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かつて救世の勇者転生、あるいはいずれ滅世の魔王降臨 ~王立学院の呪眼能力者~  作者: Sin Guilty


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第03話 『プロローグ』③

 この二年間楽しかった、世間的にどういう評価であれここまでハマったゲームは初めてだったと嬉しそうなコメントを残し、一人二人とギルドメンバー、フレンドがこの世界から姿を消していった。


 寂しくはあったが、それも仕方のないことだった。


 ともに年単位で楽しく遊べたゲームを、いい思い出を最後にして綺麗に辞められることは、あるいは幸せなことでもあるだろう。


 その気がない者を無理やり引き留めることに意味などありはしない。


 まあ寂しくはあれども、自分が楽しめている限りはそれほど問題でもなかったのも一方では事実だ。


 俺は元々基本的には単独(ソロ)プレイを好む傾向ではあったし、攻略最前線の一翼を担っていた身としては中身入りの仲間(他のプレイヤー)どころか、N.P.C(ノンプレイヤーキャラ)すらいなくても、すべての魔獣を倒すことに苦労することもない。


 その事実こそが、自分にとってもこのゲームが終わることが近いのだという自覚には目を背けた。

 すでにこれ以上強化しようのなくなった自キャラを華麗に操作してより効率的に、時に美しいとさえ自画自賛しながら効率を突き詰めつつ、少しずつ静かになっていくこの世界を楽しみ続けていたのだ。


 そんなまだ自分が飽きてしまうことへの寂寥を実感してしまう前に、とんでもない隠し要素が発見されることになった。


 それこそがあれから何年も経った今でもなお、俺がこのゲームを続けることになった原因――上限なきプレイヤー・キャラクターの強化である。


 このゲームはその設計上、本来はプレイヤー・キャラクターそのものに成長要素はなかった。


 H.Pやスタミナは最初から最後まで固定数値であり、増加させる手段はあるにせよ装備や食事による上限値が厳然と存在している。

 攻撃力や防御力、各種属性に応じた攻撃力や防御力に至ってもすべては武器防具、その空スロットに差し込まれる魔導球(スフィア)によって左右され、その武器や防具も強化を経ての上限値や魔導球を装備できるスロットの数は固定されている。


 だからこその組み合わせによる個人差を愉しめたわけだが、攻撃にせよ防御にせよどれだけ突き詰めてもその上限は不動であったのだ。


 同じ構築(ビルド)を選択すれば、誰のキャラクターであっても同じ性能となる。


 それはアクションゲームをその骨子とするこのゲームにおける不文律、絶対的な規律(ルール)――大前提となるものであったはずだ。


 それを開発運営は最後の最後に、自らぶっ壊してのけたのだ。


 このゲームには『呪印』と呼称されるシステムがある。


 それはプレイヤーが選択した能力(スキル)を武器、防具、魔導球以外で発動できるものであり、本家本元で言うところの()()といえばわかる人には一発で伝わるだろう。


 当然『呪印』ごとに強化も可能となっていて、装備や魔導球よりも最終的なスキルの発動レベルは高いものとなる。


 また『呪印』にも空きスロットは存在しているが、そこへは魔導球を溶かし込むという設定があるため、武器防具への装着とは違って付け替えにはセットしていた魔導球の消失を伴うというペナルティはあった。

 『呪印』は開発運営がこよなく愛した厨二設定のため、プレイヤーが選んだ左右いずれかの瞳に宿らせる形だったため、その設定上付け替えには教会による儀式を必要とし、それなりの費用も必要となっていた。


 とはいえゲーム内のことであれば一瞬で済むし、費用に関しても中盤以降であれば無視できる程度の話でしかなかった。

 希少(レア)な魔導球を消費するスタイルはそれなりに洒落にならなかったが、それこそ構築(ビルド)が研究され尽くした後は目指す形への鉄板、定石(セオリー)が成立するので、そこまで問題にもならない。


 なにより普通のプレイヤーにとっては希少魔導球であっても、やり込み勢である俺たちにとっては「ちょっと勿体ないな」程度で付け替えできるほどの在庫を保有していることがいわば当然だったこともある。

 実際、俺もわりと気軽に付け替えていたし、理想構築の『呪印』は固定した上で、新たに1から育てて構築ごとに同じ呪印を複数用意することも当然となっていた。


 だがその呪印に溶かし込める魔導球の数、いわゆる空スロット数がある日突然増えたのだ。


「ちょwwwwwマジ?wwwww」


 という一言と共にSNSにあげられたスクリーン・ショットは、確かにその『呪印』に設定されている空スロット数を明らかに超越していた。

 このゲームにおいては装備のランダム性は存在しておらず固定であることが周知されていた以上、その画像はよくある改造(チート)か――そうでなければ開発運営が最後に仕込んだサプライズが表沙汰になった瞬間だったのだ。


 初期こそ改造を疑う声のほうが多かったが、あっさりと開発運営自身が仕込みを認め、その詳細も即時公開したためにちょっとした騒ぎになった。


 開発運営曰く、最終実装された裏ボスを討伐した後からその隠し強化は開始される。


 その後最上位難易度の幻獣種と呼ばれる上位魔獣を倒すたびにその数がカウントされ一定値――1,000体となった時点で、最初の成長として装備している呪印に空スロットが1つ増加する。


 その『強化』が適用されるのは『呪印』だけである。

 また装備して討伐しなければ強化カウントはなされない。

 逆に装備さえしていれば強化対象となり、その制限はない。


 最初の強化後は100体倒すごとに空スロットが1増加するが、魔導球の希少度に応じて装備可能な1~4段階が順次上昇していくことが固定されている。

 要は最初は1スロ穴が1つ開き、その後100体倒すごとに2スロ穴、3スロ穴、4スロ穴と成長していき、その次はまた1スロ穴が新たに開くという流れである。


 なおその上限も制限されていない。


 その一文を目にしたとき、俺は大笑いした。


 つまりそれは、最終的にプレイヤー・キャラクターにすべてのスキルを上限まで搭載することも可能にしたということに他ならないからだ。


 もはやバランスもへったくれもない。

 そんなものは公認チートでしかない。


 これまで一応は考えられてきたバランスという概念を、最後の最後で開発運営自らが完膚なきまでにぶっ壊してのけたのだ。


 当然同好の士の中にはそのあまりにも乱暴なやりように「()えたわ」という者も多く、その気持ちも理解できなくはなかった。

 装備の拡充を大前提としながらも、ゲームへの理解とプレイヤースキルの向上こそを骨子としていたゲームコンセプトを、開発運営自らがぶっ壊したのだからさもありなんとも思う。

 レベルを上げて物理で殴って解決するなど、アクション系狩りゲーとして認めないというのはいたって(もっと)もなのだ。


 だが少なくとも俺の中ではこの世界に居続ける、とてもいい理由を提供してもらえたと思ってしまったのだ。


 またそれだけに止まらず、その『呪印』が本来有しているスキルそのものも僅かずつ成長することが合わせて発表された。

 確かに最終的にすべてのスキルを搭載できるだけのスロットを備えられるようになる以上、強化するのがその呪印であるという存在意義を維持させるためには当然の話ではある。

 

 次々と最初のスロットが開いた――最終実装ボスを討伐してからもなお飽きずに1,000体もの幻獣種を狩り続けた酔狂者たちから、その検証結果が次々とあげられることになった。


 それは敵を1体倒すごとに、アクティブ、パッシブを問わずそのスキルが発動した際の効果が、ほんの僅かずつ強化されているというものだった。


 例えば常時発動型である『攻撃力強化』であれば、1,000体討伐時点でステータス表記されている攻撃力が10上昇していた。なんと1体倒すたびに無条件で0.01強化されるのだ。

 また回避距離上昇であれば、スキル上限を超えてほんの少しずつその距離が伸びていることが確認された。


 もう無茶苦茶である。


 こちらも上限を設定していないと発表された以上、現実的とは言えない討伐数を経さえすれば、一撃であらゆる敵を屠ることも、一回避でマップの端から端まですっ飛ぶことも可能になるということなのだ。


 このゲームを本気で好きだったプレイヤーほど、本気で怒ったり萎えたりしていた気がする。


 それ以外は(おおむ)ねみな笑っていた。


 あくまでも理論的には可能というだけであり、実際にそんな公式チートを行使しようと思えば年単位でのやり込みが必要となる討伐数だったので、開発運営の最後の冗談(ジョーク)として受け止めた者が多くを占めたのだ。


 だが極少数の一部には激しくぶっ刺さった。

 間違いなく俺もそのうちの一人だった。


 この御時世、その気になれば改造(チート)で同じことをできるようにすることなど簡単だ。

 最終アップデートも済ませたいわばすでに終わったゲームなのだ、BANされることがそれほど怖くなかったこともあるだろう。

 ネットに動画をあげてそれをみんなで笑う程度のことであればそれで事足りたし、実際にやり込みなどせずに同じ状況を改造で再現している配信者も少なくない数が存在していた。


 俺だってわかっていたのだ。

 いくら最後の御褒美のようなモノとはいえ、いくらなんでもこれはやり過ぎだと。


 約2に年に渡って愉しいことが大前提だとはいえ自らのプレイヤースキルを磨き、このゲームを上手くなることに血道をあげてきたコアなファンこそをある意味においては否定する、バカにしているとさえいえる所業なのだと。


 ――だが。


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