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かつて救世の勇者転生、あるいはいずれ滅世の魔王降臨 ~王立学院の呪眼能力者~  作者: Sin Guilty


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第32話 『魔法と武技』⑥

 手加減がされていない魔法が直撃して生きていられる人間など普通はいないし、それは武技ならざる真剣の一閃をくらった人間もまた同じ。であれば先に当てた方を勝ちとするルールは至極真っ当だとしか言えない。


 模擬戦が実戦を模して擬する戦いである以上、俺だけが「3回までくらってもノーカン」などというハンデなどはありえないのだ。


「怖いね」


「御冗談を」


 俺の動じない様子を見て本気で感心しているクロード様に思わず笑う。

 どんな思惑があるとはいえ、魔法の優位を信じて疑っていないからこその発言であることに、聡明なクロード様ですら自覚が無いらしいからだ。


 有効射程が長い上にかなりの誘導性を有する各種の魔法に比べて、確かに武技の間合いは狭く誘導性など無いため、遣い手がきっちり当てていく必要がある。

 相手を視界に捉え、距離を保って連射していれば普通に勝てる魔法に比べて弱いと見做されることも理解できなくはない。


 だが言ってみればたったそれだけなのだ。

 たったそれだけで、ここまで魔法の優位を誰もが信じているのかがちょっと俺には理解できない。


 まあ答えは簡単だ。

 1000年の長きにわたって、魔法遣いに勝てる武技遣いが存在してこなかったからだろう。


 それを実際にひっくり返してみせれば、いかに1000年の実績によって強固に練り固められた固定概念であっても砕くことは可能なはずだ。逆にそれ以外では冷笑されて終わるだけだろう。


 論より証拠とは金言なのだ。


 同じような固定概念を持っているであろう教師陣に俺とユージィンがパートナーとなることを認めてもらうためにも、この一戦は大きい。

 少々大規模になり過ぎて申し訳ない気持ちもあるにせよ、クロード様には感謝しかない。


 俺に負けたことがクロード様の恥にはならないよう、素人目で見てもわかる圧倒的な強さを見せなければなるまい。


「しかしクナド君はそうしているとまるで宗教画のようだね。私も容姿にはそれなりに自信があったのだが、クナド君やユージィン様、王女殿下を前にすると自信を持っていたことそのものが恥ずかしくなるほどだよ」


 などと気合を高めていると、いきなり気の抜けるようなことを言われた。

 いや正直に言おう、気が抜けるというよりもめっちゃ照れるのだ。


 当然今の容姿が自分のプレイヤー・キャラクターに準じており、凛々しい系の美形であることは充分理解できている。その美形を作り込んだ本人なのだ、どの角度が一番カッコいいかまでフォトモードで追い込んでいるので完全に掌握している。


 有料DLCもすべて揃えていて気に入っていたポーズを無意識に取ってしまうこともあるし、ただ単にぼーっとしているだけで「愁いをおびた表情が素敵」などという寝言を言われたこともある。


 だが陰でこそこそキャッキャされることにはなんとか慣れたのだが、今のように臆面もなく正面から言われた場合、いまだに赤面してしまうことを抑えられない。

 しかも本気で感心したようにそう口にしている相手が、クロード様のような天然美形となればなんというかこう、いたたまれない気持ちも加わっていっそう恥ずかしくなるのだ。


「…………」


 なんといっていいかなどわかるはずもないので、なんとか笑顔を浮かべて掌をクロード様に向け、そんなことないですよという風に振る。

 それでも赤面は止められないし、なんなら嫌な汗までかきはじめる始末である。


 そんな俺の様子を見て、本気で意外そうな表情を浮かべているクロード様の様子が地味にキツい。まあ普通の人に中の人との乖離による羞恥を理解してくれという方が無理なことはわかってはいるのだが。


 救いはこの距離であれば、クロード様以外には今の俺の様子を詳細に把握できる者など居ないだろうということくらいか。


「クロード・ヴァン・ヘルレイン。決闘条件を承認する」


 期せずして勝負前に俺を動揺させることに成功したクロード様が、そのことを自覚されているのだろう、苦笑いを浮かべて模擬戦を行う際に必須の宣誓を先に述べられた。


 模擬とはいえ魔法や武技が使用される以上、どうしたって事故は起こり得る。

 ゆえに決闘と扱い、その条件を明記してそれに背かぬことを互いに宣言することが法で定められているのだ。


「クナド・ローエングラム。同じく決闘条件を承認します」


 慌てて俺も同じ宣誓を行う。

 俺としても、さっさと戦闘が開始されてくれた方がありがたいのだ。


「はじめ!」


 クロードさんと俺の宣誓を確認して、おそらくは自身も魔法遣いであろう壮年の男性教師が開始を告げる。


「まずは小手調――」


 それと同時に様子見とばかりに魔法を放とうとしているクロード様の懐まで、俺は一気に間合いを詰めた。


 木剣の刃圏に捉えると同時に横薙ぎに抜刀。


 これは単なる初太刀に過ぎず継戦納刀からの特殊抜刀攻撃ではないので、攻撃速度も攻撃力もさほど大したものではない。だがたとえ木剣でのものとはいえ、まともにくらえば治療師のお世話になることは避けられまい。


 だがお気楽に口にしそうになっていた言葉を途中で止め、絶句しつつクロード様がカカっとバック・ステップしたのでそれは空振りに終わった。


 観客からどよめきが上がる。


 さてそれは俺の攻撃の神速によるものか、クロード様がそれを華麗に(かわ)したことによるものか。おそらくは双方であるとはいえ、比重は間違いなくクロード様の方が大きいだろう。


 今の時点ではまだ。


「魔法遣いってすごいんですね」


 これはお世辞ではない。

 実際俺はちょっと驚いている。


 もとより一撃で終わらせるつもりはなかったとはいえ、クロード様に本気になってもらうために、回避の際になびく長外套(ロング・コート)の裾くらいは斬り飛ばさせていただこうと思っていた。

 

 だが完全に回避されたのだ。


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