第20話 『技と能力』④
継戦納刀へは繋げず、ペイントボールによる攻撃を『当身斬り』で取ってそのまま『瞬閃』へ繋げる。一瞬で無数の剣閃が叩き込まれたことによる腹の底に響くSEが心地いい。
当然当身斬りで取った以上、複数撃ち出されていたペイントボールは俺の身体にかすりもしていない。現実化したこの世界での「無敵」の表現は物理法則を完全に無視していてちょっと気持ちいい。
ちなみにクリティカル率を上げる各種の能力もすべて上限値まで積めている俺の剣閃は、そのすべてが会心の一撃であり、クリティカル時限定で乗るあらゆる能力も常時発動する状態だ。
絶対的な攻撃力は使っている太刀そのものがしょぼい以上はどうしようもないが、通常時にその太刀が叩き出せるダメージを遥かに凌駕することは造作もないのだ。
なによりも通常時とクリティカル時のSEはまるで違うし、その上にクリティカル時の攻撃力を増加させる能力や、切れ味の消費を無効化する能力が乗った場合はSEのみならずヒット時に発する魔導光そのものも派手になる。
まさに今の俺だ。
この音と視覚による特殊効果って、個人的にはめちゃくちゃゲームにとって重要な要素だと思うんだよな。
これがカッコいいというか様になっているというか――端的に言えば気持ちいいと感じられるゲームは、操作していることそのものが最上の娯楽になるからだ。
触っていて気持ちいいというのはもはや理屈ではない。
あるいは俺をこのゲームに夢中にさせた最大の要因かも知れないそれが、現実として再現されているのだからもうたまらない。
こうなると周囲からの視線や自分自身の緊張といった、動きを最適化するために不要なものが無理なく遮断されていく。無駄が全てそぎ落とされていく、自分が集中していく過程をそうと自覚できるのだ。
自分の感覚が研ぎ澄まされていくのを自覚できるのは、他ではそうそう得られない独特の感覚――間違いなく快感の一種だと俺は思っている。
繰り出した『瞬閃』の隙を定石通り継戦納刀で潰して、即時特殊抜刀攻撃へ移行。
そこから刀気ゲージ消費剣閃の連撃から再び『瞬閃』へ。それを繰り返して刀威レベルが最大になれば、『飛翔一閃』を叩き込んでその隙も継戦納刀で消して連撃を継続する。
たまに来るペイントボールなど、見てから当身斬りで取ることなど造作もない。
肚に響く重低音の剣戟音と、迸る剣閃に伴う魔導光。
それらが途切れることなくなぜか静寂を感じさせる空気の中継続され、突如巨大な破壊音――ユージィンと同じように俺が疑似目標を破壊したことによって途切れた。
初撃からここまで、一度たりとも連撃を途絶えさせずに破壊を完遂したのだ。
「……そ、そこまで!?」
最後に叩き込んだ『飛翔一閃』で崩壊した疑似目標を前に、継戦納刀で構えたままの姿勢でいた俺は、しばらく絶句して沈黙していた試験官のその声で継戦納刀からそのまま通常納刀へと移行、戦闘態勢を解除した。
自分が破壊した疑似目標に黙礼して踵を返す。
適度な高揚と心地よい軽い疲労感、浮かんだ汗が流れだす感覚も悪くない。
最初こそ緊張したが、なかなか集中して連撃を途絶えさせることなく疑似目標を破壊するところまで持って行けたのだ、次席合格は間違いないだろう。
そう思いつつ額の汗を肩で拭うと、俄に周囲から拍手が巻き起こった。
――ん?
ユージィンの時ですらそんなことはなかったはずだが、この拍手はなんだ?
試験官たちも一緒になってやっているので、どうしたものかとユージィンの方を見たら、一番興奮状態で立ち上がって拍手をしてやがる。
まあ高評価なのであれば文句はない。
とにかくこれで王立学院の入学試験も終了である。
さっさと家に帰って、なんとか次席合格でもお許しいただけるようにスフィアと話をしなければなるまい。
◇◆◇◆◇
だが残念ながら、これで終わりではなかった。
当然俺の後にも受験生はいたが、彼ら彼女らの試験が終了するまでは終わってなどいないという意味ではない。
まさかの試験官側の選出による、模擬戦が開催されることが宣言されたのだ。
聞けばこれは毎年恒例のことらしく、それに選出された受験生はこの後よほどの問題でも起こさない限り、合格を保証されたようなものであるらしい。聞いた相手は当然の事ながらユージィンである。
別に秘匿されている情報というわけではないようだが、親兄弟親類縁者が王立学院生でもない限り知る機会の無い情報でもあるだろう。
筆記試験の問題も含めて基本的にすべての情報は「門外不出」が前提となっているので、余計なことを外部に進んで話す生徒は存在しないのだ。せっかく狭き門を潜って得た特権を、くだらないことで失いたくないというのは至極当然の話ではある。
だからこその利益はあるにせよ、それが専制君主国家でお上から目を付けられるに足る対価かと言われれば疑問視する者の方が多いのだろう。
「とはいえ対人戦は危険じゃないの?」
「僕とクナドなら危険なんてものじゃないけど、普通であれば問題ない範囲の危険に入っていたんだと思う」
「なるほど」
危険が無いとは言わない。
だがユージィンの言う通り、俺とスフィアの鍛錬のように木剣やそれ以下の模造武器を使用してなのであれば、許容範囲に収めることもできていたのだろう。
ゲーム時代と違って魔法が存在する現状、治癒魔法の効果はスフィアほどではないにせよなかなかに強力であるらしい。
まあ治せるからといって、受験者に怪我をすることが大前提の模擬戦をさせるというのは正直どうかと思わなくもない。
「というわけで僕とクナドを最初からあてるようなことはしないと思うよ。試験官たちもあえて僕に恥をかかせたくはないだろうしね」
刃引きされたものどころか、木剣、あるいは竹刀でも相手を殺せるであろう俺とユージィンに模擬戦などさせられないというのはまあ当然だろう。つまり俺たちはきちんと手加減できる相手と模擬戦をさせられるということだ。
「確かに拍手は嬉しかったけど、ユージィンが疑似目標を破壊するまでにかかった時間の倍以上かかっているんだぜ、俺が破壊できるまでに」
だがユージィンはともかく、試験官たちまで俺の方が上と見做しているといわんばかりの言葉は聞き捨てならない。
「それは動かない疑似目標相手の話でしかないよ。だけど当てられなければ、そもそも壊せないでしょ?」
「……それはそう」
だがユージィンは冷静に俺の戦闘機動を観察していたらしい。
「あたらなければどうということはない」とはまさに至言なのだ。
「僕はクナドに攻撃を当てられる気がまるでしないよ。逆にクナドの連撃を捌ききれる自信なんか欠片もない。それにいくら刃引きされているか木剣を使ったとしても、あの大技をくらえば治癒魔法などではどうにもならないよね」
「それもそう」
俺は攻撃を見てからでも当身で取れるので、ユージィンが繰り出す大剣の技をくらうことはまずないだろう。ミスったらやばいが、技には明確な型があるからこそ躱すことはそう難しくはない。




