修学旅行1日目:猫?
みんなと離れてから、広い神様の住居の中を神使さんを探して歩く。僕の肩に乗っている猫は自分の状況も知らずに完全にくつろいでいて、あくびまでしているような始末だ。
「全くもう…君のために神使さんを探してるんだよ?」
「…ふにゃ?」
呑気な猫を叱るのは諦めて神使さん探しを再開する。事前に調べた時に知ったけど、この神様の住居には2種類の神使さんがいるらしい。人が仕事としてやっている神使さんと、僕が出会ったような神様の眷属が神使さんをやっているのの2種類だ。
一般人が普通に見れる範囲にいるのは大体人間の神使さんらしい。そんなことを思い出しながら歩いていると、箒を持って境内の掃除をしている神使さんを見つけた。調べた地図の中には案内所のようなものもなかったし、お仕事の邪魔をするのは申し訳なかったけど近づいて行って話しかける。
「あのぅ…すみません、少しいいですか?」
「はい?どうしました?」
僕の声に反応して顔を上げた巫女装束の女性は、僕の肩に乗った猫に気付き驚いて目を見開く。僕が連れ込んだわけでもないのになんとなく罪悪感のようなものを覚えながら事情を説明する。
「この猫が入り込んでいたみたいで、周りに飼い主らしい人もいなくて…」
「そうですか…」
僕の説明を聞いておねえさんは首を傾げながら少し考え込むようにしてから口を開く。
「動物はここには入れないようになっているはずなんですが…とにかく、こちらで預って対応しておきますよ」
「すみません、お願いします」
僕がどうこうする問題でもないし、猫を引き渡してみんなのところに戻ろうと肩に乗った猫を下ろそうとする。…が、猫は僕の手を肩の上で器用に躱して見せた。
「「…」」
目の前の巫女のおねえさんとの間に気まずい沈黙が流れ、とりあえず捕まえようと少し本気で猫を捕まえようとする。しかし猫はまた器用に僕の手から逃れて、僕の両肩と頭の上をするすると移動する。
「て、手伝いますね…?」
「…すいません、お願いします」
そうして今度はおねえさんと一緒に猫を捕まえようとするも、猫は器用に逃げ続けて見せた。だんだんとおねえさんも疲れて息が上がって来てしまっていた。
「はぁ、はぁ…あの、すみませんが一緒に来てもらってもいいですか?動物なら私の上司が対応できるはずなので」
「は、はい。なんかすいません…」
お互い今猫を捕まえるのは諦めて、動物に詳しいらしいおねえさんの上司さんのところに向かうことになった。…どうして今日はこんなにイレギュラーが多いのかなぁ?そんなことを考えていると、おねえさんが僕の肩の上でくつろいでいる猫を見ながら話しかけてくる。
「動物に好かれるんですね?」
「普段はそんなことないはずなんですけど…なんだかすっかり気に入られちゃったみたいです」
「にゃ」
僕とおねえさんの会話を聞いていた猫が調子に乗るなと言わんばかりの優し目の猫パンチを僕の頬にくらわせてくる。肉球の感触に癒されただけだったけど。おねえさんの若干羨ましそうな視線を受けながら神使さん用の建物らしき場所に案内される。
「尾月様〜!少しよろしいでしょうか〜?」
おねえさんが建物の奥にそう呼びかけてから1分もしないうちに一人の女性が出てくる。その女性は案内してくれたおねえさんよりも高価な生地の巫女装束で、この場所である程度立場のある方なんだとわかる装いだった。
「あら?そちらの方はどちら様かしら?」
…そして何より明確に案内してくれたおねえさんと違うのは、その頭の上にぴょこんと立った耳と袴から出ていたふわふわな尻尾の存在だった。
「お時間とらせてしまってすみません…」
「こちらは参拝客の方なんですが、今肩に乗っている猫ちゃんが…」
明らかに神様の眷属らしき女性にどう接していいか迷っていると、案内してくれたおねえさんが代わりに経緯を説明してくれる。おねえさんの説明を聞いた眷属さんは首を傾げて不思議そうにする。
「おかしいわねぇ、私の結界で誰かが招かない限り動物は入ってこれないはずなのだけど…」
「ですよねぇ…」
おねえさんがぼそっとこぼしていたここには入れないはずっていうのは、眷属さんの張った結界があるかららしい。とはいえ猫が境内にいたのは事実だし、僕も含めて…数え方があっているかは知らないけど、3人で頭をひねる。
「う〜ん…とにかくその子は私の方で預かっておくわねぇ」
「あ、すごい逃げるので気をつけてください」
「大丈夫よぉ、普通の動物はわた、し…に……?」
「…?あの、どうかされましたか?」
眷属さんは僕の肩に乗ってくつろいでいる猫を近くで見ると、不自然に固まってしまった。それから僕とおねえさんが呼びかけても、眷属さんは僕の肩に乗った猫と見つめあって固まったままになってしまう。
「ど、どうしたんでしょう?」
「どうしたんでしょうか…?」
「…っ!」
僕とおねえさんがそうして困っていると、ようやく眷属さんが再起動した。動き始めた眷属さんはかなり狼狽えた様子で、冷や汗すら流しながら目を左右に泳がし始める。
「え、えっと…どうしました?」
「えっ?!えぇっとぉ…そ、そうねぇ…」
「?」
何が起きたのか理解できない僕とおねえさんに、眷属さんはかなり焦った様子のままで続ける。
「そ、そう!そのかt…その子だけど!あなたと一緒に行きたいみたいよぉ!連れて行ってさしあ…上げたらどうかしらぁ!」
「え?でも誰かのペットかも…」
「そ、そんなことないわぁ!私は動物と意思疎通できるし間違いないわぁ!」
鬼気迫る様子でそんなことを言い始める眷属さん。う〜ん…間違いないなら僕としても連れて行って上げたくはあるけど、修学旅行中に動物を拾うのって不味くないか…?
「でも、僕今修学旅行中でして…連れていくのは…」
「大丈夫よぉ!学校の先生には私から言っておくからぁ!ね!?」
「え、えぇ…?そこまで言うなら?」
強引な眷属さんの勢いに負けてついそう返すと、すごく安心した様子の眷属さんがメモを取り出して僕の学校名や先生の連絡先を聞いてくる。
「東都立中央小学校の双葉葵君ねぇ…って小学校?」
「え?はい小学校です」
「…最近の小学生はおっきぃのねぇ、ずいぶんしっかりしてるしぃ」
「あ、あはは…確かに同級生の中だと一番大きいかもしれないですね」
それから眷属さんはぱたぱたと小走りでどこかに行って数分と経たずにすごく嬉しそうな表情で戻ってくる。
「葵君の先生とお話しついたわよぉ、その子は連れて行ってもらって大丈夫よぉ!」
「そうですか…じゃあ、この子が飽きるまでは一緒に行こうと思います」
「えぇ、お家まで連れ帰るのも良いと思うわよぉ!」
「あはは…それは流石に家族と相談してからですね」
妙に焦った様子の眷属さんに、流石におかしいなと思いながらもこのまま境内を連れ歩く許可ももらえたしそのまま班のみんなのところに戻ることにする。
「それじゃあ、お手数おかけしました」
「いいえぇ、修学旅行楽しんでねぇ?」
「はい、ありがとうございました!」
そうして眷属さんとおねえさんの二人にお礼を言ってから、先に神社の本殿に行っているらしいみんなのところに向かう。
「…また変なことになっちゃったなぁ」
「にゃ」
流石に少しの疲労感を覚えながらそうこぼした僕に、猫は全く気にした様子もなく短く鳴いてあくびをしているのだった。
眷属おねえさんは狐っ娘。いやぁ、なんであんなに焦ってたんですかねぇ?
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作者プロフィールにあるTwitterから次話投稿したタイミングでツイートしているので気が向いたらどうぞ…




