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かつて救世の勇者転生、あるいはいずれ滅世の魔王降臨 ~王立学院の呪眼能力者~  作者: Sin Guilty


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第25話 『汎人類防衛機構A.egis』④

「さすがにそのあたりは話がはやくて助かります。汎人類防衛機構などと(うそぶ)いているだけはある」


『――まあよい。貴様の云うことは一応は納得できた。まずは王立学院の3年間はすべて貴様に任せよう。必要と判断したことはこちらで手配し、その情報は共有を徹底しよう。貴様が必要だと判断したことはその都度伝えよ。基本的にはその通りに手配する』


 なかなかに辛辣なユージィンの発言を本部は流した。

 ユージィンに全否定された報告書を本部承認の上で一度は通した以上、一定の誹りは甘受せざるを得ないとみているらしい。


「御理解いただき助かります。ではまずは王女殿下の飛び級入学の手配をお願いします」


『……承知した』


 現王太子の一人娘はまだ12歳だが、とんでもなく美しく聡明である。


 王権を行使すれば王立学院への飛び級入学など造作もないし、能力的にも困ることもないだろう。魔法の才能はあっても技は使えないので同じクラスは不可能でも、同学年に王女がいるという状況はユージィンとしては是非とも整えておきたい。


 クナドが王族とか貴族のお姫様というものに憧れを持っているのであれば、一番分かりやすくて強力な手札になるのだから当然だろう。


 それに組織から特に圧力などかけなくとも、クナドに関する情報をある程度開示すれば、王家自らがその方向に動くことは間違いない。ただでさえ取り込んでおきたいユージィンも同学年になるのだ、A.egis側が難色を示さないのであれば願ったり叶ったりといったところだろう。


「あとクリスティナ姉様。できるだけ早いタイミングで彼を我が家に招きますので、全力で篭絡するようお願い致します」


「と、歳下よね?」


 ツアフェルン家では現当主リュグナスと長女であるクリスティナの2人だけが身体的には普通の人間である。母親の血を継いでいるため魔法は使えるが、母や2人の兄、弟とは違って身体には一切手が入っていないのである。


 家族であるがゆえにこの場にも参加しているが、ユージィンが化物扱いするような相手に自分が関わる要素などないと油断していたら、これ以上ないぐらいの剛速球を叩き込まれたといったところだ。


 確かに自分でも母親に似た容姿くらいしか取り柄が無いなどと自虐もしていたが、可愛い弟からまさかそれを全力で活かせと言われるとは思っていなかった。


 しかしA.egisの一人である以上、出来ることはすべてする覚悟はできている。

 なによりも大好きな弟に戦力の一部と見做されていることが、この上なく嬉しい。


 弟と同い歳を相手に色仕掛けを仕掛けるというのはなかなかに難易度が高いが、なにも手慣れたお姉さんとしてそれをせよと言われているわけでもない。周りからそこだけは突出しているといわれ続けてきた容姿が本当に役に立つのであれば嬉しくもある。


「僕と同じ歳ですからね。でも僕なんかよりよっぽど大人びていますし、容姿もとんでもないです。それに彼、本気で歳上好きみたいでしたよ」


「が、頑張る」


 それにどうせ叶わぬ想いを抱えて生きるくらいなら、本気で好きになる努力を出来る相手ができるのはありがたくもある。歳上であることも障害にならないのであれば、自分にできる全力でことに望むのは吝かではない。


 今まで隠すことしかできなかったのだ、全力で好きをアピールできるのは楽しいのかもしれない。たとえそれが偽りのものであったとしても。


 一方ユージィンにしてみれば、クリスティナは自分などよりよほど頼りになるとみている。試験官――教師を相手に本気で「いい」と言っていたクナドであれば、3歳差などないも同然だろう。

 歳下は王女、年上をクリスティナ、肝心の同じ歳に対象者がいないが、歳下とは言え王女とは同学年になるし、クリスティナとは頻繁に会える時間を確保するように立ち回れる。

 

 ユージィンとしてはまずはこの二枚看板でクナドの反応を見る心算なのだ。


『定時報告だけは怠るな』


 色仕掛けなど懐柔策におけるイロハのイであり、任せたからには本部も口出しする気はないらしい。あらゆる手段で情報は取得するのはもちろんだが、最も近くにいる者からの主観、客観双方の報告こそが最も重要であることは変わらない。


 その徹底だけを指示している。


 今後ユージィンがクナドを出来れば取り込む、最悪でも人の敵とならないために国家予算規模で金を使っても、報告がきちんとなされている限りは一切の制限などしない。人の世界を護ることが金程度で(あがな)えるのであれば、それがいくらかかったとて安いものでしかないのだ。


「承知しました。ああそれと魔獣以外への対処ですが、今後は僕も含めて積極的に動くようにします。許容範囲を超えているものは可及的速やかに殺処分を進めましょう」


『気付かれる前に、か?』


「この世界を捨てたものではないと思ってもらわねばなりませんからね」


『肝に銘じよう』


 それを理解できているユージィンが、金ではどうにもならない部分を早急に処理することに協力することを明言する。

 つまりは一定以上腐敗した国、組織、個人を超法規的措置――人知れず暴力によって処分することにツアフェルン家の戦力を使っても構わないと明言したのだ。


 これまではその手の処置は本部の仕事として切り離しており、あくまでもツアフェルン家はいずれ復活する魔獣への戦力として在ることを徹底していた。


 だが当面は心配ないにしても、クナドの世界が広がるに伴って見えてくる世界は、せめて損得勘定で相いれない程度には整えておきたい。これまではそれも人の多様性の一つと容認してきた在り方も、全体の保全のためであれば切り捨てることに躊躇いなどないのだ。


 それは本部とて異論はないようだ。


 クナドをその気分次第で世界を滅ぼせる存在だと定義する以上、気分良く世直しを実感できる程度であれば許容出来ても、本物の汚物処理に携わらせるのは悪手でしかない。


 万が一にも「人」という種そのものを見限られることだけは避けねばならないのだ。


 となればそんなものは剛力で磨り潰すのが一番手っ取り早い。


 今から数カ月の間に、いくつかの独裁国家はその在り方を根本から変え、何カ国にもその縄張りを持つ裏組織のいくつかは崩壊し、突出した個の能力を犯罪に使っていた者の多くがその姿を消すことになるだろう。


 世界が混沌よりも、ある程度は美しくあることをその守護者を自任する者たちが定めたおかげ、あるいはせいで。


「あ、あとこれはできればで構わないのですが」


『なんだ』


「神話に謳われる『魔獣狩り(ハンター)岐』の聖遺物を用意できませんか? 種類は問いませんが、間違いなく『岐』のものであったと証明できている物でお願いします。そうでなければ意味がないので」


『まさか――』


 何でもない事のように口にされたユージィンの言葉に、本部は初めて本気の動揺を見せている。

 

 実はこの世界には神話で語られている武器、防具がいくつも現存している。


 ただし現代の技術では加工どころか傷をつけることも叶わず、失われた切れ味を取り戻すために研ぐことすらもできない。『技』を使える者であっても使いこなす――己が装備とすることができない、武器としては機能しない歴史的遺物としての価値しか有さないそれらは、それでもいくつかは存在しているのだ。


 かつての主――遣い手の名と共に。


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