方針
夕食中、魔法少女隊の四人も明日からダンジョン攻略をはじめるというので、
「最初は、寅のダンジョンがいいぞ」
と、勧めておく。
「モンスターは虫系がほとんどだけど、魔法があれば十分に対応可能だし。
それに、地形的にもいろいろ仕掛けがあるそうで、浮遊魔法があるとかなり楽が出来そうだし」
「そうですね」
青山は、あっさり頷く。
「どの道、十二カ所もダンジョンがあるわけですし。
どこから手を着けても、あまり変わらないというか」
「逆に、巳のダンジョンはよしておいた方がいいかな」
遥がいった。
「今日いったところなんだけど、あそこのダンジョンマスター、とにかく魔法が効かない。
魔術師だけのパーティだと、ちょっと厳しいっていうか」
「その前に、あのダンジョン。
ランダムワープの魔方陣だらけだそうだから、マスターのところまで無事に辿り着けるかどうか」
「はじめてあそこに入って、いきなりダンジョンマスターまでクリア出来た。
師匠たちが例外」
「寅のダンジョンは、すぐにリタイアして出たけどねー」
遥が、苦笑いを浮かべながら、そう応じる。
「いや、今日だってすっごい苦労したんだよ」
恭介はいった。
「主に、彼方が」
「まあ、普段は、ぼくの方がかなり楽をしているからね」
仮眠から目覚めた彼方は、涼しい顔でそういった。
「たまには、こういうのもいいんじゃないかなって。
そういえば、最後のあれ。
あの攻撃、結局なんだったの?」
「正直、おれにもわからん」
恭介は、そういい放つ。
「あれ、ほとんどうぃがやったようなもんで」
「うぃが?」
彼方は、首を傾げる。
「ちょっと、詳しく説明してくれるかな?」
恭介と遥がかわるがわる、当時の状況を説明する。
全員が、静かに聞いていた。
半分、開いた口が塞がらなかっただけ、という気もするが。
説明をしている恭介からして、なんでそんなことが起こったのか、実は、よくわかっていない。
「……まあ、そんなわけで、巳のダンジョンマスターを無事に倒せたわけです」
一通り説明をしてから、そう締めくるくる。
「えっと」
仙崎が遠慮がちに、片手をあげて質問した。
「それから、うぃちゃんはどうなったんです?
まだ、ZAPガンの中に居るんですか?」
「どうなんだろ?」
恭介は、首を傾げる。
「あれから姿を見ていないのは、確かなんだが。
うぃ、ここに来てくれるか?」
周囲を見渡してから、そう声をかける。
「うぃ」
恭介の膝の上に、うぃが現れた。
「こいつの場合、実在と不在の境界が、どうにも曖昧なようだからなあ」
恭介は、そういう。
「居ても居なくても、あまり気にならないっていうか」
「そういう存在を平然と受け入れている、師匠が一番不思議」
緑川がそういい、他の全員がうんうんと深く頷いて無言のまま同意している。
「つまり、打つ手がなくなった時に、うぃの不思議パワーでどうにかなった、と」
彼方が、それまでの説明を一行でまとめる。
「それで助かった身としては、複雑な気分だなあ。
これからも、その不思議パワーは使えるのかな?」
「使えるかも知れないけど、あてにしすぎるのはよくないと思う」
恭介は即答する。
「ダンジョン攻略とかは、あくまでおれたちの事情なわけだし。
根本的な部分でうぃには関係ないし、うやむやのうちに巻き込むのはよくない」
「まあ、そうだね」
遥も、頷いた。
「今回は本当、ぎりぎりだったんで、緊急避難的に頼っちゃった形だけど。
今後は、その不思議パワーに頼らないでやれるようにしていかないと」
「天地を尽くして、ってやつか」
八尾が、頷いた。
「不思議パワーに対するスタンスとしては、そのくらいでいいかも知れないな」
「ぶちゃけ、説明のつかない現象とか、怖いって感情もあるんよね」
岸見が、それに続ける。
「こっちは割と、理性的、論理的な目でこの世界を理解しようとアプローチしているわけでさ。
よくわからないけど、実際にある。
ってのは、正直、魔法関連だけで、お腹がいっぱいっていうか」
「あてにする、しないは、トライデントの方針だから口を出すつもりはないが」
三和は、そういう。
「こっちとしては、他の処理に手一杯で、そのうぃとかいう珍現象までには、手を出す余裕がないな。
それよりも優先するべきタスクが、山ほどある」
そんな意見が出ている間にも、当のうぃは恭介の膝の上に乗ったままリズミカルに手や体を振って、妙な踊りをしている。
「じゃあ、具体的な話題を出そうかな」
彼方がいった。
「酔狂連には、持ち帰ったダンジョンマスターの残骸の調査をお願いしたいな。
それと、新しい武器も発注したい。
今回の件で、パーティの物理攻撃力が圧倒的に足りてないって思い知ったから。
まずは、ぼく用の鈍器、ううん、メイス、がいいのかなあ。
あの、魔力を込めると重量が変わる剣と同じ仕掛けをつけた鈍器を、作って貰いたい」
「おれも、剣が欲しいかな」
恭介も、そういう。
「レベルカンストしたんで、しばらく剣士のジョブをやってみようかな、って。
預けて貰った例の剣も使うつもりだけど、それ以外にも何本か、予備のを発注したい」
その他、もろもろの打ち合わせをしながら夕食を終え、全員で酔狂連の敷地に入る。
巨大なダンジョンマスターの残骸を、出すために、だった。
「そういえば、何日か、こっちには来てなかったな」
歩きながら、恭介がいった。
「そっちの施設とか、建築、進んでいるの?」
「ぼちぼち、といったところかな」
三和が答える。
「完成にはほど遠いが、当座、必要な場所はどうにか造成している。
今回使うのも、まだ中になにも入れていないが、今の時点では一番大きな建物になる」
人形たちの作業場所として、急造の小屋やプレハブを何棟か用意している、とは聞いていた。
それとは別に、本格的な建築物も、一応は、完成しているものがあるらしい。
「大きな建物が、もう完成しているの?」
遥が訊ねる。
「この短期間に?
こっちは、家一軒造るだけでかなりの苦労しているのに。
流石、生産職のパーティだね」
林の中の連絡路を通過して酔狂連の敷地に入ると、確かに、かなり大きな建物が見えた。
「いやいやいや」
彼方がいった。
「これ、うちの学校の体育館くらいあるじゃない。
こんなデカいの、どうやってこの短期間に造ったの?」
「うちのリーダー、こう見えても錬金術師なので」
桃木マネージャーが、説明してくれる。
「必要な強度を持つ素材を開発し、大量生産するのだけは得意なんですよ。
これも、最初に設定したとおりの大きさや形状に、自動的に成形してくれる素材だそうで」
「これ、無機物?」
拳で軽く壁を叩きながら、恭介が確認する。
「セラミック? 軽石?
見た目の質感としては、鉱物系の素材に見えるんだけど」
「無機物、ではあるな」
三和は、頷いた。
「鉱物も、合っている。
材料は、そこいらの土塊なんだが」
「それで、自動的にプログラムした通りの形にしあがるってのが、凄いな」
恭介は、素直に感心している。
「まあ、この世界でないと、造れない代物なんだろうけど」
そのだだっ広い建物の中に入り、恭介はダンジョンマスターの残骸を床に広げる。
「ふむ」
「これは」
「大きいな」
寸断され、眼球とか手首の先がいくつかなくなり、あちこち焼け焦げたりしていたが。
一応、全身に近い部位を、そのまま並べることが出来た。
「どうも、ZAPガンで撃った場所を、そのまま倉庫内に取り込んだようで」
恭介は、説明する。
「ご覧の通りに、あちこちで切れていますが。
調べるなり素材にするなり、好きに使用してください」
浅黄青葉と紅葉の姉妹が真っ先にその残骸に取りつき、他の酔狂連の面子もそれに続く。
彼らにしてみれば、興味の尽きないマテリアルになるのかも知れない。
うぃだけが、少し離れた場所で無心に踊り続けていた。




