神と熾天使
「話だと…?妾は貴様なんぞに話すことはない!不敬であるぞ!」
「…」
自称神さんは頭に血を上らせてそう捲し立ててくる。神なんて大層な肩書を与えられてるぐらいだから、もうちょっと頭の出来がいいと思ってたんだけどなぁ…。突然葵に話しかけてくるわ現状の把握もまともに出来ないわ、とんだ期待はずれだったな。
「…オハナシって言ったのは訂正する。僕が今から君にするのは命令だ」
「何を言っている貴様!妾を神と知っての狼藉か!?」
僕の言葉を聞いて、自称神は一層興奮して捲し立ててくる。…もう面倒だ。自分だって葵にやっていたんだし、僕にやられても文句はないだろう。
僕は躾のなっていない動物に言うように、手のひらを突き出して端的に命令する。
「〈お座り〉」
「?!」
僕の言葉に自称神さんは膝から崩れ落ちるように座り込み、自然と正座のような姿勢で座り込む。何が起こっているのかわかっていない様子の自称神さんが、また余計なことを言い始める前に次の命令を出す。
「〈待て〉」
「…!?…!」
なんとなくのノリで命令を口に出したけど、別に自称神さんが葵にやったように…というより別に動きと紐付けないでも行動を縛ることぐらいはできるけど、実力差をわからせる意味でわざわざ動物扱いしてみたわけだ。
自称神さんは僕の命令に一切逆らえないことを悟って、僕に恐怖の目を向け始める。それでようやく僕が一体なんなのか考え始めたようで、周囲を目だけで確認し始めたり僕を観察し始めていた。
「ようやく僕の話を聞く気になってくれたかな?」
「…!」
口を開けない自称神さんは目線だけで僕に不満を伝えてくるけれど、これ以上余計な話を聞いて不快になりたくもないししばらくは黙っていてもらうことにする。
「勝手に話させてもらうけど…随分と余計なことをしてくれたねぇ?」
この修学旅行中に神に接触、または認知される機会は来るだろうとは思っていた。仮にも神なんだから、僕が格上の存在だとわかるだろうし接触はしてこないだろうと思っていたんだけど…。
「君がわざわざ葵に接触しなければ僕もこうして手を出すことはなかったのに」
この自称神…神という概念から生まれた仮想体は自分よりも上位の存在を認めることができずに、わざわざ葵に接触し始めやがった。この世界におけるある程度の全能性だけは備えてやがったから、僕という異物にはすぐに気づいたんだろう。
「仮にも神を名乗っている存在がこんなに愚かだとは僕も想定外だったよ」
葵を通してじゃなければいくらでも対処のしようがあったのに、この神モドキはよりにもよって直で葵に接触しやがった。冷静になってみれば仮想体とは言っても葵と僕が別だということぐらいはわかったはずだったのに。
「さて、一体どういうつもりで葵に手を出したのかな?」
「…!」
「あぁ、〈話していい〉よ?」
「…クッ、癪だが認めよう。貴様は妾の脅威になりうる。故に妾が直接対応した、それまでのことだ」
「脅威?僕は君に対して脅威だと思ったことは一度もないけどね」
「き、貴様…!」
僕の言葉に神モドキはまた頭に血を上らせて何かを言おうとしたけど、なんとか堪えたらしくそのまま黙り込む。まぁ煽りたくて言ったのもあるけど、脅威と思ってないのは事実なんだよな。
「それで?僕らは別に君に対して何かするつもりはないけど、君はどうするの?」
「…貴様が妾に嘘をつく理由はないだろうが、納得できん。貴様は一体なんだ?それほどの力をどう手に入れた?それを聞かねばなんとも言えん」
言外に僕のことを格上だと認めながらも、ここだけは譲れないとばかりにそう聞いてくる神モドキ。…ハァ、これだけ格の違いを見せたのにまだわからないのか。
「それを僕がわざわざ説明してやる必要はないし、そもそも君が葵に接触しなければこっちから何かするつもりもなかったって言ったよね?質問したことが全て帰ってくるのは自分よりも下の存在だけだよ?」
「クッ…!」
「まぁいいや、条件次第で説明してあげなくもないよ」
「条件とな…?」
この神モドキは別にこの世界のことを全て把握しているわけじゃないことはわかっているし、滅びの運命やその対抗策である葵のことを教えておくのは損じゃない。それに加えてこの神モドキを利用できるなら少しは僕も楽できるだろう。
「とりあえず君にやって欲しいのは…」
そうして僕は、自分の態度に創造神のヤロウを思い出して嫌になりながらも神モドキに命令をしていった。
セラスがこんなに苛立っているのは、葵の記憶を隠しても違和感は残るので後々不都合が出そうで嫌だからです。
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作者プロフィールにあるTwitterから次話投稿したタイミングでツイートしているので気が向いたらどうぞ…




