合宿所の建設
それから数日、恭介たち三人はダンジョン攻略を休んだ。
単純に、一度は死にかけた恭介がまだまだ本調子に戻っていない、ということが大きかった。
それに、ここ数日でじりじりとレベルをあげてきたプレイヤーたちが、なんだかんだんでダンジョン攻略に成功しはじめている。
そうした高レベルパーティは、恭介たちもそうだったように、ダンジョンマスターのところにまで辿り着く頃にはかなり長時間に渡ってダンジョンを占有してしまう。
結果、ダンジョンへ入るための待ち時間は長くなる傾向にあり、生徒会では、整理券を配布する、などの対策を考えているという。
ダンジョン攻略に成功したパーティも、今のところ、最大で魔法少女隊の三カ所までであり、恭介たちトライデントの四カ所を越えるパーティは、当分、出そうになかった。
ただ、一カ所とか二カ所を攻略したパーティは着実に増えており、高レベルパーティは順調に増えている。
と、そう見なすべきだろう。
「プレイヤーのスキルとかジョブとの相性もあるからね」
彼方などは、そうコメントする。
「十二カ所、全部を制覇するパーティが出るのは、もう少し先なんじゃないかな」
そしてそれは、別にトライデントである必要はない。
むしろ、早くどこかのパーティに追い越して貰った方が、心身ともに不安がない。
生徒会から、無理難題をいいつかる頻度も減るだろうし。
その生徒会からは、新たなお願いが打診されている。
「うちのパーティに、というより、うちの拠点に、ということだね」
直接、その話を聞いた彼方は、他の二人にそう説明した。
「パーティ内部でのスキル構成は、偏りがちだからさ。
それを是正するための合宿所、みたいなのをこっちで建てられないか、って」
「それ、市街地内部に建造した方が、なにかと便利なんじゃない?」
遥がいった。
「土地なんかは、余っているはずでしょ?」
「そうなんだけどね」
彼方は、そう答える。
「生徒会としては、どうも、ぼくらがこっちで孤立するのを、好ましくないと思っているみたいなんだよね。
この前、ドラゴンの首を中央広場に晒してから、どうも、ぼくたちが過剰に怖がられているみたいで」
「そりゃ、怖がられるだろう」
あのドラゴンの巨大さを思い返して、恭介が答える。
「あんな大きなものを倒せるやつが居るってなったら、おれだってそいつを怖がる」
「それとね。
どうも、ぼくたちの三パーティが、一種の派閥みたいに見なされている風潮もあり」
彼方は、そう続ける。
「そういうの、生徒会としては、あまり歓迎したくはないみたい」
「それで、人がこっちに来る口実として、その、訓練合宿所、みたいなのをこっちに作ろうって?」
遥が、口を挟む。
「建物とかは、誰が作るの?
また、プレハブで誤魔化すの?」
「こちらが承諾したら、拠点内部に生徒会が土地を借りて、その敷地内に酔狂連が必要な施設を作る予定だって」
彼方は説明した。
「基本的には、こちらとしては土地を貸す以外、やることはない。
説明では、そういわれた」
「計画としてはそうなんだろうけど」
恭介は、懸念を口にする。
「実際にそういうのが出来ると、こっちにも相応に負担が増えるぞ。
絶対に、なにかと口実を設けては雑用、たとえば、おれたちに模範指導をしてくれ、みたいな」
「その時は、こちらの都合で好きに断ってもいいんじゃないかな」
彼方はいった。
「最初に何度か、こちらのスキルを使ってみせれば、相手もなんの参考にもならないって納得すると思うし」
「ああ」
恭介は、頷いた。
「それ、ありそう」
恭介たちのスキルは、今では三人が三人とも、他のプレイヤーたちとは隔絶した性能を持ってしまっている。
素の体質や資質が、スキルと相性がよすぎたのか。
たまたま入手した武器や道具が、妙に馴染みすぎたのか。
そういった要因はあるのだろうが、とにかく、この三人が使うスキルの効果は、他のプレイヤーたちのそれとは段違いなのである。
実演したとしても、おそらくは、なんの参考にもならない。
「パーティの構成員全員がレベルカンストしているところ、他にはないからねえ」
彼方は、そう続ける。
辰のダンジョンマスターであったドラゴン討伐の成果で、恭介に続いて、遥と彼方もレベルカンストになっていた。
このレベル差も、他のパーティとの格差を構成している。
他のパーティがほとんど、ようやくレベル九十を超えたあたりで「高レベル」扱いになっていることを考えると、全員がレベルカンストしているトライデントとの差は、覆いがたく大きかった。
基本的に、高いレベルになるほど、レベルをひとつあげるために必要な経験値は大きくなる。
レベル九十以上になると、レベルアップに必要な経験値は、かなり膨大な数値となった。
ダンジョンマスターを倒したパーティであっても、ようやくパーティ内にレベル九十五を超える者が出て来る程度であり、トライデントの差は、まだまだ隔絶している。
妙なポジションに、収まってしまったもんだな。
と、恭介は、心の中でげんなりしていた。
恭介たちが望んで、そうした最強パーティになったわけではない。
様々な偶然が重なった結果であり、現在、トライデントが占めている地位は、可能ならば他のパーティに押しつけたいところだった。
だが、現実的に考えると、他のパーティが巳のダンジョンマスターや辰のダンジョンマスターを倒している様子は、まるで想像出来なかった。
恭介たちでさえ、どうにかして勝ち越した相手なのである。
これも、様々な偶然が重なった結果であり、トライデントが再びあれらのダンジョンマスターに挑んでも、必ず勝てるという保証はなかった。
実際、複数のパーティがダンジョン攻略に成功しはじめた今での、この巳と辰のダンジョンに関しては、トライデント以外の成功例がない。
「とまあ、そんな感じでいろいろ理由はつけているけど、さ」
彼方は、そう続けた。
「実際のところは、今、ダンジョンは混雑しているんで、なにかと口実を設けて、鼻息の荒いパーティを市街地から遠ざけておきたい、ってのが、生徒会の一番の動機じゃないかなあ。
このまま放置しておくと、ダンジョンに入る順番を巡って、パーティ同士の抗争が起こりかねないし」
そういう意味合いも、あるんだろうな。
と、恭介は思う。
市街地に置いておくと、なにかと始末が悪い。
だから一時的に、こちらの拠点に押し込めておけ、と。
そうした思惑を押しつけられることらは、いい迷惑としかいいようがないわけだが。
通信や面談をして何度か関係者間で打ち合わせを重ね、数日でどうにか条件などについて合意することが出来た。
生徒会から横島会計がやって来て、実際の土地を見ならが検討し、合宿場用途の土地を定め、正式に賃貸契約を結ぶ。
待ち構えていた酔狂連がやって来て、その場で施行を開始した。
多数の人形が行き来して、あっという間に整地し、土台を作っていく様子は、壮観だった。
酔狂連はこの時点で何棟分か、自分たち用の施行を完遂させている。
多少、規模や用途が違うといっても、慣れた作業ではあるのだろう。




