攻略法
身長は目測で三メートルほど。
細身で、背が高い。
フットワークが軽く、時に、思いも寄らぬ方向に高速で移動してくる。
主に剣を使うが、槍や弓を取り出して使うこともある。
割と、死角の少ない敵だな。
と、恭介は思う。
隙がないのはいいが、愛嬌というか面白みがない。
ただ強いだけ、なのだ。
モンスターに愛嬌や面白みを求めて、どうするのか。
とも、思うのだが。
いずれにせよ、この隙のない相手を攻略しなければ、ならないわけで。
試してみるか。
恭介はそう思い、倉庫から新たな武器を取り出す。
幸いなことに、この敵にもステルスモードは有効なようだ。
こちらが先に攻撃をしかけない限り、敵の方から先に、こちらの攻撃を察知されたことがない。
だったら。
これも、試してみて、いいかな。
この三面六臂の敵は、確かに強敵であるといえる。
魔法に強い耐性があるのに加え、物理的にも結構硬い。
しかし、欠点がまるでない、と、いうわけでもない。
恭介はそう思い、ステルスモードのまま、倉庫から取り出した三叉銛を取り出す。
そのまま敵に近づき、膝の裏、関節部分に、突き刺した。
そこの関節部分は、ちょうど球体人形の関節部のように、わずかな隙間が空いている。
その隙間の部分に、三叉銛の穂先が突き刺さった形だ。
一瞬、敵は体勢を崩し、がくんと膝をつきそうになる。
その後、屈伸するように状態を上下しようとするが、その動きはぎこちなく、完遂することは出来なかった。
頭部が忙しく、回り始める。
おそらく、膝関節に銛を突き刺した犯人を、懸命に走査をしているのだろう。
その時には、恭介は敵から離れ、かなり距離を取っていた。
そのまま、ZAPガンで銛の柄を焼き切り、穂先だけが敵の膝裏に残るようにする。
少なくともこれで、敵のフットワークはかなり損なわれることになった。
敵は、上半身をかがめて膝裏に刺さった穂先を取ろうとしているが、長身であることと、それに、手足が妙に長い造形であるため、すぐには取れないでいた。
おそらく、そうした姿勢を取るような、設計になっていないのだろう。
当然、そんな不自然な姿勢は、大きな隙となる。
恭介は素早く接近して例の剣を取り出し、膨大な魔力を込めながら振りさげる。
ステルスモードであるため、敵には恭介の姿は見えないはずだったが、風圧などを感知したのだろう。
敵は、その剣を受けるように剣を構えた。
が、その剣ごと、恭介は自分の剣に重量を加えながら、押しさげる。
勢いのまま、敵の首に、大きな衝撃が加わった。
敵の首が、不自然な形に曲がる。
「が」
敵の喉から、異音が漏れた。
敵が倒れ込まなかったのは、六本あるうち、四本の腕を地について、体を支えていたからだ。
その腕も、横からの力により、払われる。
無様な音をたて、敵の長身が地面に転がった。
「おまけ」
敵の、三つあるうち、開きっぱなしになっている口から火花が散り、煙が吐き出されはじめる。
続いて、その口の中が、爆発した。
「なにをした?」
「口の中にZAPガンを発射したあと、安全ピンを抜いた手榴弾を咥えさせた」
ステルスモードのまま、恭介と遥は、そんなやり取りをする。
確かに強い敵ではあったが、まるっきり攻略法がないわけではない。
しぶとくしつこく、こうしてダメージを与え続ければ、いつかは機能不全になり、倒すことは可能だろう。
敵は、一つの口から黒煙を吐きながら、どうにか姿勢を立て直そうとしている。
しかし、片足の膝がうまく制御出来ないのか、心持ち、肩が傾いでいた。
首も、少し曲がっている。
「さっきの膝裏アタック、もう一回出来ないかな?」
「どうかな?」
遥に提案され、恭介は首を傾げる。
「一度やられた攻撃は、当然警戒しているだろうし。
次も成功するとは限らない」
試してみる価値くらいは、あるだろうが。
あまり過大な期待は、しない方がいい。
二度目の膝裏攻撃は、やはり成功しなかった。
敵は柄の長い槍を取り出して、一本の手で操り、常時膝裏のあたりに左右させて、警戒するようになった。
学習能力は、それなりにあるんだよな。
と、恭介は思う。
なら。
恭介は、ZAPガンを取りだして、長い槍を握る手を撃つ。
魔法に抵抗のある手は、ダメージを受けたように見えなかった。
しかし、その手が握っていた槍の柄は、その場で消失して、残った部分が地面に落ちる。
慌てたように空手になった手が、なにもない空間を探って、新しい槍を取り出す。
その動きは、素早く隙がない。
なら。
恭介は、敵の膝裏に刺さっていた穂先を狙い、ZAPガンを火属性魔法に設定して、撃つ。
瞬時に加熱された穂先は白熱し、刺さっていた部分から細い煙が出はじめた。
膝の関節部に、さらにダメージが入っているのは間違いなさそうだ。
彼方は、敵の足取りがだんだん怪しくなっていることを察知して、挑発するように敵の左右に移動している。
移動しながら、たまに、盾で敵を殴る。
敵は、以前のように軽快に動けず、なかなか彼方の動きに対応出来ないでいた。
五本の腕でそれぞれに持った武器を振るい、目前の彼方の動きに対処しているようだが、どうしても何拍か遅れ、時に、盾の殴打をまともに食らう。
何度も盾で殴られるうちに、だんだんと足元が怪しくなり、そのまま倒れそうになる。
「敵に足を使わせろ」
恭介が、遠くから彼方に呼びかけた。
「こいつは、自動的に動いている。
敵の膝に、負担をかけるんだ」
「了解」
彼方は返答し、盾だけではなく、倉庫から新たな剣も取り出して、何度も敵の胴体にぶつける。
実効的なダメージを与えるため、というより、敵に自分の居場所をアピールし、挑発するための攻撃だった。
そうして攻撃しながら、彼方はそれまで以上に激しく、素早く、左右に動いては、いきなり敵と間合いを取る。
という動きを繰り返した。
敵は、動きが制限された膝のまま、愚直に彼方の動きに対処しようとしている。
結果、だんだんと穂先が刺さったままの膝が沈み、体の傾斜がさらに大きくなった。
恭介はアンチマテリアルライフルを取りだし、それに徹甲弾を込めて、敵の膝裏を撃つ。
がくん、と、敵の姿勢が崩れ、動きがしばらく止まった。
恭介はもう一度、今度は傷ついていない方の膝裏に、徹甲弾を撃ち込む。
敵は、倒れこそしなかったが、大きく背後に体を傾け、今にも倒れそうな体勢になる。
武器を手放して、四本の腕を地面に伸ばし、転倒を防ごうとした。
その手首に、恭介は徹甲弾を撃ち込む。
一発ではなんにも異常がないように見えたが、同じ手首に何度も徹甲弾を撃ち込むと、どうにか衝撃で手首を砕くことに成功した。
これで、この手首に関しては、武器を手に取れなくなる。
「が」
敵が、顔のひとつをこちらに向けたので、恭介はその顔に徹甲弾を撃ち込み、ついで、穂先が刺さっていない方の膝裏にも、徹甲弾を撃ち込む。
敵は、そのまま地面に伏せそうになり、かろうじて、しかし突き出していた腕に体重を支えられる形で、倒れ込まずに済んだ。
だが、それが不自然で、不自由な体勢であることには変わりがない。
「よ」
どん、と、不自然な体勢になっている敵の体が、大きく地面に叩きつけられる。
腹部に、大きく跳躍した遥が、飛び乗ったのだ。
遥はそのまま、安全ピンを抜いた手榴弾を何発かばら撒いた上で、すぐにその場から逃げ出す。
敵の周辺で、何度も爆発音が鳴り響いた。
爆発による煙が晴れてくると、煤にまみれた敵の姿が視認出来るようになる。
どの程度、ダメージが入ったのかは不明であったが、嫌がらせにはなったようだ。
硬い敵だな。
と、恭介は思う。
「が」
「が」
三つあるうち、無事な方の二つの口から、そんな音が漏れる。
かなり汚れた状態であったが、敵は、ゆっくりと起き上がろうとし。
そして、片側から、無様に転倒した。
どうやら、穂先が刺さったままの膝裏が、完全に制御不能になったらしい。
人間でいえば、「その箇所に力が入らない」状態なのだろう。
残った片足で、敵は、賢明に直立しようとしている。
片足のみでの姿勢制御アルゴリズムは、少なくともデフォルト状態では、内蔵されていないようだ。
これで、敵の機動力は大幅に制限出来た。
と、恭介は、思う。
「残った片足を狙って」
短く、恭介は指示を出す。
もう一本の足も、潰せるとかなり楽になる。
恭介自身も、アンチマテリアルライフルに徹甲弾を装填しては、残った膝裏や他の部分に、執拗に攻撃を加えていく。




