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かつて救世の勇者転生、あるいはいずれ滅世の魔王降臨 ~王立学院の呪眼能力者~  作者: Sin Guilty


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第31話 『魔法と武技』⑤

「貴様……」


 そう、状況も理解できているはずの取り巻きが思わずこうなってしまうほどの「魔法>武器」という認識をまずはひっくり返す。俺がそう動いたことで、本当に強い魔法遣いがその実力を示してくれるのであれば望むところでもある。


 それでも魔法遣いが一属性しか使えないというのであれば、魔獣の存在を知っている俺からすれば汎用性で劣る。魔獣には各属性に特化した個体も存在しているため、例えばクロード様がどれだけ氷結系魔法遣いとして極まっていたとしても、氷系の魔獣には役に立たなくなるのだ。


 それほどの高位魔法遣いを全属性揃えるのはかなり大変だろう。

 相手によって都度パートナーを変えるというのも現実的とは思えない。


 俺たち武技遣いとてまともな属性武器防具が望めない現状では、まんべんなく通用する物理でぶった切るのが一番確実なのだ。あとはうちの妹君が使う『爆炎』のように、火属性にみえて実はまるで関係なくすべての属性に増減なく通る魔法か。


 ユージィンと親しくなったことで詳しくなれたこの世界の現状は、ゲーム時代を知っている俺からすれば結構薄氷の上に成立している気がするのだ。魔獣が姿を消していて魔物しかおらず、この15年間首都で平和に暮らしてきただけではそんなことは分からなかったのだが。


 攻略できない階層がある迷宮(ダンジョン)が各地に点在していながら平然としているというのは、ちょっと理解できない。ゲームであれば当然かもしれないその状況も、現実として考えれば地獄の門が大陸中で開いているようにしか感じられないのだ。


 一つくらいは最下層まで攻略して、少なくとも俺やユージィンにとっては害がないことを確認しておかないと尻の座りが大変悪いのだ。


「……すごいなクナド君は。しかし私も立場上、そこまで言われてただ引き下がるわけにもいかないんだ、理解してもらえるかな?」


「と申しますと」


 さすがに激昂しかけた取り巻きを片手で冷静に抑え、興味深そうな表情でクロード様が一歩前に出た。先と変わらず笑顔を浮かべたままだが、それはユージィンが時折浮かべるそれに似て、まるで獅子が笑っているかのような覇気に満ちている。


 もしかしたらクロード様は、俺やユージィンに近しい考えを持っておられるのかもしれない。

 自分の力に自信はあれど、それ以上の力が無ければこの世界がいつ終わっても不思議ではないと認識している。もしもそうなのであれば、本当に自分以上――魔法を凌駕する力が存在していることは福音でしかないはずだ。


すっとぼけはしたものの、俺とてクロード様がなにを言わんとしているかくらいは理解できている。


「クロード・ヴァン・ヘルレインの名において、クナド・ローエングラムに模擬戦を申し込む。受けてもらえるかな?」


「もちろんです」


 これ以上の言葉は無粋ということだろう。

 俺としても望むところである。


◇◆◇◆◇


 さすがはヘルレイン侯爵家。


クロード様の模擬戦申し込み――作法としては決闘の申し込みだったが――を俺が受けてからほとんど時を置かずに、王立学院で最も大きな鍛錬場の使用許可を教師たちから取り付けてしまった。

それだけにとどまらずきちんと審判役も治療役も揃っており、受験や授業で行われる模擬戦となんの遜色もない準備が整っている。


 今はその中央、開始位置で俺とクロード様が一定の距離を置いて対峙している状況だ。


 鍛錬場などといいつつどう見ても闘技場(コロッセウム)でしかないここは、王立学院で開かれる各種闘技会などにも使用されているらしい。いや何人入れんねん!? と突っ込みたくなるすり鉢状の観客席も完備されている。その規模たるや、どう考えても3学年全員とその家族全員が集まっても4分の一も埋まるまい。


もしかしたら貴族たちを招待して魔法遣いや武技遣いである学生たちによる公開闘技会なんかが開かれているのかもしれないな。というかこんな闘技場があるんだから、間違いなくそうだと思う。今夜にでもユージィンに聞いてみよう。


 その観客席にはそこそこの客――学生たちがすでに集まっている。いや学生だけではなく教師陣も相当数が含まれている模様。最前列席の一周全てが埋まるほどの数は、1年生(同期)から2、3年生(先輩たち)まで、ほとんどすべての生徒数プラス教師陣が集まっていることを示している。


 暇か。暇なのか君たちは。


 いやまあユージィン級の御貴族様でもない限り簡単に外出許可など取れない以上、暇なのは確かだろう。何もかもがまだ物珍しい我々新入生よりも、2、3年生の先輩方の方が休日の過ごし方という点では暇を持て余していてもおかしくはない。


 そんな状況ですでに2つ名持ちの天才魔法使いと、王立学院史上初めて冒険者育成学部で主席入学を果たした俺という新入生の有名人2人が模擬戦をするとなれば、寝て休日を過ごしている人以外は集まってきて当然なのかもしれない。


 間違いなく教師の中にも居るであろう、ヘルレイン家の息がかかった人たちが短時間で派手に宣伝して回ったんだろうけど。


 俺の想定よりもずいぶん派手なことになってしまっている。

 ユージィンが帰ってきたら怒られるかもしれない……


「さて、私の方はこの条件で構わないのだが……クナド君は本当にそれでいいのかい?」


「クロード様がよろしければ、これで構いません」


 お互いの開始線はそんなに離れていないので、クロード様の言葉はよく聞こえる。

 ただし観客席には何か会話していることはわかっても、声が聞こえるような距離ではないので内容まではわからないだろう。


 クロード様はいかにも魔法遣いという装備一式に切り替えておられる。


 暗色の長外套(ロング・コート)と魔法石が埋め込まれた長杖が本人の美貌と髪色と相まってとてもカッコいい。ゲーム時代にこんな格好ができる職として『魔法遣い』が存在していたら、俺は間違いなくその職を極めていたことだろう。

 

 正直羨ましい。

 いや妬ましいまであるなこれは。


 魔法遣いはその特性上、魔法を発動するために使い込んだ自身の杖が必須であり、俺たち武技遣いのように木剣で殺傷力を抑えるというようなことはできない。ゆえにたとえ模擬戦でもガチ装備になってしまうのだが、魔法使い本人が魔法の威力を制御することが可能なので、手加減してくれることを信じるしかないのだ。


 まあ魔法を「軽く」すればするほどその発動は速くなり継戦力も伸びるので、競技として勝ちを狙うのであれば、ほとんど殺傷能力を持たない見た目だけの魔法にするのが最も効率がいいので問題はあるまい。


 対する俺は太刀を模した木剣だけで、あとはただのありふれた私服のままである。

 俺とてローエングラム商会の跡取りではあるのでけして安物ではないが、大貴族の御召物とは比べるべくもない。


 なのでクロード様は彼我の装備の差や、双方先に一撃を加えた方が勝ちとするルールに不満はないかと問うておられるのだ。


 いや良いも悪いも対人戦である以上、そうするしかない。


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― 新着の感想 ―
エピソード30と31が重複しており 本来のエピソード31が抜けてるみたいです  どの作品も楽しく読ませてもらっています! お身体にきをつけて執筆頑張ってください
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