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かつて救世の勇者転生、あるいはいずれ滅世の魔王降臨 ~王立学院の呪眼能力者~  作者: Sin Guilty


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第13話 『群抜き』①

「クナド。普通はこんなものなのかな?」


 俺と並走して走っているユージィンが怪訝そうな表情を浮かべている。


 平然とはしているが刃引きされた大剣を背に()き、軽鎧一式に身を包んで走っているので、まあガチャガチャとうるさいことこの上ない。

 俺はといえば敵に発見され(にく)くなる能力(スキル)のおかげで、大剣と太刀の差以外はまったく同じ格好ながらも、なにかの手品であるかのように一切音を発していない。


 我がことながら少々不気味ですらある。


 忍者か。忍んでいるのか俺は。

 そうなら主武器は双剣にすべきだったかもしれない。


 走り出した直後こそ、そんな俺を今のような感じでじっと見ていたユージィンだが、今言及しているのは当然俺のその不自然なまでの静かさについてではないだろう。


 まあユージィンがそう言いたくなる気持ちもわからないではない。


 仮にも魔物(モンスター)と戦い、人の世界を護ろうと(こころざ)している仲間たち――近い未来に同期生となり、将来は肩を並べて戦うことになるかもしれない連中がこの程度であることに、失望というよりも戸惑いを得ているのだろう。


 自分の実力が突出していることは理解できてはいても、あまりにも彼我の差が大き過ぎると今のユージィンのような表情になるのかもしれない。

 もっと突出し過ぎていて孤高――圧倒的な一強であれれば他を皆弱だと納得できるのかもしれないが、この際は横でしれっとユージィンに並走してみせている俺の存在が弊害になっているのだろう。


 ユージィンにしてみれば戦闘能力はともかく、この持久走も含めた単純な身体能力においてさえ、ここまで明確な差があるとは思っていなかったのだ。


 自分と同等、あるいはそれ以上がいて自分はその高みを目指して努力を重ねていると、そうでない者たちを不甲斐なく――それどころか置かれた状況次第によっては、不真面目だとさえ感じてしまいがちなのだ。


 できる人間だからこそ陥りやすい、だが絶対に陥ってはいけない一番危険な考え方ではあるのだが。


 鍛えたら鍛えただけ身体能力が向上することなど当たり前だっただろうユージィンにしてみれば、感覚(センス)能力(スキル)の有無を問われる戦闘能力ではなく、基礎的な身体能力で著しく劣るのは鍛錬不足のせいだと思ってしまっても無理はない。


 このあたりは後できっちりその事実誤認を解いておいた方がいいだろう。

 奇しくもユージィンがそう問うたとおり、普通はこんなものなのである。


 群抜きの存在は、自分がそうだと常に認識しておかねばならない。

 自分の基準を普通だと勘違いしそれを他者にも要求するようになれば、異端者として数の暴力によって排除されかねないのだ。

 それすらも跳ねのけられる存在こそが救世の英雄、あるいは滅世の魔王となるのかもしれない。


 とにかく一時間ほど前に開始された完全戦闘装備での持久走は、現在のところ俺とユージィンの2人が先頭を堅持している。


 その俺たちからグラウンド約半周程遅れて第二集団が形成されている。

 これは男子6人、女子2人の計8人。


 ちなみに俺とユージィンのペースはその第二集団に合わせているので、半周の差はまるでボルトで固めたかのように固定されている。もっとも詰められては突き離すというよりは、徐々に遅くなっていく第二集団のペースに俺たちが合わせて行っている形だ。


 それ以外の全員がすでに周回遅れとなっており、それどころか大部分がリタイア――久しく持ち堪えて走ることすらできなくなっている。


 合格者が例年1クラス分――30人前後であると考えれば、周回遅れどころかこの程度でリタイアした者の多くが合格者に含まれることに、ユージィンは不安を感じているのだ。


 なんとかまともに――あくまでもユージィンの基準においてはだが――走れている第二集団まで含めても10人しかいないので、確かにそうもなるだろう。


 持久走などで魔物(モンスター)との戦闘能力を正しく推し量ることなどできはしないという意見もあるかもしれないが、当然のことながら戦闘機動はただ走るだけなどとは比べ物にならない程激しく疲労する。この程度で動けなくなるようでは、魔物との長時間戦闘など望むべくもないのは間違いない。


「どうだろ? でも実戦装備でこんな長時間走ることはない気はするな」


 試験官に聞かれる可能性もあるこの状況で、ユージィンと俺がいわば異常なのであり、第二集団が優秀、リタイアも含めて大部分の受験生こそが普通なのだと説明するのはあまりよろしくない。


 万が一にでも聞かれた場合、試験官の俺に対する心証が著しく悪化することは間違いないからだ。鼻持ちならない子供というものは、ある程度実力が伴っている方がより大人からは嫌われやすいのである。


 なので問われたことから、あえてずらした答えを返す。


「確かにね。この試験が敗走を想定した状況だとすれば、僕たちはすでに全滅しているだろうしね」


 辛辣。

 だが正しい。


 この俺たちにとってはとてものんびりしたペースで走り続けることにユージィンも辟易していたらしく、俺があえてずらした話題にマジレスで乗ってきた。


 多くの場合、短距離に限ったところで魔物よりも人間の方が走る速度は当然遅い。その上今やっているような持久走においてもまったく敵わない。

 魔物や魔獣がまだ現れる前、知恵と技術によって武装する前の人類が他の生物たちに対して持っていた優位点(アドバンテージ)の一つで、はじめから明確に上を行かれているのである。


 ゆえにどの武器種をつかおうが基本的には待ち構えての迎撃、そこから連撃(コンボ)を叩き込むというのが対魔物(モンスター)、魔獣戦闘の定石(セオリー)となっている。一旦距離を取られたところを必死で追いかけたところで追いつけず、体勢を崩されて振り回されるのがオチなのだ。


 まあ例外の武器種もあるにはあるのだが、転生後にその遣い手をまだ見たことはない。


 パーティー戦闘において、むやみに魔物から距離をとる行為が御法度とされているのはそれゆえのことなのである。普通であれば魔物の敵意(ヘイト)を固定することなど事実上不可能である以上、明確に上を行かれている機動力を手放しで駆使させる状況は悪手にしかならないのだ。


 まあとにかくユージィンの言う通りこの持久走が魔物からの敗走を想定しているのであれば、1時間も逃げ続けているというのは現実的とは言えない。まず間違いなく追いつかれて、疲労困憊しているところを蹂躙されて全滅するのが実際(オチ)だろう。


「ああでもあれかな? 殿(しんがり)で足止めしてくれている間にできるだけ大人数を可能な限り逃がすという展開であればあり得るかも?」


「でもそれって魔物や魔獣ではなく、対人間――戦争を前提としていないかな?」


 基本人間が複数――パーティー単位で魔物一体と戦うのが定石(セオリー)である以上、多少は地形的な要因が絡んだとしても、少数の殿軍(でんぐん)で他の大部分を逃がす時間を稼ぐというのもとうてい現実的だとは言えない。

 本当にこの試験の設定が「敗走」なのだと仮定すれば、俺やユージィンですら敵わない魔物から逃げているということになるのでなおさらだろう。

 逆に少人数で足止めできる程度の魔物なのであれば、逃がしている戦力も投入して倒しきってしまう方がよほど現実的だといえる。


 だがユージィンの言う通り、人間同士の争い――戦争であれば成立し得る。


 特に勝ち戦だと前線の兵士レベルでも確信できている状況であれば、その勝ち戦で死ぬなどまっぴらだという心理が強く働くので、少数の死兵による足止めはある程度は可能だろう。


「それはそう。まあ冒険者とはいえ、国家間の戦争に駆り出されることもあるんだろ?」


 それに冒険者が絶対に国家間の戦争に関与しないということはない。

 冒険者ギルドという国際組織が、原則的にはそれを認めていなかったとしてもだ。


「冒険者としてじゃなく、あくまでも自国民としてだけどね。けど確かにあり得はするか」


 ギルドに登録している冒険者が他国自国を問わず戦争に参加した場合、例外なく登録を抹消されることになっている。だが人は誰しも冒険者である以前にどこかの国の国民であり、冒険者として依頼を受ける形ではなく、あくまでもその国の国民として参戦する場合はギルドも咎めようがないのだ。


 各国と良好な関係を維持しなければ立ち行かない冒険者ギルドという国際組織の落としどころとしては、そうするしかないというのが正直なところだろう。

 また国側の視点で考えれば、それが通らないのであれば冒険者ギルドという組織を容認できるはずもない。


 平和ならざる時代において、軍事力は国力に直結する。

 それを奪う存在と共存などできようはずもないのだ。


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