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かつて救世の勇者転生、あるいはいずれ滅世の魔王降臨 ~王立学院の呪眼能力者~  作者: Sin Guilty


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第55話 『かつて救世の勇者転生』⑤

 だからと言って他者の思想に文句をつける気もない。


 その思想が俺の思想と相いれなくても一向にかまわないが、対立し具体的な害をなすとなれば排除するだけだ。

 

 是非善悪が無いというよりもそういった在り方(思想)は本来、自分自身にしか適用するべきではないと言った方がいいのかもしれない。共感はできても、強いることも強いられることもあってはならない。社会性生物たる人としては言語道断の思想ではあろうが。


 こんな傲慢な考えに俺が至ったのは、間違いなくこの圧倒的な力のせいだ。


 個として同種の群れを圧倒できるだけの力を持っていなければ、どれだけ(さか)し気に「俺の考えた正しい在り方」をがなり立てたところで、社会性生物である人の社会では通用などしない。


 人とは思考能力とそれによる技術を手にした蟻なのだ。時に自身など比べ物にならない巨躯を誇る獣ですら蹂躙する蟻の群れに、一匹の蟻が敵うはずもないのは道理でしかない。


 数の力で異端として排斥され、始末されるオチにしかならない。

 その数の力――それを支える社会基盤(インフラ)ごと消し飛ばせる力を有して初めて、俺の寝言は寝言ではなくなる、


 だからこそ弱っていようが囚われていようが知ったことではなく、ここで間違いなくこの『滅尽竜ゼノス・ヴァリス』は殺す。それだけの力を有した存在()(うそぶ)く妄言は、世界が妄言としては扱えなくなるからこそ。


 ただこうやって俺だけではなくユージィンも魔獣を斃せるようになり、人の社会が魔物や魔獣を正しく脅威として認識できないようになれば、おかしな連中も湧いてくるかもしれないな。


 所謂(いわゆる)あっちの世界でも実際に存在していた、「くまさんを殺すなんてひどい。一生懸命生きているだけなのに可哀そう」と言い出すような連中である。


 俺は言葉だけでなにかを()()()連中が大嫌いだ。

 本当に心の底からそう思っているのなら、そのなにかを救う行動を起こせばいいと本気で思うからだ。


 もしもこっちの世界でもそういう連中が出てきたら、きっちり魔物や魔獣と共存できる特区を作ってそこへ強制的に放り込んでくれる。


 そうすることが可能な力――権力へ今俺が持っている力――戦闘力を兌換するための嚆矢(手始め)に『|滅尽竜ゼノス・ヴァリス《コイツ》』にはなってもらおう。


 悪いがこれも仕事なんでな。


 ユージィンがめっちゃくちゃ真剣にこっちの様子を観察しているのがわかる。


 だけどまあそれも当然か。


 あくまでも俺個人の見解とはいえ「お前には勝てない」と断言された相手に俺がどう立ち回るのか、自分の戦闘力に自負を持つユージィンが気にならないはずがない。勝てないと言ったのが俺でなければ、今少し感情を露わにしていたかもしれないな。


 だが実際俺の言葉だけではなく、ユージィンでも勝てる保証が無いと判断していたからこそ、ユージィンの組織も今日までは封印に徹してきたのだろう。鎖による封印が生きている以上たとえ負けても魔獣が世に放たれることがないとはいえ、自分たちが今手にしている最大の戦力であるユージィンを、万が一にも失うことを恐れたのだ。


 それは今まで一方的に逃げることも可能なこの状況で、一当てもさせていないことからも明白だろう。命懸けの戦いである以上いつでも万が一は起こりえるし、戦闘の影響で鎖――封印が解けてしまうこともないとは言い切れない。


 かかっているものは人の社会(世界)の安寧なのだ、慎重になるのは充分頷ける。


 そう考えれば俺にこの情報を晒すばかりか戦闘の許可も下りているということは、ユージィンがかなりの無理を通してくれたということに他ならない。封印が解けてしまう可能性はほぼほぼ無視できる以上、お手並み拝見という意図もあるだろうし、その辺を上手くユージィンが刺激してこの状況を整えてくれたのは間違いない。


 さすがにその期待を裏切るわけにはいかないな。

 そう考えた俺の意識が殺気に繋がったのか、それに反応して尽滅竜が咆哮をひしり上げた。


 ――あ。


 それと同時。


 俺の左目が白銀を(ベース)に蒼と金の雷光を伴った魔導光を噴き上げる。その白銀の魔導光はあっというまに『滅尽竜ゼノス・ヴァリス』の巨躯すべてをその領域に取り込んだ。


 左の『呪眼』――『血戦』が発動したのだ。


 なるほどずっとこの場に囚われていて、お前も弱っているんだもんな。

初手から全力という判断になるのも当然か。


 生存本能に従った行動決定に関しては下手に思考能力があるせいで迷う人間よりも、魔物や魔獣の方が果断なのは当然なのかもしれない。


 ゲームではありえなかった接敵(エンカウント)、即覚醒態勢(モード)への移行。


 それはゲームであればいくらでもやり直しが利くし、どちらにせよ通常の行動パターンと合わせて覚醒――暴れ状態での行動パターンも覚える必要があるので、必ずしも高難易度化とは言い切れない。


 だが死ねば終わりの現実においては、初手から覚醒モードの魔獣と戦わねばならないというのは本来かなりきつい状況となるはずだ。


 あたりまえに攻撃は強く苛烈になり、戦闘機動も激しくなる。

 初見であれば訳も分からず押し切られてしまってもそう不思議とも思わない。


 確かに鎖に繋がれているからには戦闘機動の方はほぼほぼ無視できるとはいえ、攻撃力と攻撃頻度の上昇は、わかっている者にとっては隙と成せても、そうでなければ純粋な脅威の上昇以外のなにものでもない。


 なによりも覚醒状態でのみ低頻度で発動させる大技は、本来であれば距離を取って避けるしかない攻撃範囲と一撃必殺の破壊力を併せ持っている。

 

 この滅尽竜であれば通称『絨毯爆撃』と呼ばれていた、本来であれば上空から一定範囲を黒焔で埋め尽くす攻撃がそれにあたる。

 それを自傷も躊躇わずに地上でぶっ放されたら避けることは難しく、直撃すればユージィンはもちろん、今の俺であっても消し飛ばされてしまうだろう。


 武器についてはエンドコンテンツ掘り用(スコップ)として通用する『帷祓暁刀とばりはらいあかつきとう』を期せずして入手できた。だが防具に関しては現状手に入る中での最高級品とはいえ、武器とはまるで釣り合っていなない。

 能力も一切発動しないし、防御力も物理的な者だけとくれば、ゲーム視点で考えれば裸と変わらないので当然と言えば当然だ。


 だが『血戦』が発動した俺には一切合切関係がなくなる。


 魔獣相手とはいえ俺の基本的な戦闘での立ち回りはあまり変わらないし、そのあたりについてはユージィンも既に十分把握できているだろう。それが魔獣にも通用することを証明するという点ではいいかもしれないが、今回俺は「魔獣とも戦える力」程度ではなく、「魔獣など魔物となにも変わらないように扱えるほどの力」を示す必要があるのだ。


 とはいえ正直に言えば、呪印がゲーム時と同じように機能するのかどうかに確信などない。もしも能力の常時発動以外は見掛け倒しでしかないのであれば、初期装備以下でエンドコンテンツに挑んだプレイヤーがどうなるかなど火を見るよりも明らかだ。


 まあ『滅尽竜ゼノス・ヴァリス』の挙動がゲーム時と同じなのであれば、武器とすべての能力が発動している俺で倒しきることはそう難しくはない。もしかしたら「絶対に倒せない」と思われている以上、そっちでも充分なのかもしれない。


 加えてすべての能力が発動している以上、初手覚醒技の直撃を受けても流石に一撃で乙ることはないだろう。かなり痛いかもしれないが、そのあたりは耐えるしかない。

 その結果もしも『呪印』の真の力が発動していないのであれば、定石(セオリー)通りに連撃で失ったH.Pを回復させればどうとでもなるだろう。


 案の定、最初から覚醒状態に入った滅尽竜は初手から覚醒技を自傷も厭わずぶっ放すつもりらしい。ゲームの時はそれを聞いただけで反射的に回避行動に入っていた咆哮をひしり上げると同時、巨大な翼を広げて無数の『黒焔』――爆裂する焔を俺に向かって全弾発射してきた。


 ――男は度胸!


「クナド!?」


 その一見どうしようもないように見える飽和攻撃を俺が華麗に躱すことを期待していたのであろうユージィンが、太刀を構えたまま不動の俺を見てさすがに驚愕しながら俺の名前を呼んでいる。


 ――理由はどうあれ、心配されるのは良いものだな。


 すでに思考加速が始まっている俺であれば今からでもよけようと思えば避けられるが、反射で動きそうになるのを意志の力で抑え込み不動を維持。


 ――うわこっわ。


 効く効かない以前の問題で、現実化した状態での覚醒技が直撃しようとしている状況はちょっと洒落にならない位に恐ろしい。そりゃ無数の爆弾が自分めがけて飛んできており、その後派手に爆発することを知っているからには(すく)むのも当然か。


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