事前の準備
その日も、三パーティ合同での夕食となった。
「石窯、買ったのかあ」
「ピザ、焼けますね」
「焼けるな」
「パンも、焼けますね」
「焼けるな」
「クッキーも、焼けますよね」
「焼けるな」
「使ってない時、貸して欲しいな、この石窯。
試してみたいことがある」
「いいですよ、使っても」
彼方が答える。
「これ、うちの方ではそんなに使用頻度は高くはないと思うんで」
「薪の有効利用を考えているのは、流石だ」
「周囲に燃料がいくらでもあるから、使わないと損かな、って」
「あと、ダッチオーブンもあるといいかも。
あれも、応用範囲が広いと聞くからな」
「検討しておきましょう」
「今日は、エビドリアと具だくさんのマリネ、か」
三和がいった。
「食生活が豊かになるのはいいことだとは思うが、少し努力するべき方向性が間違っている気もする」
「ぶっちゃけ、元の世界に居た時よりもこっちに来てからのが、いいもの食べているよね」
遥も、そういう。
「金に糸目をつけずに食材を買い漁れることありがたさが、身に染みる」
「楽しみらしい楽しみが、他にないしね」
彼方がいった。
「多少なりとも、気晴らしになれば、と」
「それで、今度は水中戦、ですか」
武器職人の岸見が確認してくる。
「水は、空気よりもよほど比重が大きく抵抗も強いので、どうしても突きのみが有効な攻撃になります。
刀剣類はもちろんのこと、槍も、使い方によっては駄目ですね。
一番いいのは、銛。
古来、漁に使われています。
そちらのパーティ名と同じ、三叉銛を誂えますか?」
「それもお願いしたいんだけど」
恭介が答えた。
「ZAPガン。
あれも、水属性専用のやつ、いくつか用意して貰えないかな。
もちろん費用は負担する。
あとで生徒会に払わせるかも知れないけど」
「水属性専用のZAPガンですか。
考えましたね」
岸見はいった。
「実質、質量弾を打ち込むようなものだから、効果はあるでしょう。
ただし、馬酔木くん以外のユーザーに、どれほどの威力を出せるのか。
実際に水中で試してみないことには、なんともいえません」
「なら、とりあえず二十個くらい、作っておいて貰えないかな」
恭介は、正式に依頼する。
「その威力によっては、おれたちが協力する必要もなくなってくるし」
「そうだね」
彼方が頷いた。
「会長がいうには、水中での戦い方がわからないってことだから。
水中でも十分な殺傷能力を持つ武器があるのなら、わざわざぼくたちが指導をする必要もなくなる」
「作るだけなら、簡単です。
なにしろ、既存の製品から機能を省略するだけですので」
岸見は明言した。
「部品も揃っているので、明朝までには二十くらい、わけなく用意することは可能なんですけど。
ただ、威力のほどは、本当に、試してみないことには、なんともいえないので。
こちらとしては、保証出来かねます」
「魔力操作能力の個人差、ってやつでしょ」
恭介はいった。
「おれたちは理解しているし、実際に試験してみれば、その場に居る人たちも納得すると思う。
むしと、おれと他の人たちが、同じ武器を使用して見せた方が、手っ取り早く理解して貰えるんじゃないでしょうか?」
「そうですね」
岸見は頷いた。
「まずは、試してみないことには、ですよね。
それに、そういう公開試験を繰り返すことで、魔法を使用した武器への理解が広がるってこともありますし。
わかりました。
明日までに、水中用ZAPガン二十丁、用意しておきましょう。
ストックしてある部品を組み立てるだけですので、そんなに手間もかかりませんし」
生徒会から依頼されている「水中戦指南」については、トライデント内部で検討した結果、
「とりあえずやってみる。
だけど、実際にどれほどの効果があるのか、まったく保証出来ない」
という結論に至った。
生徒会にもその旨を連絡し、
「満足がいく効果がでないのかも知れない」
という点には、理解して貰っている。
なにしろ、これまでに誰も試していない行為について、模索するのだ。
成果のほどなど、事前に予測出来ようはずもない。
ただ、
「いろいろ試してみる」
ことに関しては、トライデント側も反対していなかった。
無駄な努力に終わるかも知れないが、試してみること自体には、相応に意味がある。
失敗例を積み重ねることも、含めて。
「キョウちゃん」
遥が、恭介にいった。
「今のうちに、狙撃手の固有スキル教えておいて。
ええと、命中補正と、集中。
だっけ?」
「ああ、ぼくも」
彼方が、それに追従する。
「水中戦だと、どうもそっちのスキルが必要になりそうだからね」
遥と彼方は、順番に恭介と手を繋ぎ、固有スキル「命中補正」と「集中」を教授される。
「なにか、新しいジョブ、手に入った?」
「なんにも」
「こっちも、なしだね」
恭介が確認すると、遥と恭介はそういって首を横に振った。
そうそう、毎回、新ジョブが手に入るわけでもないらしい。
「新しいスキル、試しておきたい」
遥はいった。
「特に、命中補正の方。
これって、確か、道具を使わない投擲なんかでも、効果があるんだよね?」
「そのはず」
恭介は頷く。
「おれが前に試した時は、ちゃんと機能したから」
「まあ、明日以降だね」
彼方がいった。
「性能試験とか、そういうのやるのは。
寅のダンジョンに挑みたいってパーティにも、生徒会がこれから連絡取るみたいだし。
明日の朝一から呼び出されるってこともないでしょ」
別に、一刻を争うような性質の依頼でもない。
彼方としては、まずはこちらの対応策を十分に用意し、その上で今回の仕事相手と対面するつもりだった。
「ドリアは、ナポリタンと並んで和食イタリアンの双璧だと思う」
エビドリアを食べながら、緑川が意味不明な発言をしている。
「おしいから、なんでもいい」
「焦げ目のついたホワイトソースでしか、摂れない栄養素がある」
「熱々なのが食べられるのは、幸福ですね」
魔法少女隊の他の面子も、似たようなものだった。




