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ショートショート8月2回目

学級会議

作者: たかさば
掲載日:2021/08/09

自分の名前が、キライだった。


・・・世界を見ると書いて、せみ。


「やーい!セミ、せみ―!!」

「むしさん、一緒に遊ぼ―!」

「ねえねえ、木にはり付かなくていいの?」

「牛乳よりも樹液の方がいいんでしょ!」


名前でいじめられること、数年。

名前をいじられる事、数年。


「ねえ、なんでセミって名前つけたの?あたし、もう学校行きたくない。……みんながバカにするの。」

「そんなの無視しとけばいいでしょ!早く学校行きなさい!!」


また、どうせ、今日もいじられる。

……セミのなく季節は、とくにひどいのだ。


先生に言っても何もしてくれない。

親に言っても怒られるだけだ。


私はスルースキルを身に付けた。


「今日もお前フミつぶしてきたわ!」

「朝早くからうちの庭で鳴かないで欲しいんですけど!」

「ちょっと!!セミちゃんがかわいそうでしょ!!ぷっ、ククク…やめなよ!!」


……私はクラスメイトの言葉なんか、気にしない。

だまって本を読むことが……、多くなった。



「はい、それでは今日の音楽の授業は、テレビを見まーす!」


ある日、音楽の授業でテレビ番組を見ることになった。

リコーダー演奏がメインの、小学生向けの音楽番組である。


『やあ、糸川のおじさんだよ!今日から一緒にリコーダーがんばろうね!』


テレビに映るのは、ひげもじゃの眼鏡をかけた太ったおじさん。

お世辞にもカッコ良くないな、そんなことを思っていたら。


「わあー!糸川だって!初美の父ちゃんじゃねえの!!」

「そっくり!デブだし!!」

「糸川のおじさーん!!あ、おばちゃんだった!」


やんちゃな男子たちが騒ぎ始めた。


「ちょっと!!静かに見なさい!!」


先生の一言で、騒ぎは収まったのだけれども。

音楽の授業が終わった後、再び大騒ぎになった。


「ねーねー糸川のおじさん、給食もっと多めに盛ってよ!」

「糸川のおばちゃんは、もうじきもじゃもじゃになるんでしょ!」

「すごーい、デブの血筋って名字だったんだね!!」

「糸川のおじさんのくせにそんなにリコーダーへたくそとか!」


「……なんで、なんでそういうこというの?」


糸川さんは、体は大きいけど、ずいぶん繊細な女子だったらしい。

給食の時間に派手に泣き出してしまい、そのまま保健室に行って、早退してしまった。


やんちゃなクラスメイトのいじりに心を痛めた彼女は、次の日から学校に来なくなってしまったのだ。


「あんだけで学校休む?!ありえねえ、マジねえわ!!」

「デブのくせによっわ!!」

「も~やめなさいよー、くすくす……。」


「いいですか!!クラスメイトの名前を笑ってはいけません!」


私がどれほど訴えても何一つ対応してくれなかった教師だったが、不登校児を出してはまずいと思ったのか、学級会議が開かれることになった。

教室の後ろには、糸川さんのお母さんと思われる人物と、校長、教頭の姿がある。


「糸川さんは名前を馬鹿にされたことで傷ついてしまいました。みんなはどうしたらいいと思いますか。」


「からかうのはいけない事だと思います。」

「同じ苗字の人はたくさんいるので仕方がないことだと思います。」

「ふとっていることを本人に言ってはいけないと思います。」

「自分が言われて嫌なことは言ったらだめだと思います。」

「私は名前を笑われたら悲しいと思いました。」

「僕が名前を笑われたら殴ると思います。」

「暴力はいけないと思います。」

「暴力が出るようなことをしたらいけないと思います。」

「思いやりが必要だと思います。」


「私は今までみんなにセミと言われて悲しかったです。でも誰も謝ってくれませんでした。だから、名前で笑われても我慢するしかできませんでした。糸川さんも我慢するしかないと思います。我慢していたらそのうち慣れると思います。」


私の発言で、学級会議の空気が変わった。


あせったのは先生か、それとも。

マズいと思ったのはクラスメイトか、それとも。


「今までいじめを放置してたってことですか?!」


怒りに満ちたのは、糸川さんのお母さん…?

教室の後ろから聞こえてきた大声に、クラスメイトが一斉に後ろを向いた。



学級会議の結果、今までの私に対するいじり行為について謝罪がされることとなった。


「…世見ちゃん、今までひどいことを言ってごめんなさい。」

「悪かったな!!セ…原島さん。」

「「「「ごめんなさい。」」」」


今後はクラス内で友達の名前を呼ぶ際、名字にさん付けすることが決まった。

今後はクラス内で友達の名前をもじって、駄洒落にすることは禁止になった。

今後はクラス内で友達の名前をあれこれといじってはならないことになった。


あだ名の禁止、冗談の禁止、思いやりのない言葉の禁止。

助けてあげましょう、優しくなりましょう、ありがとうと言いましょう。


「柴田さん、昨日歌番組見たー?」

「あ、肩に何かついてるよ、取ってあげるね。」

「掃除手伝ってくれてありがとう。」

「あ、転んでる子がいる、助けよう!」

「宿題分かんなかったの?教えてあげるよ。」

「あのゲーム一緒にやろうよ、うちで遊ぼう。」

「家に行ってもいいの?ありがとう!」


やけにおりこうさんが多いクラスになっていく。

やけに気を使った会話ばかりのクラスになっていく。

やけに薄っぺらいやり取りの多いクラスになっていく。


けれど、夏休みが目前になっても、糸川さんは登校してこなかった。


クラスメイト全員で寄せ書きをして、糸川さんの家に持って行くことになった。


―――みんな待ってるよ!

―――元気な糸川さんに会いたいです。

―――また一緒にあやとりしようね!

―――きれいな絵を見せて欲しいです。

―――楽しく遊ぼう!

―――ひどいことを言ってごめんなさい、もう言いません。

―――これからもっと仲良くしようね。


糸川さんの家は、私の家から近かった。

学級委員の二人と一緒に、糸川さんのおうちに寄せ書きを持って行くことになった。


「こんにちは……5-3の学級委員田中と佐野と…原島ですが。」

「あら、こんにちは!ちょっと待ってね、初美!!はつみ―!!皆さん、こちらへどうぞ、お茶出すわね、上がってください。」


学級会議の時に見た、糸川さんのお母さんが出迎えてくれた。

大きなお部屋に通されて、お茶を出してもらった。


しばらく待っていると、お母さんと一緒に……糸川さんが現れた。

……ものすごく、残念そうな顔をしている。

クラス一のイケメン、松崎君が来ることを期待していたのかもしれない。


「ガリベンとみゆきおばさん、ミンミンかあ……。」


ぼそりとつぶやいて、向かい側のソファに沈み込み、クッキーに手を伸ばす…傷つき、不登校になってしまった、クラスメイト。


学級委員の田中君は、ガリガリに痩せていて…おなかを壊しやすくていつもトイレにこもっているから、ガリベンって呼ばれている。

副学級委員の佐野さんは、めちゃめちゃ発育が良くて大人みたいだから、ミユキおばさんって呼ばれている。

私は、名前がセミだから、ミンミンって呼ばれている。


「……あだ名、禁止になったから。これ、クラスメイト全員で書いた寄せ書きだよ。」

「この紙に、学級会議のルール、書いてあるよ。もう誰も糸川さんの事笑わないし、安心してね。」


田中君も、佐野さんも……優しいなあ。

学級委員をやるくらいだから、人間ができてるっていうか。


「明日、夏休み前の最終日だから、おいでよ。」


お高そうな紅茶を出してもらったから…一応、気を使って、声をかけて差し上げた。


「ぅん。明日は、行くね。」


クッキーを口にくわえながら、笑顔をこちらに向ける……糸川さん。

私も、笑顔を、返して差し上げたのだけれども。


……私のはらわたは、煮えくり返っていた。


―――ミンミンってやっぱり早死にするんじゃない?七日間の命だし!

―――セミってダニついてることもあるんだって!

―――ホーンと、セミってうるさいよねー!!!


あれほど、毎日のように、私の名前をいじり倒して喜んでいたくせに。


たった一日、名前をいじられただけで、一週間も休むとか。

たった一日、みんなに笑われただけで、傷ついちゃうとか。


たった一日、許せなかったあんたは、どれだけ私を笑ってきたのか、わかっているの?……ってね。


「じゃあ、明日待っています、ご馳走様でした。」

「ありがとうございました。」

「……しつれい、します。」


「アラー、もっとゆっくりしていけばいいのに!」

「またねー!」


元気よくお菓子を頬張りながら手を振る糸川さんに別れを告げ、三人そろって学校に向かった。

担任の先生に、寄せ書きを手渡せたことを報告に行かなければならないのだ。


「・・・元気そうだったね。なんかちょっと太ったみたいだった。」

「もう来なければいいのに。あの子すごく意地悪だし。ねえ、原島っち!!」


糸川さんのお宅からまっすぐ行って、右に曲がったところで学級委員の二人が口を開いた。

二人の表情は…ずいぶん、硬い。

二人とも、色々と…不満があるに、違いない。


「…学級会議でルールも決まったし、優しくなるかも、知れないよ?」


「ならないよ、たぶん。」

「一番初めにルール破るの、絶対あの子だと思う。」


この二人も、散々あだ名でいじられてきたから、恨みのようなものが、相当たまっていたのだ。


「まあまあ……明日が終われば、もう夏休みなんだから。」


「……そうだね。顔見なくてすむね。」

「楽しいことだけ考えよ、腹立つし。」


温厚で、やさしくて…、なかなか人の悪口を言わない二人のはっきりとした物言いに、ずいぶん、驚いたのだ。


次の日、一学期最終日……つやつやとした顔で登校してきた糸川さんは、1人、浮いていた。


「…なんでみんなイイコちゃんになってんの?なんかつまんない!」


たった1人で、思いやりに欠けるツッコミをし。

みんなの白い目に気付かず、あだ名呼びをし。

先生に何度も注意されては、ふてくされて。


だんだん、孤立するようになって。


たしか、クラス替えしてすぐに、不登校になってしまったんだよね。


中学から私立のお嬢様学校に入ったらしいけど、今頃ナニをしているのかなあ。


「お母さん!てぃあらちゃんちに行ってくるね!」

「はーい、気を付けて行ってらっしゃい!5時になったら帰るんだよ?お迎えにいく?」


「うん!むぎちゃんとつるぎくんいるから大丈夫!」


……今は、キラキラネームなんか珍しくないからなあ。


娘の友達には、「ティアラちゃん」「むぎちゃん」「剣くん」「すたあくん」「風ちゃん」「たたみちゃん」「はりくん」「闘魂くん」「タイガくん」など、ずいぶん個性的な名前の子達がいる。


けど、おかしなあだ名呼びをして笑う子がいるなど、一度も聞いたことがない。

むしろ、みんな仲良く名前を呼び合って……楽しそうにすごしている。


……私も、今の時代に生まれていたならば、自分の名前を愛することができていただろうか。


───父さんは、お前に世界を見渡せる人間になって欲しくて世見ってつけたんだよ。

───こんな名前、嫌い。お父さんなんかだいっ嫌い!


悲しそうにうつむいた、父の姿が、今でも時折、目に浮かぶ。


……セミの鳴く季節は、遠い昔を思い出す。


「お父さん、わたし、世見って名前、嫌だったけど……今は、そうでもないよ。」


晩年、毎日のように…、私にだいっ嫌いと言われた日の事を口にし、謝り続けていた父は、もう、いない。


私が、父に会うまでには…。


自分の名前を、大好きになれたら良いなと、思う。


私が、父に会えた時には…。


私に、素敵な名前をつけてくれてありがとうと、伝えたいと、思って、いる。


……まだまだ、先の話では、あるけれど、ね。

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― 新着の感想 ―
[一言] 小学校の時は、まぁ、名前と容姿がいじり対象ですからね。 仕方がないといえば仕方ないですけど。 からかうくらいならいいですけど、まぁ、本人が嫌だって言うならやめるべきで……。と。 ちょっといじ…
[一言] いますよね…… 平気で他人をいじるくせに、いじられたら傷つく人。 自分が言うことは 「悪気のない冗談」 と思ってるんですよね…… ラスト、お父さんと主人公のそれぞれの思いに、しみじみ来まし…
[一言] 私も昔、名前いじりに遭っていたのですが、世界ちゃんと反対で特に冬に言われてました。雪が降るたびに「ゆきが降ってるぞー!」とどや顔で言っていた男子たちを今でも雪が降るたびに思い出します。ちょっ…
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