報酬閑話
拠点に帰ると、魔法少女隊と酔狂連の連中が総出で出迎えてくれる。
どうやら、わざわざ待ってくれていたらしい。
「今日はご苦労だったなあ」
酔狂連の八尾が、労ってくれる。
「そちらも、後始末が大変だったでしょう」
「毒ガスの件か?
いやまあ、後始末も含めて覚悟はしていたつもりなんだが、あのあと生徒会からこってり絞られてなあ。
そっちに時間を取られたのは、想定外だった」
「もうやるなと禁止でもされましたか?」
「いや、やるなら事前に連絡しろと。
むしろ、生徒会としては推奨したいくらいの雰囲気を感じた」
八尾は、真顔でそういう。
「明日は、朝一で虫系のモンスターが出るダンジョンでやることになっている」
「寅のダンジョンですか」
恭介はそういって頷く。
「生徒会としては、各ダンジョンの攻略実績を、とりあえず全部解除しておきたいのかなあ」
「それと、ダンジョン内部の情報が目当てなんじゃないかな?」
彼方が、指摘をする。
「ダンジョンマスターが存在するってことがわかった今、内部の様子もどんどん変わっていくだろうし。
そうして集めた情報に、どこまでの価値があるのか、微妙なところなんだけど」
「ダンジョンマスター?」
八尾が、首を傾げる。
「そんなのが存在するのか?」
「少なくとも戌のダンジョンには、存在しましたね」
彼方は答える。
「だとすれば、他のダンジョンにも存在すると仮定しておいた方がいいでしょう」
「道理だな、それは」
八尾は、頷く。
「まあ、詳しい話はメシを食いながらにしよう。
全員が居る前でした方が、効率がいい」
その日の夕食は、
「ご馳走になってばかりも悪いから」
とのことで、酔狂連が用意してくれた。
「冷凍物で悪いんだが」
とかいいながら、うな重が人数分、調理されている。
わざわざ、七輪を買って、パーティ総出で焼いたそうだ。
「いや、そっちのダンジョン攻略完了祝いもかねて、でしょ」
遥が、つっこむ。
「正直、それもある」
八尾は、素直に認めた。
「ただちょっと、用意する人数が増えただけだ。
素人料理なんだが」
「冷凍でも、素人料理でも、うなぎはうなぎ」
緑川が、厳かな声でそう告げる。
「貴重な絶滅危惧種に、罪はない」
「それもそうだな」
三パーティ合同で、例によって薪ストーブの間で、夕食会となる。
酔狂連が用意したうなぎは、普通にうまかった。
「手段はともかく、ダンジョン一つを丸ごとたいらげたわけですから」
マネージャーの桃木は、真顔で報告した。
「当パーティの財政状況は、格段に改善いたしました」
「それと、メンバー各員のレベルアップも著しい」
三和が、続ける。
「どうせモンスターを倒すのなら、これくらい効率よくやらないと旨味がないね」
「リーダー、毒ガス作戦がうまくいったんで、調子に乗ってる」
武器職人の岸見がいった。
「製造業の方もぼちぼち軌道に乗りはじめているんですから、そんなに焦る必要もないと思うんですけどね」
「でも、ダンジョン丸ごといくと、獲得可能な素材質と量が」
分析者の浅黄青葉が、含み笑いをしながらそんなことをいう。
「まあ、無料で大量の素材がゲット出来るのは、研究者としてはかなりおいしいですね」
これは、青葉の妹である浅黄紅葉の言葉だった。
つまりは、相応のメリットがあるため、毒ガス作戦に踏み切った。
と、いうことらしい。
「それで、師匠たちの方は?」
青山から促され、恭介たちはポツポツとダンジョンマスター討伐の顛末を語る。
「その分だと、確かに長期化しそうだな」
一通りのこと聞き終えたあと、三和がいった。
「在庫の補充分、もう少し増やしておくか」
「それと、新しい武器の開発もして貰いませんと」
桃木がつけ加える。
「定番商品ばかりだと、すぐに、ユーザーに飽きられますよ」
飽きるとか、そういう問題なのだろうか?
と、恭介は疑問に思う。
「それで、師匠たちにはなにか、特別な報酬とかは出ましたか?」
仙崎が確認してくる。
「とりあえず、報酬は破格だったな」
恭介が平静な声で告げる。
「モンスター一体あたりの報酬としては、ってことだけど」
「どれくらい、いきましたか?」
「PPとCP、両方ともに二億ずつ」
おお、と、感嘆の声があがる。
「ぼくは、少し少なくて、一億五千万だったな」
「わたしも同じく」
彼方と遥が、それに続ける。
「いずれにせよ、一億越えかぁ」
赤瀬が、半ば呆れたような声を出した。
「モンスター一体でそれとは、なんか、とんでもないっていうか」
「ダンジョンマスター、だからだろう?」
「特別な個体らしいし」
「そう聞くと、こちらの報酬がしょぼく思えてくるな」
八尾が、ため息混じりにいった。
「いや、こちらも、総額の取り分だと、その何十倍にもなるわけだが。
ただこっちは、準備にかかった時間や労力、それに、後始末の手間なんかも含めてだからなあ」
「大量の研究素材がゲット出来たから、それでもよし」
浅黄青葉が、力強く断言する。
「生産職には生産職なりの、基準がありますから」
浅黄紅葉も、姉の発言に追従した。
「それと、アイテムなんかは?」
青山が、トライデントの三人に確認する。
「なにか、特別なものとかなかったですか?」
「アイテムは」
「特に、なにも」
恭介たちは、首を横に振る。
「ただ、一つ」
そのあとに、恭介が続ける。
「転職可能なジョブが増えていて。
ただこれは、ちょっと使いどころがないジョブだからなあ。
このまま、封印だろう」
「ああ、ぼくが、デーモン族のガードを倒した時みたいに、か」
彼方が、恭介の言葉に頷く。
「で、なんていうジョブなの?」
「狂戦士」
恭介は、渋い表情で答える。
「一般的なイメージそのままに、このジョブになると各種パラメーターが増幅する代わりに、敵味方見境なく攻撃する。
だって」
「確かに」
彼方は、一度吹き出してから、そういった。
「それは、使いどころのないジョブだね」
「あのダンジョンマスターが、色をつけておいたっていってたの、このことか」
遥は、思案顔になる。
「あいつ、絶対自分基準で考えているな。
誰もが、そんな特性を欲しがると思っているなよ」
「まあ、モンスターの価値観であり、考え方であるからな」
三和は、したり顔でそういった。
「人間の基準でいったら、それ、相応の齟齬はあるだろう」
「なまじ会話が可能なだけに、その辺の違いは改めて認識しておく必要があるよな」
恭介も、不機嫌な顔のまま、そういった。
「今日のダンジョンマスターも、会話は可能だけど、理解し合うことは難しいと感じたし」
「酔狂連さんの方は、なんか特別な報酬とかなかったっすか?」
赤瀬が、気軽な調子で問いかけた。
「事前の通知では、ダンジョン攻略成功の際は、なにかいいものが貰えるってことだった筈だけど」
「それなあ」
三和はそういって、自分の倉庫からいくつかの球体を取り出す。
「これが、ダンジョン攻略の報酬らしい」
「なんですか、これ?」
赤瀬は、首を捻る。
「全部で、六つありますが」
「こちらのメンバー数に合わせたんだろうね」
三和がいった。
「これ、ジョブチェンジの宝玉。
この球体を手に取ると、その人が現在転職可能なジョブが表示される。
その中の一つを選択すると、宝玉を消費して実際に転職も出来る」
「凄いアイテムじゃないっすか!」
赤瀬は、叫んだ。
「身近にほいほい転職している人がいるから麻痺していますけど!
上位職への転職って、まだ全然実例が少ないですからね!」
「戦闘職の人たちにとっては、貴重なアイテムなんだろうねえ」
その球体を弄びながら、三和はいった。
「ただ、非戦闘職のわれわれにしてみると、宝の持ち腐れというか。
生徒会からは、自分で使うなり売るなり好きにしろといわれたよ。
彼ら生徒会にしてみれば、誰が使おうと、全体の戦力向上にはなるからね」
「ちなみに」
桃木が、補足説明をする。
「オークションには現在、同じ宝玉が二個、出品されています。
なんだか笑っちゃうぐらいのポイントにまで、値あがりしているところですが」
「ああ」
彼方がいった。
「ユニークジョブズの、二人組か。
彼らも、今さらそんなアイテムを使う必要がないからね」
ダンジョンの攻略に成功すると、参加メンバー数に応じて、その宝玉が手に入る。
これは、どうやら確実のようだ。
今日の恭介たちの場合、ダンジョン攻略には最後の部分だけしか参加していない形になるので、通常の対応ではなかったのだろう。




