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かつて救世の勇者転生、あるいはいずれ滅世の魔王降臨 ~王立学院の呪眼能力者~  作者: Sin Guilty


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第18話 『技と能力』②

 だがそれぞれの武器における基本的な挙動――『技』を繰り出せる者とそうでない者が明確に分かれていたのだ。


 ユージィンの大剣であるならば『溜め斬り』や『タックル』、俺の太刀で言うならば『瞬閃』や『見切り』。それ以前にただの一閃であっても「ただ適当に振り抜いたもの」と、「型に従ったもの」ではその威力は桁違いなのである。

 それらを繰り出せるからこそ、人の身であっても魔物と伍することが可能なのだ。

逆に出来なければ一方的に嬲り殺されることにしかならない。


 どれだけ頭がよかろうが、どれだけ基礎的な身体能力に恵まれていようが、それらを魔物を討つための力として正しく出力(アウトプット)できない者は不合格とされる。

 できる者の『型』だけを真似たところで、『技』が成立、発動していなければ疑似目標にあっさりはじき返されてしまうので、誰が見ても一目瞭然なのである。


 王立学院の冒険者養成学部の入学試験とは畢竟(ひっきょう)(せん)()めれば、そのいわゆる「武器適性」とでもいうべき才能の有無を確認することこそが目的なのだろう。


 知識や基礎的な身体能力は王立学院入学後の3年間の学習で後天的にいくらでも身に付けさせることができても、それぞれの武器を操って『技』を放てるかどうかは呪印と同じく、先天的な才能に依存しているのだ。


 大前提としてプレイヤー・キャラクターが(ベース)となっている今の俺にはぴんと来ていなかったが、確かに『型』を再現しさえすれば強力な『技』を繰り出せるというのはおかしな話ではある。

 ゲームを(ベース)として現実化した世界というトンデモないことが成立している以上、今更の話ではあるのだが。


 なので『血戦』が発動した俺であればたとえ素手であっても関係なくなるのだが、この試験では素直になんらかの武器を使わなければ不合格になってしまうだろう。


 逆にそんなシビアなユージィンでも「おや?」という反応を示すに足るほどの動きを見せる者も、もうすぐ俺の受験番号――139番が来るまでには少数ながらも存在していた。


 正確には2人。

 ともに女性だ。


 1人目は受験番号39番。

 ユージィンが教えてくれた情報によるとヴォルカン子爵家の御令嬢。


 2人目はユージィンが昨日、美しいと称した女性受験生。受験番号は77番。

どうやら俺と同じ平民、もしくは他国からの留学生であるらしく、ユージィンも情報を有していなかった。


 他者とあからさまに違って目を引いた理由は、その2人も呪印持ちだったからだ。


 39番の『呪印』は間違いなく回避性能上昇。

 使用武器は弓。


 相当の域で使い熟しており、ペイントボールの塗料を一切その身に付けることが無かったのはユージィンに続いて2人目。ちなみにそれ以降も今のところは現れてはいない。

 ゲーム時の知識で言えば弓は遠距離攻撃武器ではなく近接武器なので、回避性能上昇との相性は悪くないと思う。

実際うまく活かした立ち回りをしていたからこそ、ユージィンも感心したのだろう。


 77番の『呪印』はおそらくスタミナ系のどれか。

 俺の予想では消費量軽減だと思う。


 使用武器は双剣。


 回避行動は多用せず、基本的に走り続けてヒット&アウェイを繰り返して息切れしないところから見てまず間違いないだろう。昨日の持久走で俺とユージィンを除けば最後まで走れていたことも、俺の予想を裏付ける要素となっている。

 双剣とスタミナは切っても切れない関係なので、ベストな組み合わせだと思う。


 だがこっちで生まれてから自分以外が双剣を使うのを見たのは初めてだったのだが、代名詞とも言える『獣変調』を使っていない点が気になった。奥の手として隠しているのであればいいのだが、使えないとなると双剣の真価は発揮できないだろう。


 どうあれ2人とも、現状の魔物を相手にするのであれば突出した戦力ではある。

 少なくとも他の受験生と比べて頭一つ二つ抜けているのは間違いない。


 俺からすれば地味だが、ユージィンほどではなくとも2人とも左目からは魔導光が吹きあがってはいたし、今の時点でも冒険者ギルドの中堅として十分通用するはずだ。さすがにユージィンと違って、魔獣を相手にするとなれば武器防具が貧弱過ぎるだろうが。


 しかし俺を含めれば少なくとも同期に4人呪印持ちがいるということは、呪印そのものは実はそこまで希少な存在というわけではないのかもしれない。


 だがまあユージィン級は希少というより絶無と言った方がいいだろう。


 あれは俺を除けば同期どころか最初にユージィン自身がそう言っていたように、この時代に並び立つ者などいないほどの破格の戦闘力を有している。

 それは俺のようなゲームの知識などなくとも、素人目に見ても明らかだ。


 となると当然、昨日の持久走に始まって身体能力試験では同じような好成績を収め続け、大貴族であるツアフェルト伯爵家御子息の方から仲良くしに行ったようにしか見えない俺の模擬戦闘に注目、というよりも妙な期待が集まるのは仕方のないことだろう。


 俺にはユージィンたち普通の呪印持ちのように、派手に真紅の魔導光を噴き上げることはできない。その分戦闘機動を少々派手にしたところで、他の呪印持ちたちより目立つこともないはずだ。


「いよいよ次だよ、クナド」


 いやなんでユージィンはそんなに目を輝かせているんだ。


 いやまあ俺もユージィンが最初に模擬戦に臨む際には、同じような表情をしていたという自覚があるといえばあるのだが。


「次席合格を確実にする程度には頑張りますよ」


 なのでまあ昨日言った通り、そこそこは頑張るつもりであることは表明しておく。


 最低限、王立学院生である間ユージィンとつるんでいても疑問視されない程度の実力を示しておく必要はあるのだ。不動の№2、「ユージィンと戦いたかったらまずは俺を倒すことだな!」くらいは言える立ち位置が望ましい。


「あれ? スフィアさんに主席合格をするように言われなかった?」


 だが俺の言葉を聞いたユージィンが、その端正な顔に悪い笑顔を浮かべてそう(おっしゃ)る。


「……今朝言われたよ。スフィアに一体何を言ったんだよユージィン」


「クナドが王立学院生である間は、僕が責任を以てその生活を守ると伝えただけだよ?」


 ああ、なるほどこのやろう。


 昨夜の食事で2人きりになる時間などなかったのに、どんな一言であそこまでスフィアをぶんむくれさせたのかと思っていたらそれか。

 というか、まだ逢ってすぐでそういうスフィアの性格、というか特殊な思想をほぼ正確に見抜けているのが一番怖い。


「……ユージィンお前それ、違う意味でスフィアが受け取ったの、気付いているよな?」


「ははは、状況を瞬時で理解できるとは流石クナドだね」


 いや流石なのはユージィンお前だよ。


 その言葉はなぜか俺がこの世で一番強いと妄信している妹君に対して「君のお兄さんより僕の方が強いよ」と宣言したようなモノでもあるのだ。


 ユージィンは王立学院での面倒事から伯爵家の力で庇護してくれるという意味で言ったのだろう。実際、3年もの間寮生活をすることになる以上、伯爵家の後ろ盾があるのとないのとでは暮らしの快適さは別次元のものとなるはずだ。

 ざっと調べた限りでは現在の上級生には伯爵以上の貴族は在籍しておらず、俺たちが三年生になる年に(くだん)の王女様が入学してくる可能性があるくらいだ。


 となれば進んで伯爵家のお気に入りに喧嘩を吹っ掛ける、嫌がらせをしてくるような剛の者はおるまい。少なくとも同じクラス――冒険者育成学部内では平和に暮らせるだろう。


 いくら苦も無く降りかかる火の粉を払えるとはいえ、降りかかってくるうっとうしさそのものが無いに越したことはないのである。


 だが当然スフィアはそういう意味にはとらない。

 またそうとられない言い方を、ユージィンは敢えてしている。


 模擬戦闘試験を明日――今日に控えた状況も加えて、一層挑発のように受け取ったのだろう。だからこそあそこまでぶんむくれた上に、「主席合格して!」などという無茶振りをしてきたというわけだ。


 うーん、聖女候補であっても大貴族様には(てのひら)で転がされてしまうものなんだなあ……


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