子のダンジョン、攻略
扉を開けるのと同時に、巨大な直径五メートルほどの火球が発生して中に突入していく。
続いて恭介は雷撃の魔法もいくつか中に撃ち込み、それからスキルによりステルスモードに移行。
「今ので、半分以上敵が減った」
システム経由で、彼方の声が聞こえる。
「危なくなったらぼくが割り込むから、二人は好きに暴れてみて」
遥は、恭介よりも先にステルスモードに移行して、暴れているのだろう。
残っていたモンスターが、一体、また一体と姿を消していく。
なら、おれは。
恭介は杖をZAPガンに持ち替えながら、そう思った。
ダンジョンマスターっぽいやつを、攻撃しておくか。
子の迷宮のダンジョンマスターは、ブルドッグみたいな頭部を持った、身長三メートルほどのモンスターだった。
他のモンスターは、大きくても身長二メートルほどだったから、多分、一番大きなあのモンスターが、マスターなのだろう。
巨大な盾と剣を手にしているところを見ると、戦士タイプなのかも知れない。
手にしていた盾は表面が焼け焦げていて、どうやら、先ほどの恭介の魔法攻撃は、あれで防いだらしい。
恭介がそんな風に観察している間にも、周辺のモブっぽいモンスターがバタバタと倒れていく。
もう、ハルねーだけでいいんじゃね?
などと、恭介は思う。
思いつつ、何度もZAPガンを放ったが、すべてダンジョンマスターの盾によって阻まれた。
ダンジョンマスターらしい実力は、どうやら持ち合わせているようだ。
恭介は、ZAPガンを素早く操作して、威力を最大に設定し直した。
実のところ、このZAPガン、威力を最大に設定して撃ったことは、まだない。
ここで試してみてもいいか。
軽く、そう思いつつ、恭介は引き金を引く。
ダンジョンマスターが持つ盾が、瞬時に、半分ほど消失した。
無属性魔法、強いな。
そう思いつつ、恭介は立て続けに引き金を引く。
ダンジョンマスターは、手に残っていた盾の残骸を恭介の方に投げつけ、その軌道に割り込んだ彼方が盾で敵の盾の残骸を弾く。
ダンジョンマスターが、吠えた。
一瞬、体が痺れるような感覚があったが、恭介はそのままZAPガンの銃口をダンジョンマスターに向ける。
ダンジョンマスターの巨体がこちらに突進して来て、それを、彼方が盾で受け止めた。
重い、厚みのある音が、あたりに響き渡る。
恭介が引き金を引くと、ダンジョンマスターの頭部が消失した。
その頃には、周辺に散らばっていたモブっぽいモンスターも遥に掃討されている。
恭介は、残ったダンジョンマスターの体にも、何度か引き金を引く。
戌のダンジョンマスターのように、再生能力を持っていることを危惧していたため、ここで手心を加える必要は感じなかった。
何度か引き金を引いて、ダンジョンマスターの体が完全に見えなくなった頃。
ようやく、頭の中にメッセージが響いた。
『子のダンジョンが攻略されました』
「攻略完了、なのか?」
「攻略完了、だねえ」
恭介と彼方は、顔を見合わせて頷き合う。
「ってえことは、このダンジョン、推奨レベル九十以上、ってことなのかな?」
「これまでは、ね。
これからは、もっときつくなってもおかしくないけど」
「一度クリアしたから、難易度の調整、入るかあ。
他のプレイヤーに、怨まれるかな?」
「他のダンジョンは、ここよりは緩いようだし。
大丈夫じゃないかな?
それに、きついダンジョンで苦労してレベルあげしておくのも、プレイヤーにとっては悪いことではないよ」
「あっちになんか、宝箱が出ているんだけど」
ステルスモードを解除した遥が、二人に声をかける。
「あれ、開けちゃっていいかな?」
「三つあるから、三人で同時に開けよう」
彼方が、慌てて提案する。
「攻略完了のアナウンスがあった以上、トラップはないと思うけど」
三人は宝箱の前まで進み、いっせいの、と合図をして、一気に蓋をあげる。
三人が子のダンジョンから出ると、順番待ちをしていた人が、無言で三人を見守っていた。
おそらく、だが。
と、恭介は考える。
ここのところ、このダンジョンでは、一度中に入っても、ごく短時間のうちにダンジョンの外に帰還してくるのが「普通」のプレイスタイルだった。
ところが恭介たちは、最初のアタックで一時間以上の中に入り続け、結果、いきなりダンジョン攻略を終わらせてしまっている。
攻略終了のアナウンスは、プレイヤー全員に通達されるわけで、誰がやったのか、間違えようがない。
呆れ。
恐れ。
戦慄。
そういった感情が錯綜して、どう言葉をかけていいのか、迷っているのだろう。
「お、お疲れ」
手前のプレイヤーが、ぎこちない笑みを浮かべて、ようやくそんな言葉を絞り出した。
「お疲れ」
「お疲れ」
「お疲れ」
残りのプレイヤーたちも、強ばった表情で、そう続けていく。
なんだかなあ。
と、恭介は思う。
周囲は、思いっきり微妙な雰囲気に覆われていた。
三人は適当に返答しながらマウンテンバイクに乗り、そのまま逃げるように拠点へと向かう。
なぜだか、いたたまれない気分になっていた。




