修学旅行1日目:神
大変お待たせ致しました!また初めて行きます!
葵が佐々木零に取り憑いていた霊を祓ってから、二人は今までのぎこちなさが嘘のように仲が深まり始めた。それからすぐに他の班員とも合流して京都の街を回り出した。
前に葵と零君の手が触れ合った時に感じた電流のようなものは、単純に霊感があるもの同士の感覚だった。
その時に葵以外で初めて霊感のある人間に出会ったから少し気になって探ってみると、彼の体質の特異性がわかった。この世界に来た時に集めた情報と彼の体質から、修学旅行先で葵と彼がこういうトラブルに巻き込まれることは簡単に予測できていた。
だから葵に赤ん坊の頃の浄化モドキを思い出させておいた訳だけど…。佐々木君が霊に取り憑かれて、それを葵が祓う所までは予想通りだった。だけど、これはちょっと予想外だったなぁ。
『お主、その力をどこで得た?』
『えっと…どちら様でしょうか?』
葵達は順調に京都の街を巡り、神の足跡を辿って最終的に神の棲家にまで到着していた。…そして神が生まれた地で神の眷属にされたように、異空間に引き摺り込まれていた。
葵は目の前に立つ後光がさしてる和服の女性を見て、あの神の眷属の同類かと考えているみたいだけど…葵の目の前の彼女は、神そのものだ。
『妾の質問に答える以外の発言を許した憶えはないぞ、人の子よ?』
『…!?』
不機嫌そうに手を振った彼女の動きによって、葵は地面に縫い付けられたように跪く。何が起こったのかと口を開こうとした葵は、自分の思ったことをそのまま口にできないことに驚く。
『余計な手間を取らせるな。さっさと妾の質問に答えよ』
『…力と言われても、なんのことを言っているのかわからないんですが』
質問に答えるために口を開くと、さっきまでのように声が出ないこともなく話す事ができる。…が、抽象的すぎる神の質問に葵は困惑するばかりだった。神はそんな葵にまた面倒そうな表情になってため息をつき、葵にゆっくりと近づいてくる。
『ハァ…もう良い、直接覗くことにする』
『…!?…!』
抵抗できずに跪く葵に神はゆっくりと歩み寄ってきて、葵の頭に触れようとする。構図で言えば葵が零君に憑いていた霊に頭を覗かれそうになっていたのと同じ状況だが、今回それをどうにかするのは葵ではなく僕の方だ。…まぁ前回もほとんど僕が動いてたけども。
ともかく、葵の頭の中を覗こうと触れてきた手から神の意識を僕の精神世界に引き摺り込む。時間感覚の延長と周囲との隔離はこの神がやってくれていたから、僕は葵の意識を落として神を引き摺り込むだけでよかった。
「…?…なんだこれは?」
「ようこそ、道化の神」
僕の精神世界に引き摺り込まれた神は困惑しながら周囲を眺めていたけど、僕の声に反応してこちらに向き直る。精神体になってなお無駄に後光を背負っているその女性は、苛立ったようにしながら口を開く。
「道化?この妾に向かって道化と言ったのか…?」
「…玩具箱の中で神と言われているだけのあんたには、道化の名前がお似合いだよ」
「小娘が吠えるではないか…!」
僕の煽り文句に一瞬で頭を沸騰させた神は何かをしようと手を振りかざすが、すぐに怒りに染まっていた表情を驚きの表情に変えて動きを止める。それから自分の両手を見つめて黙り込む。
「なんだ…?貴様妾に一体何をした?」
「別に何もしてないよ。ただここはあんたが神でいられるようなルールはないってだけ」
この神が神でいられた理由はただ一つ。仮想体として神の役割を与えられていたからだ。神としての力が付与されている肉体から完全に意識だけを切り離してしまえば、彼女はただの偉そうな自称神だ。
「どういうことだ…?」
「…ま、とりあえずオハナシしようか」
そう言った僕に、自称神さんは理解できない恐ろしいものを見るような目を向けてきていたのだった。
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