いていないっぽい」
忍者は、斥候よりも攻撃力が高くなっており、さらに、クリティカル補正も持っている。
それに比べると、攻撃力はかなり見劣りする感じに思えた。
「攻撃力の高い武器を持たせて、どうにか補正したいところだね」
恭介は、そういった。
「あー、うちは、重装歩兵っす」
今度は、美濃が発言する。
「力は、かなり強くなっています。
その代わり、素早さなんかは見劣りします。
つまり、他の人たちと比較して。
あと、あまり速く走れません」
「ジョブ固有スキルは?」
「忍耐と、反撃っすね。
忍耐は、受けた攻撃のダメージが半減されます。
反撃は、一定確率で、受けたダメージをそのまま返します。
ただし、その際、こちらが受けるダメージが減るわけではありません」
「タンク向きのジョブだねえ」
遥は、そういって頷いた。
「それで、そんなジョブの子が、なんで重装備をしていないの?」
「坂又さんたちみたいな格好を、っていうことですか?」
美濃は、平然とそういった。
「いや、でもあれ、可愛くないし」
「可愛くない」
遥は、絶句した。
酔狂連が開発した全身鎧類は、現在のところ、二種類に大別される。
主として女子が着用しているのが、柔軟性のある素材で、防刃、対衝撃性能がある、「ソフトシェル」。
機能はしてはそれの上位互換になるが、重くて硬い、いわゆる、「甲冑」というイメージに近い、「ハードシェル」。
このうち、ハードシェルは、男子とか、女子の中でも力が強いジョブに就けた者が、着用していることが多い。
耐久力は増すのだが、その分、重くて動きが制限されるからだ。
新城ら、風紀委員たちは、ソフトシェルを装備しており、坂又どすこいズは、ハードシェルを着用していた。
「あとで酔狂連さんと相談して、装備から考え直そう」
彼方が、平静な声で、そういう。
「そだねー」
遥も、平坦な声で応じた。
「あと、そこの三人は、固有スキルを教授し合っているでしょ?」
「わかりますか?」
「わかるよ」
遥は即答する。
「昨日、三人でステルスモードになっていたし」
あれは、内海の隠蔽スキルの効果なのだろうか。
いずれにせよ、察知スキルがあれば対応可能だった。
「最後に、おれなんだが」
奥村が、いった。
「おれのジョブは、侍だ」
「それは、魔法と剣を使えるジョブなの?」
すかさず、彼方が確認する。
「なにをいってるんだ?」
奥村は、そういって首を傾げた。
「プレイヤーなら、誰でも、魔法も剣も使えるはずだろう。
侍は、剣士の上位互換だな。
攻撃力も、剣対応スキルの威力もあがっている」
「ジョブ固有スキルは?」
恭介が、確認する。
「居合い」
ぽつりと、奥村が答えた。
「鞘から抜いて、さっと斬る、あれだ。
攻撃力は倍増するが、一度刀身を鞘に収めなければならないから、使いどころが難しい。
敵の数が多いときや、乱戦だとまず使えない。
それと、この剣では、すっごく使いにくい」
そういって奥村は、普段使っている諸刃の直剣を腰から外して示す。
「ああ」
「そりゃあ、ね」
恭介と遥は、そんなことをいい合いながら、頷いた。
「そっちも、あとで酔狂連と相談だね」
彼方が、そうまとめる。
「あとは、ちょっと。
こっちでも方針なんかを相談してみるから、ちょっと時間を貰えるかな?」
「それはいいが、その間、おれたちはどうすればいい?」
「あっちの建物、合宿所の食堂になっているから。
とりあえずそこで待っていて」
彼方はそういって、合宿所の方を指さした。
「時間的にはちょっと早いけど、昼食でも摂っててよ」
「楪さんは恭介。
内海さんはねーちゃん。
美濃さんはぼくが担当するってことで、いいかな?」
三人きりになってから、彼方がそういう。
「ジョブの性質的に」
「奥村はどうする?」
遥がいった。
「剣士経験がある、キョウちゃんくらいしか指導出来ないと思うけど」
「まあ、いいけど」
恭介はいった。
「順当だと、思うしね。
あと、こうなったら、教えるのが一人でも二人でも、あんまり関係ないっていうか」
昨日、三人で相談した結果、
「まずこのSソードマンをある程度鍛えてから、坂又どすこいズや風紀委員の対戦相手をして貰おう」
と、そういう予定になっていた。
まず、このSソードマンに、ある程度まで仕上がって貰わないと、次の予定に移れないのであった。




