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かつて救世の勇者転生、あるいはいずれ滅世の魔王降臨 ~王立学院の呪眼能力者~  作者: Sin Guilty


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第54話 『かつて救世の勇者転生』④

 これで勝てなかったら誠にもって申し訳ないが、俺が先刻ユージィンに告げた通りの思想の持主であるからにはそこは諦めてもらうしかない。まー遅かれ早かれの範疇でご容赦願いたいところだ。


 どうせ滅ぶのであれば、知り合いの犠牲によって何十年か世界が存えるよりも、その知り合いが笑って暮らすことを俺は優先する。

 本人がそれを望んでいるかどうかとか正誤善悪など関係なく、俺がそうしたいから俺に与えられた力を行使するというだけに過ぎない。


 まあどう言い繕っても、これは正義などではなく我儘の範疇だろう。


 とにかくだ。


 斃してバラして希少魔獣素材を確保し、ユージィンもこのクラス(幻獣種)と戦えるだけの大剣系上位装備を作成するのが戦力増強には手っ取り早い。

 シャルロットやクロードをなるはやでパワーレベリングした理由と同じで、同時多発的に魔獣復活された場合、どれだけ俺が強くても対応しきれない場合が想定されるからな。


 斃すまではいかなくとも、時間稼ぎができるだけでも充分状況はひっくり返せる。

 加えて現在進めているシャルロットの固有魔法(転移魔法)の強化が進めば、万全を期すことも不可能ではないはずだ。


 それにこんな風に封印されている上位魔獣――幻獣種たちが他にもいるなら、ユージィンの装備用素材をエンドコンテンツ掘り用で一式分揃えることもそう難しくはないはずだ。ゲームとは違って一体丸ごと手に入るからには、『延髄』が出ないだの、『魔眼』が落ちないだのと言った問題は発生しない。


 出来る限り「綺麗に」倒す必要はあるだろうけれど。


 さすがに目を潰し、頭蓋をたたき割って斃しておいて「手に入らない」は通用しないだろう。お前が壊したんやろがいと、俺自身ですらそう思う。


 ちなみにゲーム時の『おとも』は戦闘中にもかかわらず希少(レア)魔獣素材――『魔眼』や『脊髄』、時には『心臓』ですらかっぱらってくるゾル〇ィック家の者だったのだが、もしかして妹君(スフィア)も同じことができるのだろうか。

 現実化しているこの世界で同じことが出来るのであれば、確率は低いとはいえ俺と同じ「一撃必殺」を体現できるということになるわけだが……こわ。


「兄さんはもっと上手く盗む」とか、あの声で言ってくれるのだろうか。


 とりあえず素材入手に関しては、すでに魔物を討伐して手に入る素材量から検証できているのでまず間違いないはずだ。魔獣だけは例外ということもないだろう、倒した瞬間に魔力粒子になっていくつかの素材だけを残して消えてしまうのでもない限りは。

 ゲームの時でも一体丸ごとその場に倒れていたし、罠などで捕獲した場合は拠点に生きたまま囚われてさえいたのでまあ大丈夫なはず。


 それよりも問題は逸失技術(ロスト・テクノロジー)になってしまっているゲーム時の武器防具の生産技術を、どうやって復活させるかになるだろう。


 そのあたりはユージィンの組織でも管轄がわかれているらしく、今の時点では詳しいことはまだなにもわからないんだよな。しれっと万能職人(ドワーフ)が存在していてなんでも作ってくれるのであれば、素材の方は俺がなんとでもできるのだが。


 ともかく俺はユージィンに宣言したとおり、この世界では(ぬる)いリア充生活を送りたいのであって、親しい者たちが次々と犠牲になりつつもどうにか世界を救うような悲劇、あるいは感動展開など求めちゃいないのだ。


 もちろん迷宮や魔物支配領域の攻略、その中での魔獣との戦いも楽しみであることは否定しない。


 だがそれはあくまでもゲームのタイトル通り「狩り」として楽しみたいのであって、用意された世界の都合や物語展開のために犠牲になることを強いられる人がいるなら、世界設定や物語展開の方をぶっ壊させていただく所存である。

 

 この世界を用意した創造主(かみさま)の思惑など知ったことではない。


 とはいえ大型の獣程度である魔物(モンスター)とは違い、恐竜かそれ以上の巨躯を誇る『魔獣』の迫力は半端ない。

 強い弱い以前に自分よりもずっとでかい相手と対峙するというのは、それだけで十分に「恐怖」を呼び起こすに足りる。


 まあこんなデカブツと太刀一本で戦うなんて、普通に考えたら狂気の沙汰でしかないよなあ。


 そこは武技があるからこそだし、それを大前提としたとしても、俺が呪印を宿した両目を持っていなければすっ飛んで逃げることこそが正解だろう。


 幸いにして今のコイツ――『滅尽竜ゼノス・ヴァリス』は鎖に繋がれ、この場から自由に動けない。飛竜でありながら飛べないし、もちろん俺が逃げれば追っては来ることすらもできない。

 

 だが()()こそだ。

 それこそがここで俺が日和っている場合ではない理由だ。


 聞けばその『鎖』は王家の血を継ぐ者が己の命と引き換えに生み出し、『滅尽竜ゼノス・ヴァリス』をこの場に封じ込めるためのものらしい。稀に生まれるその能力者の命を犠牲にすることで、神話の勇者が居なくなった後に再湧出(リポップ)した魔獣をこの地に封じ込めることができているのだ。


 武技が成立し、あまつさえ魔法すら存在するこの世界においては、人の命と引き換えに生み出される『封印の鎖』が存在することもそこまで不思議なことではないのかもしれない。俺が神話の勇者の身体を伴って転生できているくらいだし、なんでもアリっちゃありなんだろう。


 だが先王のお姉さんのなれの果てであるその鎖は、まさに世界設定と物語展開のために誰かが犠牲を強いられた結果だ。


 俺が今の時代に生まれていしまっている以上、その見たこともない先王のお姉さん――シャルロットの大叔母を救うことはもうどうしたってできない。


 正直に言えば別に俺は聖人君子というわけでもないので、そこまで心を痛めているわけでもない。だが同じことをシャルロットの子供にさせたいとも思わないし、シャルロットが幼い頃に自分が鎖の能力を授からなかったことにほっとするどころか、申し訳なくて泣いたという話を聞いた時は本気で胸糞が悪かった。


 だからここでそんな設定は必ずぶっ壊す。


 それに顔すら知らない先王のお姉さんのおかげで、『滅尽竜ゼノス・ヴァリス』はその持ち味である飛行能力と機動性、それによって黒焔を広範囲にばらまく飽和攻撃をほぼ封じ込められている。

 勝てはしても爽快感の伴わない戦闘に『う〇こ爆撃機』などと蔑称されていたのがゼノス・ヴァリスだ。だが飛べない〇んこ爆撃機はただのうん〇でしかない。


 要は俺が現実での『魔獣』との戦闘に慣れるには、ありがたい状況が整えられているのだ。


 よし、この勝利をシャルロットの大叔母様に捧ぐ。


 すたすたと間合いを詰め、無言のままに『帷祓暁刀とばりはらいあかつきとう』を抜刀。


 純白の輪形魔法陣が鍔元から剣先まで一瞬で展開。

 すでに研ぎあげられた刀身は庵棟(いおりむね)に浮かび上がった純白の魔法文字を浮かべ、その切っ先まで朱と黒が混ざった爆炎のエフェクトが一気に生じる。


 鎖に繋がれ大人しくしていた滅尽竜が、己を殺しきれるだけの武器が起動した(抜刀された)ことに当然反応し、警戒の喉音を鳴らしながらそのっそりとその巨躯を起き上がらせる。


 そうだ、べつにお前が()()わけじゃない。

 囚われているからといって、無抵抗で殺される(いわ)れなんてどこにもないよな。


 ()くあれかしと創造主に創り出されたとおり、その身に宿した暴力を以て人を含めた他の生物を蹂躙し、己が生存し続けることこそがお前たち魔獣――謎の唯一(ユニーク)個体生物たちの存在意義なのだ。


 そこに是非善悪などありはしない。


 その結果としてシャルロットの大叔母様を含めた王家の者たちが命を捧げることになり、解き放たれたら人を含めた生態系が壊滅しようとも、生存競争とは本来そういうものだろう。


 そんな自然の循環に調和だの、本来あるべき姿だのを感じるのは個々人の好きにすればいいと思うが、個人的にはこの世界の根幹を成す(コトワリ)は揺ぎ無く『弱肉強食』だと思っている。


 優しさや自己犠牲は確かに存在する。


 だがそれはあくまでも余裕があってこそであり、己という個を犠牲にしてもかまわないという思考は、種としての繁栄、安寧が確固として保障されている、あるいは種の絶滅を避けるという緊急事態でこそ生まれ得ると思うのだ。


 そうでなければあらゆる手段を使って己という個を保全することこそが、生物としての本能、根幹に厳然と存在している。


 まあこれはあくまでも俺個人の見解でしかない。

 だからこそ俺は俺に宿ったこの強大な力を、己の見解に従って行使する。


 誰かを護りたいという想いもまた、俺の自身の欲の一つでしかない。


 そうすること(自己犠牲)を俺に強いることができるのは俺自身だけであり、他者から「力を持つ者の義務ノブレス・オブリージュ」などを説かれる謂れなどないのだ。


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