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かつて救世の勇者転生、あるいはいずれ滅世の魔王降臨 ~王立学院の呪眼能力者~  作者: Sin Guilty


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第35話 『王女殿下の矜持』②

 要は「コイツはツアフェルン家どころか王家が本気で取り込もうとしてる奴なんでよろしく。粉かけるならそれなりの覚悟でやれよ?」とぶちかましあそばされたのである。


 確かに1年生から3年生まで含めれば国内の御貴族様すべてに繋がっているだろうし、留学生も含めれば友好的な周辺諸国(実質的な属国)へもこの話は伝わるので効果的といえば効果的。まあ俺という存在の有効性を大々的に喧伝することにもなるが、現状から言えばそれはもはや止め得ないとみて、より確実に取り込みに動いたというわけだ。


 王族とか貴族の女性ってのは、ここまで覚悟ガンギマリしているのが普通なのかね?

 シャルロッテ王女殿下といいクリスティナ様といい、なんというかこう……すごい。


「そんな反応をされては哀しいです」


「いやあのですね」


 こういう小芝居は年上であるクリスティナ様とかにされるのであればまだしも、13歳になったばかりの子供にされるとなんか引く。肉体年齢15歳とはいえ、中の人はもっと年上なのでなおのことである。


 まあしかし客観的に今の立場を見れば、シャルロット王女殿下とツアフェルン伯爵家令嬢クリスティナ様から同時に想いを寄せられている色男なのか俺は。今はホントに色男なことも含めて、利害関係なくうっかり刺されたりしないように気を付けなければなるまい。

 しかも態度がいわゆるやれやれ系にみえることにも注意を払う必要があるだろう。


「それに私はこれでもこの国の王族の一人でもあるのです。魔法研究学部次席合格のクロード様が深刻なダメージを受けかねない状況を前にして、捨て置くことなどできません」


「――申し訳ございません」


 だが一転して真面目な表情で言われた内容には謝罪するしかない。


 この国の王族の1人としては、若くしてすでに『絶対零度(アブソリュート・ゼロ)』の二つ名で呼ばれるような天才魔法遣い――国家の大事な戦力を(いたずら)に負傷させるなど論外なのだ。

 両者が承知して教師が承認した模擬戦の範疇であればなんとか容認できても、その決着がついた後は私闘でしかない。男の意地だの戦場に身を置く者としての覚悟だのは、模擬戦の規律(ルール)を逸脱していい理由にはならない。


 勝負がついたのに追撃を加えようとしていた俺は、止められて然るべきだったのだ。

 にも拘らず王女殿下自らによる「それまで」の声を無視した俺に咎は確かに存在している。


 つまり頭を下げるしかない。


「咎めているのではありませんよ? ですがクナド様が本当に悪いと思っておられるのであれば、私のお願いを一つ聞いてくださいますか?」


「……なんなりと」


 で、こういう流れになるのももはや避け得ないというわけだ。


 世の穢れなど何も知らないかのような無垢な笑顔で微笑んでおられる王女殿下。

 だがおそらくここまでが、いやここからの展開も介入した時点では組み上がっていたのだと思うと、その綺麗すぎる笑顔がホント怖い。


「そんなに警戒なさらなくても、こんなことで彼女にしてくださいなんてお願いは致しませんよ? 未熟とはいえ淑女(レディ)の沽券に係わりますもの」


「……大変失礼いたしました」


 ざわつくな観衆。


 いや気持ちはわかるけれども、その反応を確認して嬉しそうな王女殿下はどうなの。

 というかさっきから背後に控える近衛2人が嫌な汗をかきっぱなしなところからして、この行動は王女殿下の完全独断専行なのだろう。


 王立学院での3年間の行動は任すとでも言われてきているんだろうなあ……


 もしかしたら今わりと本気で王女殿下は楽しいのかもしれない。3年間限定とはいえ、王立学園での暮らしは王宮でのそれよりは随分自由度は高いだろうから。休日のこのタイミングでここにおられるってことは、王族なのに寮暮らしをする許可を得ているのだろうし。


「そうですね。私とも模擬戦をしてくださいませんか? 条件はクロード様と同じで構いません」


「それだけは勘弁してください!」


 とんでもないことを言い出した。


 いやなんなりとといっておきながらこの回答はないと思いはするが、それ以上にこれだけの観衆の前で王女殿下と模擬戦なんてできるわけがない。


 思惑としては自身の魔法とさっきの謎の力で、俺の力をより明確にしておきたいのだろうというのは理解できる。


 とはいえいくらなんでも危険すぎる。


 自ら望んで鍛錬をねだるうちの不死身の妹君や、覚悟完了しておられたクロード様であれば、木剣太刀の一撃で血反吐を吐かせる程度であればそこまで躊躇いはない。だが流石に御年13歳の王女殿下に、うっかり公衆の面前で血反吐を吐かせるわけにはいくらなんでもいかんでしょうが。


「……すごいのですね」


 だが俺の拒否の言葉を聞き、演技ではなく目を見開いて驚いておられる。

 それと同時に、本気でわくわくしているような表情と瞳の輝きになってさえいる。


 ああなるほど、王女殿下もクロード様と一緒か。


 そのクロード様を寄せ付けずに勝利した俺の戦闘をその目で見てもなお、まだ魔法――というよりも自分の方が強いという確信を持っておられるのだ。その自信の根拠であろう謎の力を俺に晒してもなお、俺が王女殿下を「自分より弱い者」として扱っていることに本気で「すごい」といっておられる。


 なるほど自分の方が国のために貢献できると思っているのに、自分より弱いと判断している()に振り回されるのは確かに納得がいかんわな。


「ではこうしましょう。クナド様はそうですね……5分以内に私を掴まえてください。つまり5分間逃げ切れたら私の勝ちです。あ、たぶん無理だとは思いますけれど私の攻撃魔法がクナド様に当たっても私の勝ちで。これならどうでしょう?」


「……追いかけっこを断るわけにはいきませんね」


 シャルロッテ王女殿下にとって、それが俺の試験だというのであれば受けるしかない。


 ツアフェルン家からの要請を受けての王家からの指示。

 すなわち飛び級で王立学院に入学し、あまつさえ寮暮らしを許可されてまで要は「落とせ」と言われた俺に、それだけの価値が本当に在るのかどうかを確かめたいのだ。


 それも突出した自身の力を以て。


「……クナド様も私を掴まえるのに手段は選ばなくても結構ですよ?」


 美しく儚げ、可憐な容姿であってもなお、戦う力を持つ者が放つ威は充分纏っておられる。


 対外的には模擬戦ではなく追いかけっこの(てい)を取りつつも、掴まえるために攻撃によって自分を無力化することもよしとする。そのことを俺の耳元まで近づいて囁くその仕草は、とても13歳の宝石箱入りお姫様のものとは思えない覇気に満ちている。


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