対応策
恭介と遥は自分たちの周囲を結界術のバリヤーで包み、その上で周囲に沸いて来るモンスターを攻撃し続けていた。
モンスターはいくら倒しても、間髪おかずに沸いて来る。
つい先ほどまで手榴弾を遠くに投げることで対処していた遥は、その作業も面倒臭くなって、今ではガトリングガンを設置してまとめて銃撃していた。
それでモンスターも多少は減ったよぅに見えたが、いぜんとして沸いて来るのでまだまだ終わりが見えない。
「これ、根本的な対策とかないの!」
銃撃の音に負けないように、遥が、怒鳴るように問いかけてくる。
「そういわれてもなあ!」
恭介も、怒鳴るようにいい返した。
「どうなればこのモンスター湧きが終わるのか、その条件がわからない!」
結局、この場を支配するルールを見つけないことには、どうしようもないのだった。
恭介は、これまで、このダンジョンを支配していたルールから推測すると、なにかしらの「正解」を見つけ、その通りに行動出来ればクリア可能となると、そう見ている。
しかし、その正解が、思いつかない。
「いっぺんにこのモンスターたちを全滅させる方法とか、ない?」
「ないことも、ないけど!」
恭介は答えた。
「それをやると、おれたち三人も無事では済まないよ!」
遥に問われるまでもなく、
「モンスターを一気に片付ける方法」
については、恭介はすでにいくつか思いついている。
しかし、そうした方法は結局大きな物理的ダメージを無差別に、周辺にまき散らす方法であり、恭介たち三人もまず巻き添えになる。
この間、辰のダンジョンマスターを倒した時に、遥はかなりしつこく恭介を批判し、今後のために釘を刺してきた。
だとすれば、恭介が思いつくような方法に賛同することは、まずないであろう。
「つまり、過激な方法になるってこと?」
「そういうこと!」
「それ以外の方法は?」
「だから、思いつかないって!」
この場における正解、とは、なんなのだろうか?
恭介は、今一度考える。
この申のダンジョンマスターは、どういう状況になれば、諦めてくれるのか。
次々と沸いて来るモンスターを全滅させればいいのか?
それはまた、違う気がする。
これまでの傾向からして、もっととんちの効いた方法を、求めているような。
恭介は、今の自分に出来そうなことを頭の中で列挙し、次々と検証していく。
「もし、それを、実行したらどうなるのか?」
と。
しばし、考えて、
「あ」
と、小さく呟いた。
「なにか、思いついた?」
「正解かどうかは、わからないけど」
恭介は、正直にそう告げる。
「これまでとは違うアプローチを、思いつきはした」
これが正解となるのかどうか。
これは、実際に試して結果を見るしかない。
背後から、絶え間ない銃撃の音が聞こえてくる。
ガトリングガンを出したか。
と、彼方は思う。
聞き覚えのある音だった。
この状況ならば、その対処法も正しいといええる。
少なくとも、少ない労力で対象のモンスターを効率的に倒すことは出来る。
彼方はといえば、相変わらず、一本道を次々とやって来る埴輪兵士型のモンスターを倒し続けていた。
そのモンスターは、彼方の攻撃力と比較するとかなり脆かったので、だいたい一撃でも攻撃が当たれば全身が砕けて倒れてしまう。
彼方にしてみれば、戦いというよりも単純作業の繰り返しになる。
いい加減、うんざりしていたところだったから、どうにかしてこの状況を終わらせられないかな、と、先ほどから考えていたところだった。
妙案は、すぐには思いつかなかったが。
『彼方、聞こえる?』
「聞こえるけど」
そんな時、遥から通信で呼び出される。
「なにか、状況の変化があった?」
『それは、これから試してみないとわからない、って』
「試すって、なにを?」
『人形を出して、それにモンスターと戦わせてみて。
戦力が不足するようだったら、人形を作って増やして』
「……なるほど」
少し考えて、彼方は頷く。
「そのアプローチは、ありかも知れない」
それがここのダンジョンマスターが求める正解なのかどうか、彼方にはわからなかった。
しかし、少なくとも、彼方たち三人の労力は大幅に削減される。
楽には、なる。
幸いなことに、今、出現しているモンスターたちは、そんなに強くはない。
不器用な人形たちにも、数体で一体を相手にさせれば、どうにか倒すことは出来るだろう。
人形たちがコツを掴めば、効率はさらにあがるかも知れない。
「試してみる価値は、あるね」
彼方は早速、倉庫から十体以上の人形を取り出し、同じく倉庫の中に死蔵されていた武器を持たせる。
そのほとんどはこれまで、モンスターを倒した時にドロップした鹵獲品になるわけだが、あまり性能がよくないので、これまでは使う機会に恵まれなかった。
しかし、人形たちに持たせる武器としては、十分だろう。
剣とか槍とか盾とか弓矢を持った人形たちは、彼方の指示に従って、埴輪兵士型モンスターに向かっていく。
それぞれ、不器用な動きだったが、人形たちにとって、この手の作業に従事するのはこれがはじめてなのである。
多少のぎこちなさは仕方がない部分があったし、それに、少し経験を積めば、すぐにコツを掴んで円滑に作業をするようになることを、彼方は知っていた。
この人形たちとは、経験知とでもいうものを、集団で蓄積していく性質があるのだった。
それは、これまで、人形たちを使役して来た経験から、わかっている。
だから。
今の彼方に出来るのは、人形たちがより戦いやすい環境を整えること、だった。
人形を増やして、戦力を増強する。
マーケットからより高性能の武器を購入して、人形たちに貸し与える。
など。
人形を使役する立場として、彼方は可能な限りの手を打ちはじめる。
案の定、最初のうちは埴輪兵士型モンスターに押されていた人形たちは、すぐにコツを掴み、増援の人形が合流する頃には、埴輪兵士型モンスターを次々と倒してその奥に進撃していくようになっていた。
この通路に関しては、どうやらこちらの人形たちが優勢になったようだ。
一応、予備選力として、さらに三十体ほどの人形を武装させて、この場に置いておくことにする。
もしもここを敵モンスターに突破されそうになったら、すぐに伝令を走らせて、彼方に異変を伝えるように指示を出して、彼方は恭介と遥に合流するため、歩き出す。
さて、あの二人の方は、どうなっているのか。
なんとなく、想像はつく。
あの二人なら。
「あ、来た」
彼方が近づいて来たことを目聡く見つけた遥が、すぐに声をかけて来る。
「そっちの方は、どう?」
「敵モンスターを押し返せるようになったんで、防衛戦として三十体ほどの人形をおいて、こっちに来た」
彼方は、簡潔に状況を伝える。
「で、こっちは?」
「ま、見た通り」
遥は、そういって両手を大きく開く。
「自動で迎撃する態勢を作って、これから反撃していこう、ってところ」
遥の背後では、ガトリングガンが三台設置され、放射状に射線を延ばして敵モンスターを掃討していた。
さらに、自動小銃やアサルトライフル、手榴弾などを持たされた人形たちが、数十体整列している。
「出来るだけ同士討ちは避け、敵モンスターを片っ端から倒して来て欲しい」
恭介は、人形たちに指示を出している。
「弾薬などを使い切ったら、この場に帰還してくれ。
それでは、健闘を祈る!」
ざ、っと人形たちが恭介に敬礼をして、手にした銃をモンスターたちに向かって乱射しながら、敵群に突っ込んでいく。
なんだかなあ。
と、彼方は思う。
数は多いとはいえ、銃弾程度で倒れるモンスターだから、こういう手段を取ることが可能だったわけだが。
これで、いいのかな。
とは、正直、思う。
少なくとも、通常のダンジョン攻略からイメージされる、戦闘シーンではない。
「おお、彼方。
来たのか」
彼方の存在に気づいた恭介が、そういって片手をあげた。
「これで、正解だと思う?」
彼方は、すぐに恭介に、疑問をぶつける。
「正直にいって、わからない」
恭介は即答した。
「ただ、こちらにかなりの心理的余裕が出来たのは、確かだな」
「まあ、ねえ」
彼方は、頷いた。
「それで、これからどうするの?」
「敵モンスターの出現ペースを完全に上回るまで、人形の戦力を増やす。
モンスターの大群を、完全に無力化する」
恭介は、答えた。
「そこまでは、決まっているんだけど。
あとは、相手の出方次第、だな」
「ここで終わりではない、と?」
「これまでの例から考えると、ダンジョンマスターって、そんなに簡単な連中ではないだろう」
恭介はいった。
「おれたちの立場からいえば、簡単に終わった方が、楽でいいんだが」




