第46話 『放課後の迷宮攻略』②
王立学院に入学してはや一月が経過している。
今のところこれといった大きな問題もなく、平穏無事に学生生活を満喫できていると言ってもいいだろう。
放課後の日課が少々以上に血生臭いとはいえ、それが楽しいのだから俺としてはとりあえずは満足していると言っていい。
当然授業は真面目にキチンと受け、放課後になればシャルロットに誘われる形で俺とユージィンが合流し、そこへクロードも加えて武技遣い2人、魔法遣い2人のパーティーで放課後の迷宮攻略を日々進めているのだ。
クロードの参加は俺との勝負に敗北した後、俺がシャルロットをパートナーにしたことを知ってユージィンに土下座する勢いでパートナーとなることを要請し、苦笑いしつつもユージィンがそれを受けた結果である。
ちなみにその際クロードがシャルロットが敬語を使う相手に偉そうになどできないと宣言したので、ユージィンと同じく対等に付き合うことを3人それぞれが相互了解している。要は俺、ユージィン、クロードはツレになったということだ。
自分にだけ相変わらず丁寧に接するユージィンとクロードに対してシャルロットは不満そうにしていたが、俺はともかくこの国のお貴族様であるユージィンとクロードに王女殿下がタメ口を強いるのは、逆にパワハラの一種だとしか思えない。
俺がそう告げるとシャルロットは渋々ながらも受け入れてくれた。
その結果、この4人の中では俺が一番偉そうに見えてしまう状況となってしまった。
少なからず心外ではあるが仕方がない。そのせいで自衛のために、王立学院では自分でも笑ってしまうほどの仮面を被ることを余儀なくされているわけだが。
まあ俺とユージィンがパートナーとなる異例をごり押しするよりも、表面的には常識的な武技遣いと魔法遣いの組み合わせを2組とした方が無難だしね、とユージィンは笑っていた。
確かに武技遣いの主席と魔法使いの主席、おなじく次席同士であるユージィンとクロードが組むのは自然ではある。王家、ツアフェルン伯爵家、ヘルレイン侯爵家の後ろ盾があれば、放課後の迷宮攻略に異を唱えられる教師などいるはずもないしな。
シャルロットにしてみても、武技と魔法双方の最大武門貴族の次世代がパートナーとして仲良くなるのは王家の一員としては望むところのはずだ。王家の意向にツアフェルン家とヘルレイン家が素直に従うようになるのであれば、少なくとも軍事面での国内統治はなんの問題もなくなるだろう。
ちなみに週末は基本的にユージィンが実家に戻っているので、特別に俺と妹君の2人で迷宮攻略を進めさせてもらっている。おかげで妹殿の御機嫌はここのところ大変麗しい。
一方でシャルロットは現状男3人に自分一人だけが女性として日々迷宮攻略に勤しんでいるので、裏ではそれに難色を示している者たちも多いと聞いている。
確かに年若い女性王族としては、あまりよろしい状況とはいえまい。
そのためいわゆる『放課後の迷宮攻略』にスフィアも参加できるように王家が急ぎ手回し中であり、近く正式に許可が下りるだろうと今日教えてもらった。
軍属や王立学院生であれば王家の指示は速やかに実行されるだけなのだが、うちの妹君は聖教会の紐付きでもあるので面倒くさいのだ。この動きには将来スフィアが嫁ぐことになるツアフェルン家もかなり協力してくれていると聞いている。
今から嫁ぎ先に借りを作るのはアレだが、当の妹君はまったく気にしていないようだし、当のユージィンもいそいそと協力している感じなのでまあいいだろう。
俺にとっては実の妹であり、ユージィンにとっては婚約者であるスフィアが共にいれば、シャルロットに妙なことも言いにくくはなるはずだ。クロードが馬にけられる役どころになってしまうのは不憫だが、まあしょうがない。
なおさすがに王女様相手にはしおらしい態度だったうちの妹君は、俺と毎日一緒にいられる状況を整えるために頑張ってくれているということで、今では本心からかなりなついているっぽい。
ユージィンと婚約して仲良さそうにしていながら、未だに俺と共にいることが最優先なのはちょっとどうかと思う。「おとも」としての本能がそうあることを強いているのだろうけれども。
なんにせよいかにも王女様といった空気を纏う同じ歳のシャルロットから俺の妹として立てられつつ、基本的には同格の友人と扱われて無碍にすることは流石の妹君にもできなかったとみえる。王城でのお茶会へのお誘いや、休日の攻略後に寮の屋敷での食事を共にすることで、あっさり篭絡されてしまっている。
『ということはシャルロット王女殿下が第一夫人で、クリスティナお姉様が第二夫人になるのですかクナド兄さま?』
などと口にしているうちの妹君は、結構チョロいのかもしれない。
それ以前の問題として、未だ13歳でしかない女の子の発言としてそれもどうなんだと思わなくもないわけだが。シャルロットも笑顔で「クナド様のお嫁さんにしていただけるのであれば、私は何番目でも構いませんよ?」などと公然と口にするのはやめていただきたい。
とにかく王族様だの貴族様だのというのは、基本的に人たらしでなければ務まらないのかもしれないな。王国一の大商人になってしまった父上や母上からすれば、俺やスフィアにも見習ってほしいところではあるだろう。いやユージィンとの婚約をあっさり受け入れて仲良くやっているスフィアにはそんな必要もないか。つまりは俺だけか。
ちなみにゲーム時代、パーティー人数の上限は4人プラスそれぞれのおともだった。
よってここにスフィアが加わってもパーティーは破綻しないはずだ。
ユージィン、シャルロット、クロードそれぞれも「おとも」を伴うことが可能はずだが、武技遣いや魔法遣いは確認されていても、「元おとも」なんて妹君以外知らないしな……
それどころか魔法遣いたちは、完全に俺の知らない別ゲームの法則に従っている可能性も否定できない。
なんとなれば俺とユージィンはどれだけ魔物を倒そうとも身体能力に大きな変化など起こらないにも拘らず、シャルロットとクロードは一定数を倒すごとに劇的に強化されていくのだ。
つまり魔法遣いたちはレベル・アップ要素を有しているということである。
これはゲーム時代の「おとも」もそうであったのだが、魔法遣いたちの変化はより顕著であり、身体能力というよりも魔法そのものの性能と継戦能力――魔力保有量がレベル・アップに応じて激増するのだ。
そりゃ武器防具が更新されない限りほとんどなんの変化もない武技遣いに比べて、魔法遣いが上位と見做されるわけだ。
地上の魔物支配領域、あるいは迷宮低階層といった、いわゆる低難易度領域での戦闘を繰り返して何度かレベル・アップをするだけでも見違えるように強くなれるのだからさもありなんである。




