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かつて救世の勇者転生、あるいはいずれ滅世の魔王降臨 ~王立学院の呪眼能力者~  作者: Sin Guilty


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第27話 『魔法と武技』①

「入学式まであっという間だったね」


「それは否定しないが、俺としてはそのあっという間に激変した環境にまだついていけてないよ」


 王立学院の入学式へ向かうツアフェルン家の豪奢な馬車。


 魔法だの超技術オーバー・テクノロジーだの逸失技術(ロスト・テクノロジー)だの時代錯誤遺物(オーパーツ)だの、要はゲームの世界が現実化しているこの世界における最高峰の技術を金に糸目をつけずに注ぎ込まれたこいつは、前世での高級車の乗り心地を遥かに凌駕している。


 まさに移動する貴賓室とでもいったところだ。


 牽いている馬もなんか角とか生えているし、使役可能な魔物(モンスター)の一種だろう。御貴族様たちは目ん玉飛び出るくらいの金をかけてでも、どうしてか馬としての性能はそんなに変わらないこいつらをつかいたがる。まあ見栄とはそんなものなのだろうが。


 その広い空間に向かい合って座っているユージィンがそう言う通り、知り合った入学試験の日から今日まで、体感としては確かにあっという間だった。こんな調子だと焦がれていた王立学院での3年間も、同じようにあっという間に終わってしまいそうで怖いくらいだ。


 だが俺が答えたとおり、そのあっという間に起こった変化が激しすぎて、未だに現実感を伴わないというのも事実である。感覚としてはあっという間なのに、思い返せば密度が濃すぎて、一つ一つのエピソードが随分前のことのように感じる奇妙な感じになっている。


「そうかい?」


「そうだよ」


 そうなんだよ!


 いや伯爵家の三男様(ユージィン)と畏れ多くも友人になったのだ、その恩恵が実家――ローエングラム商会に及ぶことくらいは理解していた。というか期待していたといった方がより正直だろう。

 実際その恩恵は絶大であり、伯爵家御用達から王家御用達となり、王宮が消費するありとあらゆる商品の仕入れ窓口を一括して任されるようになるまで、ほんの一月もかからなかった。


 王権や貴族の権力についてなどてんで素人である俺にも、それがどれだけ異常なことくらいかは流石に理解できる。


 最終的には同じ恩恵を与えてくれるつもりだったとしても、従来商人との調整だけでもそれなりの時間は必要だろう。それぞれの利権に絡んだ貴族家その他との調整も(かんが)みれば、年単位でかかったところでなんの不思議もないし、最終的に頓挫(とんざ)する方が自然だとさえ思える。


 それがきっちり一月で実現されており、しかもそれに対する嫌がらせや妨害の(たぐい)が今を()ってなお一切出ていないのだ。

王権はもちろん、それを支える貴族家はじめ有力氏族が全て進んで協力しているとしか思えない。


 その事実そのものに感心するよりも、伯爵家とはいえ三男坊の口利きだけでそれが実行されたということにかなりひく。それはもはや武門の名家であるツアフェルン伯爵家の権力がどうこういう前に、この国の王族や貴族のみならず、聖教会や大商人までもがユージィンの言う通りにすること、それそのものに利を見出したということに他ならないからだ。


 要は俺と良好な関係を築く。

 ただその為だけに、これだけのことがあっさりと実行されてしまっているのである。


 恩恵を受けているローエングラム商会の方が急激な拡大について行けず、あらゆるところに迷惑をかけながらも「王国一の大商会」に祭り上げられている状況だといった方が正しいだろう。


 まさにあっという間に俺は、この王国一の大商会の跡取り息子にされてしまったわけだ。

 あっさりその状況についていけてしまった方が異常だと俺は思う。


「まあ今日からは寮生活が始まるわけだし、あんまり関係ないよ」


 さらりとユージィンは言っているが、まあ(もっと)もではある。


 入寮してしまえばほとんど世俗からは隔離されるし、3年間己を鍛え上げることに集中できることはまず間違いない。なんといっても国がそう在るようにつくった教育機関なのだ、よほど強い干渉力を持ってでもいない限り、世俗のあれこれに(わずら)わされることはほとんどなくなるだろう。


 だがあっという間に過ぎ去ったこの数ヶ月で、その「よほど強い干渉力」を持った人たちとばっかり知り合ってしまっているのも一方での事実なのだ。


 油断はできない。それに――


「それはそうだとしても。それよりなんでユージィンまで寮に入るんだよ」


 そうなのだ。

 まさかユージィンも寮で暮らすことを選択するとは思わなかった。

 大貴族らしく、今のように貴族区のお屋敷から毎日馬車で通うものだと信じて疑っていなかったのだ。


「クナドは僕が家から通った方がよかった?」


「…………いや、寮生活してくれた方がまだいくらかマシかな」


 沈思黙考の末、俺の質問に質問で返してきたユージィンの悪い笑顔に、俺はそう答えることしかできない。

 そうなのだ、王立学院の寮にいようがいまいが干渉することが可能な方々との付き合いが出来てしまっている以上、ユージィンには(そば)にいてもらった方がありがたい。

 王族だの大貴族だの、聖教会の上層部だの他国の大商人のオーナーだの、そんな連中を俺1人で相手するのは御免被る。ローエングラム家の後見者としてツアフェルン家三男様には必ず御同席を願いたい。


 だいたいそれ以前の大きな問題として、ユージィンのお姉様の問題がある。


 ユージィンによく似たまさにお姫様といった美人さんなのだが、なぜか初対面からずっと婚約、結婚を前提としたお付き合いを申し込まれているのだ。正直かなりぶっちゃけた上での求愛を受けているわけだが、ユージィンが「クナド次第だよ」と言ってくれているので今はお互いを知る期間としてなんとかのらりくらり(かわ)している。


 ユージィンが実家から通うとなると、どうしても会う機会が増えてしまうだろうしなあ……


 いやけしてユージィンのお姉様――クリスティナさんが嫌いなわけではない。

 初対面の際に「一目惚れしました」などと言われていたら、もうとっくに篭絡(おと)されていただろうという、確信に限りなく近い予想もある。


 だがあまりにも直球に「クナド様を我が家に取り込むためには、私が篭絡するのが一番確実ですよね?」などと本人に確認する奴がいるか? いや実際にいたんだが。

 その上で本当に手段を選ばず篭絡しようとしてくるので、ちょっと本気で怖いのだ。


 クリスティナさんは今の俺より3歳上の御年18歳だが、なんというかこう知識と躰だけが無駄に成長した無垢な少女が、自分がそうすることが最も家の役に立つと妄信しているようにしか見えない。そうと知りつつ据え膳だからと手を出すというのは流石に憚られるというか……俺がビビっているというのももちろん否定はできないのだが。


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