修学旅行1日目:自由行動開始
駅から京都の街並みを見ながら移動して、すぐに宿泊予定のホテルに到着した。既に届いていた荷物をそれぞれ割り振られた部屋に運び込み、ホテルの前に再度集合する。
「…それでは皆さん、京都の街を楽しんでくださいね」
「「「はーい」」」
ホテルの方に挨拶して、先生から色々と注意事項を伝えられてから各班に分かれて自由行動が始まった。
「よっしゃ行こうぜ!」
「ケン、そんなに急いでたら一日持たないよ?」
いつにも増して元気なケンが先導して始めの目的地に向かい始める。僕らの班はこの京都にいる神様に関係する建物を順に巡って行って、最終的に神様の住む神社に向かう予定になっていた。
「初めはここから歩いて十分ぐらいの神社だったよね?」
「うん。そこが京都の神様が生まれた土地なんだって」
「何があるのか楽しみだね!葵君!」
事前に予定を書き込んでおいたしおりをめくりながら隣を歩く流奈ちゃんと話しながら道を進む。流奈ちゃんに言ったように、京都の神様はこの土地で生まれて神様として崇められるようになっていった。僕たちはこの自由行動で神様の足跡を辿ることをテーマにしていた。
「ハァ、ハァ…」
「…佐々木君、大丈夫?」
ふと後ろから荒い息遣いが聞こえてきて振り返ると、佐々木君が軽く汗ばみながら僕らと少し距離をとって歩いていた。他の皆が気づかないように歩くペースを落として佐々木君の隣に行って声をかけると、佐々木君はハッとしたようにこちらを見て口を開く。
「…双葉君?」
「え?そうだけど、大丈夫?もしかして体調あんまり良くない?」
「い、いや!大丈夫!う、運動不足かな?あはは…」
「…そう?本当に体調悪かったらちゃんと言ってね?」
「うん、ありがとう双葉君…」
佐々木君は僕と話しているうちに息も落ち着いていった様子で、運動不足にしてもなんだか不自然な様子だったけど…。
本人が大丈夫だと言っている以上無理に聞くことでもないのかな?
「おーい!二人とも置いてっちまうぞ?」
「桂が急ぎすぎなのよ!」
ケンの声に前を見ると、既に他のみんなと少し離れてしまっていた。流奈ちゃんに叱られているケンに「ごめん!すぐ行くよ!」とだけ返事をして、隣の佐々木君の様子を確認しながら早歩きで班のみんなの所に合流する。
「葵君、佐々木君、置いていっちゃっててごめんね?桂がどんどん行っちゃうから気づかなかったの」
「こっちこそごめんね、佐々木君と話しながら景色見てたら遅れちゃった」
「ご、ごめん皆…」
「二人は謝らなくていいんだよ!桂が勝手なことしなければ良かったんだから!」
「ハハハ!ごめんな二人とも!」
流奈ちゃんに嗜められてもあんまり反省した様子のないケンに呆れながら皆で京都の街を進んでいく。佐々木君もさっき様子がおかしかったのが嘘のように普通にしていて、みんなで風景を見て雑談しながら歩く。
「やっぱり綺麗な街だよね!なんだか街全体が神性的な感じがするわ」
「西園そんなのわかんのか?」
「そんな感じがするってだけよ!…葵君はどう思う?」
「僕?う〜ん…綺麗な街だなとは思うんだけど、なんだか胸がザワザワするような感じがして落ちつかないんだよね」
「え?!葵君ってもしかして霊感あるの?」
流奈ちゃんに正直な感覚を伝えると、その言葉に早乙女さんが驚いたように聞いてくる。別に記憶を辿ってみてもそんな幽霊みたいなモノに会った記憶はないし、特別そんな感覚が優れているわけでもないんだけど…。
「いや?霊感とかはないんだけど…なんでかわかんないんだけど、そういう感覚があるんだよね」
「ふ〜ん?そういえば葵君って…きゃっ!」
そうして早乙女さんが僕に何かを聞こうとした時、急に強い向かい風が吹く。他の皆が手で髪を押さえたり目をつぶっている中で、僕は咄嗟に顔を後ろに向ける。
「…!」
振り返った先には佐々木君の顔があった。いつもは長い前髪で見えないはずの瞳が、風で前髪が上がって見えるようになっていた佐々木君の顔はケンが言っていたように綺麗な顔をしていた。…ただその瞳は、綺麗な水に墨を垂らしたように濁っていた。
「あっ…!」
一瞬佐々木君の瞳に見入ってしまっていたけど、佐々木君が持っていたらしいしおりが風に飛ばされていることに気がついて声を上げる。すぐに周りの状況を確認して、偶然周囲にあまり人がいなかったのでしおりに向かって全力で駆け出そうとする。
「葵君?あ…えいっ!」
今にも地面を蹴って飛び出そうとした時に、隣にいた流奈ちゃんが声をあげてしおりが空中で不自然に動きを止める。しおりはそのまま僕らの方に戻ってきて流奈ちゃんの手の中に収まる。
「届いて良かったぁ」
「…流奈ちゃんの『テレキネシス』、久々に見たけど距離伸びてるね!すごいよ!」
「えへへ、ちょっと練習してたんだ。それで、これって葵君の?」
「いや、多分佐々木君の…佐々木君?」
流奈ちゃんからしおりを受け取りながら佐々木君の方を見ると、既に瞳は前髪で隠れていたけど…さっき僕が見た体勢のまま身動きをとっていなかった。
「佐々木君、大丈夫?」
「…双葉君か、大丈夫。ありがとうね」
「え…?う、うん。とってくれたのは流奈ちゃんだけどね」
「そっか、西園さんもありがとう」
「え?えぇ…」
僕と流奈ちゃんは思わず顔を見合わせる。それは、班決めの時からずっとぎこちない感じで受け答えしていた佐々木君が急に自然に話し始めたからだった。
それに加えて…この京都に来てから感じていた不思議なゾワゾワするような感覚が、佐々木君からもするようになっていた。
Twitterでも言ったのですが、熾天使さんの総合PVが30万件を超えました!
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作者プロフィールにあるTwitterから次話投稿したタイミングでツイートしているので気が向いたらどうぞ…




