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かつて救世の勇者転生、あるいはいずれ滅世の魔王降臨 ~王立学院の呪眼能力者~  作者: Sin Guilty


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第57話 『狩猟祭』①

 『狩猟祭(ウェナティオ)


 それは『秘匿封印国家(シールズ)』の一つであるエシュリア王国の主催で年に一度、夏待ち月――晩春から初夏にかけて行われる国際交流の祭事である。


 当然近隣諸国がその参加国であり、かつては再湧出(リポップ)した『魔獣』をその王家の力で封じ込んでいるエシュリア王国が宗主国として君臨していたからこそ、(つつが)なく成立していたと言える。


 だが千年もの時を(けみ)すれば、国家情勢は当然流転する。

 

 当然、市井で生きる民衆には再湧出(リポップ)した魔獣を封じていることは隠されているため、エシュリア王国に対する感謝の念など持ちようがない。

 かつては敬意をもってエシュリア王国に接していた近隣諸国も、代が変わるごとにそんなものは当然徐々に薄れていき、自国第一主義が取って代わるのは国家という組織の在り方として一概に非難されるべきものではないだろう。


 かつては強大な国力を有していたエシュリア王国もまた、自国内に魔獣を抱え込んだ状態ではその国力をすり減らしていくことは避けられなかった。現在すべての国家に対して一定以上の影響力を有している『汎人類防衛機構A.egis』による仲介があってなお、この千年の間に幾度か発生した局地的な紛争を経て、その力関係は大きく逆転してしまっている。


 今では各国の世論誘導(プロバガンダ)もあり、かつては宗主国であったことを傘に着た、偉そうなだけの老害国家だと近隣諸国の民衆からは見做されるにまで至っている。

 それどころかエシュリア王国民であってすら、その立ち位置を受け入れている者たちまでいる始末だ。

 どこの国にも自国を貶めたい自国民というものは、なぜか一定数存在するらしい。金を出してそんな者たちを煽り立て、自国にとって有利に働くように仕向けるのもまた、近隣諸国の諜報部にとっては当然の事でしかない。


 その生まれた国を貶めているエシュリア国民たちの一部とて、国が魔獣封印のために費やされる予算を明白にできないため、知識とそれを活かす知恵がある者ほど母国に対して懐疑的になってしまうことは責められない。土地や歴史――空気感としての祖国を愛するがゆえにこそ、どうしても胡散くさく見える現体制に対して批判的になってしまうことは、ある意味では当然とも言えるのだ。


 それを()()としてやっている者たちは論外だが。


 そんな状況ではあれど魔獣封印の一環として軍事力に大きく予算を割き、その後ろ盾をA.egis(秘匿組織)がしていることもあって、軍事的な侵略などの恐れは今のところはまだない。


 だが今や軍事戦争よりも経済戦争における勝敗こそが国力を左右する時代、どうしても魔獣封印の維持に膨大な予算を喰われるエシュリア王国が疲弊していき、他国から軽く扱われるようになることも受け入れざるを得ない、というのが近年の実状であった。


 「じゃあもうシラネ」となったところで、解き放たれた魔獣に最初に蹂躙されるのがその秘匿封印国家(当事者)であるというのは、なかなかに救えない事実ではあるだろう。


 人の善性を信じて本来全ての人が負うべき封印のための責務を、一部の国に押し付けてしまったことがそもそも間違いだったのだ。人は個であれば善性を発揮できることも多いが、集団――社会となれば悪性が表面化しやすい。というかそうでなければ、その集団は淘汰されてしまうと言った方が正しいかもしれない。


 つまり肥大化した自意識によってどんなキレイごとを(さえず)ろうが、組織生命体としてみた人の本質が利己排他であることは、その歴史が証明しているとも言えるのだ。

 同種族に対してさえそうなのだ、人以外の生命からみれば魔物や魔獣の方が正しい在り方なのかもしれない。


 当然、『狩猟際』においても年々近隣諸国の態度は度し難いものとなってきており、近年ではどれだけエシュリア王国に対して大胆(無礼)な言動をしたのかを各国が競い合い、そこで大人しいと自国民から「弱気」との批判を受けるという救えない状況にまでなってしまっている。


 人の社会、国家という組織集団がけして逃れられない宿痾(しゅくあ)ではあるが、客観的に見れば醜悪極まりないこの状況とて、魔獣封印の真実が隠されている以上は無理もないと言うこともできるだろう。知っていながらそういう方向へ世論を誘導し、それに乗っかって自国の利益を優先している事とて、国というものを利己排他集団と見做せば当然の事でしかないからだ。


 ちなみにこの流れは他の多くの秘匿封印国家(シールズ)各国でも起こって()()現象ではあるものの、一部の超巨大国家についてはその限りではない。


 要は調和を目指したお人よし国家はその負担も相まってなるべくして零落し、逆に秘匿封印国家であることを最大限に活かして周辺国家を実質属国と成し得た(したた)かな国は、文字通り強国、大国となり(おお)せたというだけの話である。


 その意味ではエシュリア王国の歴代王家は()()()たちだったのだろう。それがすなわち国家の繁栄につながらないばかりか、対外的には悪い人たちであった方がその国の民草は豊かになれたというのは、救えない話ではあれど事実の一端でもあるのだ。


 結果、現在の『狩猟際』は現王太子の娘であるシャルロットの婿――将来の王配として送り込む候補を自国の王族ではなく、上位とはいえ貴族の次男、三男を推薦するという、実現するはずもない婚姻話を繰り返すという醜悪な状況にまでなり下がっている。

 もはや当初の目的、理念は完全に失われてしまっており、狩りはもとよりその他の催しもすべてが形骸化しているのだ。


 今年は現在近隣諸国では最も経済力を有する隣国コリテオール王国の公爵家三男が王配候補として送り込まれており、その本人は万が一にでも通れば儲けもの、周囲はどうやって角が立たないようにエシュリア王国が断るのかをにやにやと見物する流れになっていた。


 だが――


明日2/27(木) 筆者の別作「その冒険者、取り扱い注意」のコミカライズ10巻がKADOKAWA様より発売です。何卒よろしくお願い致します。

また同じく著者の別作品「怪物たちを統べるモノ」の書籍版5巻が2/19(水)よりHJノベルス様から発売されております。そちらも何卒よろしくお願いします。


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