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かつて救世の勇者転生、あるいはいずれ滅世の魔王降臨 ~王立学院の呪眼能力者~  作者: Sin Guilty


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第24話 『汎人類防衛機構A.egis』③

 王立学院の入学試験における通例に従い、ユージィンとクナドによって行われた模擬戦。

 公的にはその結果は「引き分け」となっている。

 いつまでたってもクナドとユージィンの双方が戦闘継続不可能となるほどのダメージを受けず、それ以上続けても決着がつかないと試験官側が判断したためだ。


 だがユージィン対クナドの勝負は誰が見ても確かに引き分けだったが、大剣対太刀で見た場合は後者の圧勝としか言いようがないものだった。


 大剣の強烈な一撃はその悉くが太刀によって当身で取られ、時に弾かれ、時に(かわ)されてまったく当たらない。

 対して太刀の一閃は大剣でガードしても弾けず押し込まれ、タックルは潰され、躱す動きを待たれて的確に当てられる。


 クナドが呪眼によって常時発動している能力の中には「攻撃を弾かれない」というものも含まれているため、防御行動の全てが正しく機能し得ないのだ。さすがにガードを貫通するなどという超常現象までには至らないが、防御行動をとった相手に対して完全に優位を取った状況に移行する。


 回避行動に対する的確な合わせ――ディレイはクナドのいわばプレイヤー・スキルによるところが大きい。超高速で巨躯を振り回す魔獣に比べれば、大剣を駆使する人間の鈍重な動きなどクナドにとっては止まっているようなものに過ぎない。どう避けようがそれに剣閃を合わせることなど児戯にも等しいのだ。


 ユージィンの強靭な肉体がクナドの剣閃、その悉くに耐えられるからこそ、決着がつかなかっただけなのだ。ユージィンの――『勇者の呪印』の真価はたとえクナドが振るう太刀が木剣や刃引きされたものではなくとも耐えることが可能な点なのだが、そんなことは模擬戦を見ていた者に分かるはずもない。

 

 これが真剣による殺し合いだった場合、最初の一合でユージィンは命を落としていたのだと誰もがそう思わざるを得ないのだ。


 ユージィンはとんでもなく恥をかかされたともいえるわけだが、その当の本人が嬉々として模擬戦を続行し、それを溜息をつきながらもクナドが受け続けたので試験官による終了が告げられるまで、ユージィンは斬られ続けることになったわけである。


 クナドが手加減などせず振り抜いていることは、その一閃を受けていたユージィンが一番理解していた。たとえクナドが振るう太刀が最上級の真剣になったとしても、この程度では自分に致命傷を与えることはできないと断言できる。


 だがそんな状況を当たり前として苦笑いしているクナドには戦慄を覚えざるを得ない。


 まず間違いなくクナドはユージィン自身よりもその力――『勇者の呪印』について詳しい。

 だからこそ自分が木剣による技を本気で叩き込んだ程度で、ユージィンが深刻なダメージを受けることが無いと確信できているのだ。そうでなければあそこまで気持ちよく振り抜くことなどできはしまい。もしもそうでなかったらちょっと怖い。


 だがそうだからこそ、それで平気なユージィンを見ても苦笑い程度で済ませるのだ。

 知らなかったとしたら、さすがに驚愕せずにはいられないだろう。


 それは逆に返せば、クナドはユージィンの攻撃をくらったら自分がどうなるかも知っていたということになる。実際理解していたはずだ。


 木剣であろうが刃引かれていようが、ユージィンの剣撃は魔物を一撃で絶命為さしめる。防御力においては魔物よりもずっと弱い人間など、鎧を着ていようがいまいが確実に挽肉に変えるだろう。


 確かにクナドの戦闘機動は洗練されており、実際ユージィンは一撃も当てることができなかった。だがたとえまぐれでも当たれば死ぬことを知っていてなお、クナドのように振舞えるとは思えない。


 当たれば確実に死ぬ攻撃を避けるにあたって、緊張しない者など居はしない。


 つまりうっかりくらっても自分が死ぬことはないと、クナドは確信していたのだ。

 どうやってかはユージィンにもわからない。

 自分でもちょっと笑いそうになるくらい華麗に悉く躱されてはいたものの、当たれば消し飛ばせると確信できるにも拘わらず、クナドの態度はそれは不可能なのだと雄弁に語っていた。


 底が知れない。


 正直最後の方は、当たったらどうなるかを知りたくて完全に本気になっていた。

 つまりは一切の言い訳ができない状況で、完封されてしまったのである。


「根拠なき上から目線で、簡単に御し得る便利な力だと見做すのは危険だと心から進言します」


 だからこそユージィンはこの結論に至っているのだ。


 クナドはまだその実力を発揮していないという確信がある。その状態でですら、自分はまるで相手にならない。ユージィンにほんの僅かでもダメージを通せる武器をクナドに与えれば、その時点で自称『対魔獣用決戦人型兵器』とやらは嬲り殺されるのだから。


『ではどうする?』


「まずは彼にとって大事なものを増やします。彼が自ら護りたいと思える対象を、御両親と妹君以外にも広げることが急務でしょう。まずはこの国を大事だと思ってもらえれば最上ですね」


 本部がその方向に同意してくれたのはユージィンにとってもありがたい。

 両親だの妹だのを人質に取ってブチ切れられることに比べれば、現時点からでも打てる手はまだいくらでもあるからだ。


 3年間に及ぶ王立学院の寮生活で、クナドにとって壊したくないものを一つでも多く増やすのだ。その可能性があるのであれば手段も択ばず、予算にも糸目をつける心算など無い。


 もちろん自分が友人の一人としてそうなれるべく、最大限の努力もする。


(くだん)の者にとっての、偽りの理想郷を演出するという訳か』


 当然、本部も懐柔すると決まればその理解度は高い。


 圧倒的な技術格差によって君臨することも可能であるにも拘らず未だ主権国家が存続しており、A.egisが人の世界を統べていないということは、硬軟織り交ぜてすべての国を操っているということに他ならないのだ。


 その実績からみても、懐柔は単なる力推しよりもよほど得意分野なのは確かだろう。


「いつまでも偽りでは困りますけどね。あとプラス要素は仕込んでもマイナス要素の仕込み、あるいは処分は必要ありません」


『ふん。もとよりそんなものは溢れておるし、(くだん)の者にその処分をさせることで全能感を与え、自らの手でこの世界をいくらかでもマシにしているという実感を得るための餌と成すか』


 クナドにとって心地よい世界を構築するためのプラス要素は惜しみなく投入する。

 だがそれを(おびや)かすサクラなどわざわざ用意しなくとも、そんなものはいくらでも世に溢れているのだ。


 クナドに対する情報の制御を上手く行えば、深刻な害にはならない悪者役などいくらでも湧いて出て来るだろう。

 王立学院に限定しても、現状では自分たちが上だと思い込んでいる魔法使いたちの中から、クナドの扱いに嫉妬して絡む者はまず間違いなく出ると断言できる。


 もっとスケールを大きくすればクナドが所属する国にちょっかいをかけてくる国はいくつもあるし、ほっておいても火種はいくつもある。それをクナド自身に解決させていくというのは悪い手ではないのだ。


 人である以上、自分の力で護った対象には愛着がわくものなのだ。


 それが可愛らしく懐いて見せればなおのことだろう。


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