明朗会計
「それじゃあ、獲得ポイントは折半でいいかな?」
卯のダンジョンを出た直後、彼方がいった。
「PPはこっちが総取りしちゃったから、その分、そっちがCP多めでもいいけど」
「いや、ちょっと待って」
阿辻が、それを止める。
「PPがそっちの総取りになっているって時点で、こっちの三人はほぼなにもしていないわけでね。
それでCPまで折半は、かなりおかしいでしょ」
「本当、わたしら、なにもしていない」
斎木も、そういった。
「わたしら三人、なにをしについていったの?」
「水中戦でのノウハウを、学習するため」
鹿骨が、そういう。
「そういう、建前であったはずなんだが。
ああ。
こういうのもなんだが、君たち三人とわれわれとでは、実力差がありすぎるんだな。
そちらの索敵能力と即応性が高すぎて、こちらの三人がなにか気づく前に、戦闘が終わっている。
これでは、なんの学習にもならない」
「いわれてみれば」
恭介は、その言葉に頷く。
「今回の目的は、それでしたね。
こちらの配慮が、行き届きませんでした」
「いや、謝られても、かえって対応に困るんだが」
鹿骨は、苦笑いを浮かべる。
「だがまあ、基本的な戦法だけは、どうにか理解した。
察知スキルによる早期警戒と敵の補足、続けて、迅速な対応による撃破を繰り返してけばいいのだな。
理論上だけなら、十分に理解が出来た」
「問題は、それをわたしらが自分で出来るか、ってところよね」
阿辻が続ける。
「それは、実際にやってみないと、なかなか身につかないっていうか」
「そう、なるよね」
斎木も、阿辻の言葉に頷く。
「そのためには、今度はトライデントの人たち抜きでダンジョンに入って、いろいろやってみるのが一番だと思うけど」
「そうなんだよねえ」
阿辻も頷く。
「これ以上同行して貰っても、こちらの学習が遅れるっていうか、下手すると依存心が生まれる。
どちらのせよ、いい影響にはならない」
「それでは、こちらはもう打ち切りってことでいいんですか?」
恭介が、確認する。
「あ、いや。
これから、ダンジョン内部の状況によっては、また手を借りる可能性はあるかも知れない」
慌てて、鹿骨がまくしたてる。
「決して君たちを、ないがしろにしているわけではないんだ。
ただ、これ以上にダンジョン内部に同行して貰うのも……」
「いや、わかってるから」
遥が、なおも続けようとする鹿骨を止める。
「水の中でも、その他の場所でも、基本はいっしょ。
敵の早期発見と殲滅。
サーチ&デストロイだからね。
それさえ徹底出来れば、なんとかなるでしょ。
なんとかならない時は、さっさとリタイアして」
「あ、ああ」
鹿骨は、いった。
「すまないな。
こんなに、時間を取って貰って」
「いえ、別に。
気にしてはいませんから」
彼方が答えた。
「どうせ薄謝でしょうけど、生徒会の方からもなにがしかの謝礼が出るはずですし。
それに、こちらも水中機動についての経験が積めたわけですから、お互い様ですよ」
「他のパーティもぼちぼち育ってきているようだから」
恭介がいった。
「おれたちも、ダンジョン攻略に参加する時期に来ているんじゃないかな?
この、卯のダンジョンを含めて」
「そだねー」
遥が、軽く頷く。
「結局、初日に攻略できた三つ以外、攻略完了出来たダンジョンってないわけだし。
わたしらが参加すれば、いくらかみんなの刺激にはなるだろうし」
「その前に、今回ゲットしたモンスターの死体なんかは、どうしようか」
彼方が、その場に居た全員に確認する。
「このダンジョンの、水の中に入ったパーティはいないって聞いているし。
今の時点では、貴重なサンプルになると思うけど」
「それは」
いつの間にか彼方の背後に立っていた桃木マネージャーが、いった。
「こちらに、任せて貰えませんかね?」
「ああ、桃木ちゃん」
遥がいった。
「この子、酔狂連の人。
で、桃木ちゃん、いつからここに来てたの?」
「トライデントの方がようやくダンジョン内部に入ったと聞いて、慌ててやって来たんですよ」
桃木マネージャーは、そう答える。
「油断も隙もない。
今、貴重なサンプルを、勝手に処分しようとしていたでしょ?」
「いや、勝手に、っていうか」
彼方がいった。
「基本、こういうのは、ぼくたちの戦利品なわけで」
「いいから、引き取らせてください」
桃木マネージャーが、彼方に迫った。
「うちに居る好奇心の塊たちが、いまかいまかと待ち構えているんです。
今なら、マーケット価格に若干の色もつけられます」
「ええ、と」
彼方は、助けを求めるように、他の面子の顔を見回す。
「この人に、売っちゃってもいいかな?」
彼方以外の全員が、こくこくと無言で頷いた。
墨俣ジョーズとは、
「モンスターの死体を売った分のCPは、トライデントの取り分とする」
ということで、どうにか了解して貰った。
かなりの時間を取って、なんだか尻すぼみな結果に終わったことに、どうやら彼らは忸怩たるものを感じているようだった。
恭介たちにしてみれば、今後の展開も踏まえた上で、貴重なアンダーウォーターの経験を積めたので、さほど不満はない。
というより、この時間をもったいないと思うのなら、自分たちだけで卯のダンジョンに入ればいいだけ、なのだ。
「それで、今日はどうする?」
彼方が、恭介たちに確認する。
「拠点に帰るには、ちょっと早いくらいの時間なんだけど。
どこか、寄っていく?」
「どこか、空いているダンジョンがあったら、一度入ってみるか」
恭介が呟いた。
「考えてみると、初日のダンジョンマスター戦と、今日の卯のダンジョン。
おれたちがダンジョンについて経験しているの、この二つだけ、なわけで。
普通のダンジョンがどうなっているのか、覗いてみたいかな」
「いいね」
遥がいった。
「ちょっと面倒なことになったら、即出て来ればいいだけだし」
三人は一度、中央広場に出る。
「ここ数日で、ずいぶんと賑やかになったよね」
「あ。
あっちで、カラオケやっている」
「娯楽が少ないからなあ、この世界。
今、空いているのは、子のダンジョンだね」
「最初に死者を出したダンジョン、だな」
「他のダンジョンと比べると、出て来るモンスターが強めらしいね。
だからか、腕に覚えがあるパーティしか、選ばないって」
「だから、空いているのか」
「だったら、ぼくたちはちょうどいいね」
そんなことをいい合いながら、マウンテンバイクに乗った三人は子のダンジョンまで移動する。




