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高校生150名が異世界廃墟に集団転移したようです。みんなは戸惑っているようですが、おれたち三人は好きにやらせて貰います。  作者: (=`ω´=)
ダンジョン篇

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対上位職戦

 なんらかの上位職、なんだろうな。

 と、彼方は推測する。

 Sソードマンは、二回、ダンジョンの攻略に成功している。

 当然、人数の二倍分の「転職の宝珠」を入手しているはずだ。

 そのすべてを自分たちで使ったとも思えないが、そのうちのいくつかを使用していたとしても別に不思議ではない。

 ダンジョン攻略の成功例が増えているので、オークションに出されている宝珠は、だぶつき気味だった。

 今でも高価なのは相変わらずであるが、徐々に値はさがりつつある。

 入手したい者は、自分でダンジョンを攻略すればいい。

 それくらいのレベルに達していない者が使っても、宝の持ち腐れだ。

 という風潮さえ、出て来ている。

 これは、「ジョブ」というものへの過剰な思い込みが剥がれて来た証でもあった。

 どんなジョブであれ、レベルさえあがれば、意外にやりようはある。

 そうした認識が、一般的になってきているのだ。

 一言でいえば、

「無理に上位職にならずとも、なんとかなるのではないか?」

 という風潮が、プレイヤー間で共有されつつある。

 これは、多くのパーティがダンジョン攻略に成功しはじめていることと、無関係ではない。

 ダンジョン攻略に成功したプレイヤーたちのほとんどは、上位職ではなく、基本職のままだったからだ。

 そうした風潮が支配的になる中、あえて上位職を欲しがるのは、明確な目的がある場合が多い。

「特定のスキルを、どうしても使いたい」

 というのが、一般的な動機になる。

 さて、どんな上位職なのかな。

 そんなことを思いながら、彼方は盾をひとつ、倉庫に収納し、代わりに長柄のメイスを取り出す。

 そして、彼我の距離二十メートルほどにまで接近していた奥村に、こちらから肉薄した。

 奥村の、驚愕した顔が、間近に迫る。


 恭介から教授された「足運び」を使っただけなのだが、奥村は、彼方がこのスキルを使えるとは微塵も予想していなかったようだ。

 相変わらず。

 と、彼方は思う。

 想像力が、ない。

「スキル教授」のシステムがあることと、彼方たち三人の関係さえ知っていれば、この程度のことは事前に察せられそうなものだが。

 どうやら奥村は、そこまで物事を深く考える気質ではないようだ。


 瞬時に奥村の胸元にまで迫った彼方は、左手に持った盾を奥村に叩きつけようとした。

 が、すぐに奥村が、滑るような動きで距離を取って、その攻撃は空振りに終わる。

 反射神経は、いい。

 その辺は、奥村がもともとスポーツをやりこんでいたからか。

 勘所というか、この手の駆け引きは、奥村の方が長じているように感じる。

 彼方は、柄の長いメイスを振るう。

 彼方の死角から迫って来ていた、誰かを牽制するためだ。

 察知で存在を知ったその何者かは、彼方の攻撃を感知して、すっと進路を変えて避ける。

 動きが、速い。

 ステルスモードになれることといい、おそらくは、斥候とか忍者に近いジョブなのだろう。

 あと、二人は。

 やはり、ステルスモードで、少し距離を追いて、彼方の動きを伺っている。

 四人中、三人が、ステルスモード、か。

 おそらく。

 と、彼方は思う。

 この三人も、彼方たちトライデントのように、スキルの教授を行っているのだろう。

 四人パーティ中の三人が、揃って同傾向のジョブになるとは、考えにくい。

 奥村だけがステルスモードになっていないのは、他のパーティメンバーとそこまで親しくはないのか。

 それとも、彼方のポジションと同じく、タンク役として敵の注意を集めるため、あえてスキルを使っていないのか。

 おそらくは、前者だろうな。

 と、彼方は心の中で結論する。

 性別の壁は大きいし、それに、奥村だけ、他の三人とは隔意があるように見受けられた。

 奥村は、おそらく、他のパーティメンバーと、あまり懇意にはしていない。

 その奥村が、手にした剣を振りかぶって、彼方に迫る。

 フェイントもなにもない、愚直な突進だった。

 そして、そのことに、彼方は引っかかりをおぼえる。

 盾で受け止めることも出来たが、少し体を斜めにして、奥村の正面から自分の体をずらす。

「お」

 案の定、だった。

 彼方は、盾で奥村の斬撃を受けた。

 が、奥村の斬撃はそこでは止まらず、見えない衝撃のようなものが、盾をすり抜けてどこまでも伸びていく。

 盾を持つ左手首にその斬撃があたり、乾いた音を立てた。

 彼方が知らないスキルか、それとも、その剣の効果か。

 どちらにせよ、この奥村も、それなりに奥の手は持っているらしい。

 メイスを振るって反撃を試みたが、その攻撃が当たる前に奥村は彼方から距離を取っている。


「新装備の手甲をしていなかったら、手首ごと切断されてたな」

 小さく、彼方が呟く。

 油断していたつもりはないのだが、装備の性能に救われた形だ。

 呟きながら、彼方は上体を大きく倒して、お辞儀をするような体勢になった。

「え?」

 ぶん、と、なにかが宙を切る音と、それに、女性の声が聞こえる。

 その声に向かって、彼方は盾をぶつけた。

 小さな悲鳴とともに、見えない何者かが、遠くに吹き飛ばされていく感覚。

 まあ。

 長大なメイスをぶるんと振るい、自分を中心とした円を描きながら、彼方は思う。

 ここは、同時攻撃を試みる場面だよね。

 今度は、なにかがメイスに当たる感触はしなかった。

 代わりに、なにかがこちらに飛んでくる気配がする。

 盾か手甲で受けることも、一瞬、考えたが。

 彼方の想定外の攻撃であることも考慮して、ここでは、単純に、避ける。

 なににも当たらなかったので、その攻撃の正体はわからなかったが、おそらくは、なんらかの魔法。

 そんな、気がした。

「硬っ!」

 ほぼ同時に、なにかが、左のすね当てに当たった。

「岩かなにか、思いっきり殴ったような感触だし!」

 その気配は、すぐに遠ざかっていく。

 実際、渾身の力で殴ったんだろうな。

 と、彼方は思う。

 ただ、今の彼方は、

「高レベルのプレイヤーが渾身の力で殴った」

 程度では、傷ひとつつかない防御力を持っている。

 ましてや、酔狂連から新式の防具を優先的に回して貰っているのだ。

 この程度では、なにも変わらなかった。


 さて、どうするかな。

 彼方は、考える。

 これまでで、このパーティの内実は、だいたい理解出来た気がする。

 彼方が予想だにしない奥の手を、他に持っている可能性は、少ない。

 彼方が相手の立場であったら、最初に、手持ちの中で一番効果がある攻撃をお見舞いしているからだ。

 Sソードマンの防御力は、あまり大きいとは思えない。

 もう一度、全員が近づいて来たタイミングで大きめの魔法を使えば、ほとんど片がつくような気がする。

 奥村は、何度もこちらに迫って来ている。

 ただ、その攻撃は愚直で、単調ですらある。

 攻撃力はともかく、こちらに攻撃が届くタイミングが読みやすい。

 盾で受けるにせよ、避けるにせよ、どちらにしてもやりやすい。

 頼みの攻撃力も、彼方の前では、あまり意味がなかった。

 仮に、奥村の攻撃が直撃したとしても、今の彼方では、ほとんどダメージを受けないだろう。

 一人一人、個別にいきますか。

 彼方はそう結論し、メイスを倉庫に収納した。

 そして、奥村に迫る。

 と、見せかけて、そのすぐ横をすり抜け、さらに移動して、その背後に居た誰かを、盾で叩き伏せる。

「うぇっ!」

 という声ととともに、一人目が地面にバウンドして、そのまま動かなくなった。

 彼方は、そのまま駆け続ける。

 ステルスモードのまま五十メートルくらい離れた場所に居た、別の誰かの背後に移動し、背中から肩を叩く。

「ひぃっ!」

 その誰かは、小さな悲鳴をあげてその場から離れようとしたが、彼方はその脇腹を手甲で横殴りにした。

 二人目は、軽々と三十メートルほど吹き飛ばされ、その途中でステルスモードが解けて、姿を現す。

 姿をさらしたまま、地面に転がって、動かなくなった。

 彼方は、倉庫に盾もしまい、三人目が居る方角に、ゆっくりと進む。

 この子が、一番の手練れだよなあ。

 と、彼方は思う。

 このパーティの、実質的な司令塔は、この子だろう。

 さて、どう出るか。

 別に急いだわけではなかったが、彼方がしばらく歩き続けると、三人目は自主的にステルスモードを解いて姿を現した。

「はい、こーさーん」

 三人目、楪夜は、両手をあげて、そういう。

「文字通り、お手あげ。

 もう、打つ手、ないわ」

「どうする?」

 彼方は、訊ねる。

「自主的に、リタイアするって手もあるけど」

「うーん。

 それでもいいけど、先に殴られた二人に悪いから、気を失う程度に、お手柔らかに殴ってくれないかなあ。

 あ。

 その前に、ひとつ訊きたいことがあるんだけれど」

「なに?」

「なんで殺さなかったの?」

「女子にひどいことをするとね」

 彼方は素直に答える。

「あとで、ねーちゃんにいじられるんだ。

 それはもう、ねちねちと」

「あはは。

 それは、大変だねえ。

 そんじゃあ、あと、よろしく」

「うん」

 彼方は、楪のみぞおちのあたりを、軽く押す。

 楪は、まっすぐ十メートル以上吹っ飛んで倒れ、そのまま動かなくなる。

「おい!」

 すぐ横で、奥村の声がした。

「舐めてんじゃねーぞ!」

「舐めているつもりは、ないんだけどなあ」

 彼方は、ゆっくりと首を振りながら、そう応じる。

「なるほど。

 今の君だと、これくらいのダメージになるのか」

 奥村の剣、その刃が、わずかに彼方の脇腹に食い込んでいる。

 一センチ以下、だろうか。

 おそらくは、内臓にさえ、届いていない。

 回復術を使えば、一分もかからずに元通りになる。

 その程度の、かすり傷だった。

「これが、今の君の全力なのかな?」

「馬鹿にしやがって!」

 奥村は、顔を歪めて一度距離を取り、手にしていた剣を頭上に振りかざした。

「だったら、とっておきのをくれてやる!」

 奥村の剣は、幾重にもスキルのエフェクト光を纏い、まばゆく輝いていく。

 その状態で、奥村は瞬時に彼方との距離を詰め、渾身の力を込めて振りおろした。

「なるほどなあ」

 彼方は、顔の直前でピタリと動きを止めた輝く刀身を、まじまじと観察している。

「これが、君の全力攻撃かあ。

 確かに、剣士のスキルにはない効果が、いろいろとついているようだね」

「な」

 奥村は、驚愕に目を見開き、懸命に、剣を動かそうと試みていた。

「おまっ!

 ふざけんじゃねえーぞ!」

 彼方は、素手で、奥村の剣を握りしめている。

 ぶっちゃけると、遥の斬撃とかを見慣れている彼方には、奥村の攻撃は、とてもゆっくりに見えた。

 さらにいえば、単調でもある。

 これなら、素手で掴めるな。

 と、そう思ったし、実際に試してみると、出来てしまった。

「他になにか、奥の手とか、残ってないかな?」

 彼方は、念のために確認する。

「あるわけねーだろ!

 そんなもん!」

 その返答を聞き終えて、彼方は、剣を握ったまま、奥村の腹部を軽く殴った。

 奥村は、白目を剥いてその場にへたり込む。


「上位職っていっても、こんなもんかあ」

 彼方は、小さく呟いた。

 上位職としてのスキルや機能を、まだ使いこなせていないだけなのか。

 彼方が予想しているよりも、そうした使いこなしによる性能差は、大きいのかも知れない。

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