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高校生150名が異世界廃墟に集団転移したようです。みんなは戸惑っているようですが、おれたち三人は好きにやらせて貰います。  作者: (=`ω´=)
ダンジョン篇

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申のダンジョン

 拠点への人の出入りが多くなり、合宿所の建設が進む中、恭介たちも別に、なにもしなかったわけではない。

 拠点周辺の罠巡りは遥の日課になっていたし、彼方は着々と拠点の一角を農地化するための作業を進めている。

 家畜になれそうな野生動物の捕獲と放牧も継続していたが、こちらは柵で区切った場所に何種類かの獣を放し、ときおり餌になりそうなものを入れているだけであり、まだまだ具体的なノウハウを積みあげる前の段階だった。

 そして、迷宮の攻略も、あまり熱心ではないものの、継続している。

 具体的な頻度でいえば、三日か四日にいっぺんといったところだったが、一応、トライデントも迷宮へは通っていた。

 現状、他のパーティもレベルがあがり、一度ダンジョンに入ると半日くらい出てこないのが普通になっている。

 つまりは、本気で攻略を目指すパーティが増えて来たわけだが、その分、トライデントの番が回ってくるのも少なくなっていた。

 生徒会は、各ダンジョンが混雑しはじめた頃から希望者へ入場整理券を配布していて、明確に順番を決め、混乱が起こらないようにしている。

 そのおかげで順番を巡るトラブルはほとんど起きていなかったが、そのわかり、多くのプレイヤーたちは暇を持て余すようになった。

 合宿所の建設に人が集まるようになった原因の一端はここにあり、その他にも、聖堂の銭湯の改装とか下水道の整備などに従事するプレイヤーも多いそうだ。

 この時点で、ほとんどのプレイヤーはすでに日常生活を保持する程度のするポイントは稼げており、こうした作業に従事する動機も、ポイント目当てというよりも暇潰しを目的とした者が多かった。

 レベルアップで身体能力が向上していれば、肉体労働もさほど苦にはならない。

 ただ、そうした作業に従事すれば、確実に時間は取られる。

 それをよしとするかどうかは、プレイヤーの価値観次第になる。

 が、いざ、ダンジョンの待ち時間が長くなってくると、

「暇を持て余すくらいなら、なにか仕事するか」

 と、そう考えるプレイヤーが、意外と多かったようだ。

 そんなわけで、市街地の整備事業は、ここ数日、かなりのハイペースで進んでいた。

 監督している生徒会としては、都合のいい成り行きとなる。


「今度はなんだ?」

「100!の末尾の0の個数を求めよ、だって」

「数学!」

 遥が、真っ先に降参する。

「おてあげ!

 あとは二人に任す!」

 現在、三人が挑んでいるのは、申のダンジョンだった。

 このダンジョンは、出没するモンスターこそ少なかったが、代わりに、頻繁に扉があり、その扉に書かれている問題に正解しないと、その扉が開かない仕様になっている。

「んー、と」

 彼方は、メモ帳を取り出してなにやら筆算をしてから、答えた。

「二十四個、の、はず」

「あ、開いた」

「先に進もう、先に」

 数百メートルごとにこうした扉が設けられており、そこに掲げられている問題は多岐のジャンルにわたる。

 今でも珍しく、他のパーティからあまり人気のないダンジョンといえた。

 なにせここは、他のダンジョンのように、腕力で押し通れない。

「次の問題は?」

「ラトソルの特徴を述べよ、だって」

 遥が、扉に書かれていた問題を読みあげる。

「そもそも、ラトソルってなに?」

「土壌の性質名だね」

 恭介が答える。

「鉄、アルミニウムの酸化物、水酸化物などが堆積した、赤とか黄色の土壌。

 一般には、痩せた土地がこうなる」

「あ、開いた。

 なんかこのダンジョン、迂遠っていうか、面倒臭いね。

 多少難しい問題が出て来ても、ネットで検索できれば、一発で答えがわかるのに」

「このダンジョンは、外部との通信が出来ないからね」

「面倒といえば面倒だけど、一応、高校レベルで答えられる問題に限定しているようだけどね。

 間違っても、元の世界の専門家にしか答えられないような、高度な問題は今のところ出ていない」

「この扉、無理に破って先に進んだら、どうなるのかな?」

「前に試した人によると、扉を壊した時点で、強制的に外に出されるみたい」

「このダンジョン、人気がないの、わかるわ」

 このダンジョンは、先に進むのに時間がかかる。

 その割に、モンスターがあまり出てこないので、獲得可能なポイントも、他のダンジョンと比較すると少なめだった。

「ダンジョンマスターが、わざと人気が出ない仕様にしているじゃないかな?」

「あり得るね。

 ダンジョンマスターもいろいろで、その役目に積極的でない個体も居るようだし」

「つまりは、やる気がない、と。

 それで人が来ないような仕様にしているんだったら、いつまでもクリアしないから、このゲームも終わらないんじゃないかな?」

「そもそも、この状況がどうなれば終わるのか、明確に示されていないからね。

 ダンジョンマスターもプレイヤーと同じく、本人の意思とは無関係に連れてこられて配置されているみたいだし」

「次の扉だ。

 ええと、ダブリン市民、フィネガンズ・ウェイクなどを書いたスコットランドの……」

「ジェイムズ・ジョイス」

「開いた。

 この手の問題は、恭介が強いね」

「先!

 先に進もう!

 って!」

 遥がZAPガンを取り出し、撃つ。

 かなり離れた場所で、モンスターが倒れ、姿を消した。

「ここのモンスター、雷撃に滅茶弱いんだよね」

 遥がいった。

「発見出来れば、即倒せる程度で」

「ロボットか、金属生命体だろうっていわれているけど。

 中にかなり高性能な半導体とかも含まれているから、死体を持ち帰ると酔狂連の連中が喜ぶんだよなあ」

「スリルもサスペンスもないけど、ああ、もう!

 このダンジョン、退屈で、面倒臭い!」

 三人がこのダンジョンに挑むのは、これが三度目だった。

 最初の攻略時には、遥が癇癪を起こして中断。

 二度目の攻略時には、五時間以上ダンジョン内を進んだ結果、進展が見られない様子だったので自主的にリタイアした。

「その退屈さも、今回で終わりにしたいところなんだけどね」

 彼方が、呟く。

「三度目の正直、っていうしさ」

 このダンジョンも、どうやら階層という概念がないタイプのようだった。

 長時間にわたって滞在した前回の攻略でも、階段には行き当たっていない。

 他のパーティも、同様のようだ。

 つまりは、ずっと進み続ければ、いつかはダンジョンマスターの居場所に辿り着ける。

 そういうタイプの、ダンジョンなのだ。

「このダンジョンのコンセプト、我慢比べなんじゃないか?」

「そうかもね」

 恭介が疑問を口にすると、彼方が軽い口調で応える。

「いずれにせよ、ダンジョンマスターの動機について詮索しても、仕方がないよ。

 それでこちらが有利になるってわけでもないし」

「別に、わたしたちがゴールにつくわけでもない。

 あ、また扉」

「……問題が、書いてないな」

 眉根を寄せて、恭介が呟く。

「特殊な扉ってこと?」

「かもな。

 あるいは、この扉の向こうに、ダンジョンマスターが居るか」

「こんな、普通ぽい扉が?」

 遥が、訊き返す。

「大きさだって、今までのと同じだし。

 これまでのダンジョンマスターが居る場所の扉って、こーんなに大きいのばかりじゃなかった?」

「扉の向こうになにがあるのかわからないけど、警戒はしておいた方がいいね」

 彼方がいった。

「ダンジョンの中のことに、正常とか異常とかいってもはじまらないし」

「だな」

 恭介も、その言葉に頷く。

「そもそも、ダンジョンなんてものが存在するのが異常なわけだし。

 例外がどうこういっても、仕方がない」

「それでは、警戒してステルスモードになります」

 そう宣言するなり、遥の姿は見えなくなる。

 恭介も、それに倣ってステルスモードに移行した。

「それじゃあ、開けるよ」

 彼方が宣言して、扉のドアノブに手をかける。

 扉は、あっさりと開いた。

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