修学旅行1日目:朝
修学旅行編スタートです!ちょっとお試しで昼間に投稿してみました!
アラームの音で目が覚める。周りを見渡すと先程までの空間ではなく、見慣れた凛月の部屋だった。隣を見れば凛月が静かに寝息を立てていて、あの空間の出来事が夢だったことを理解する。
「…」
とはいえ、あの不思議な空間で体験した記憶は今でもはっきりと思い出せる。あの天使さんが僕に何を伝えたいのかはわからなかったけど、なぜか僕にはあの天使さんが嘘を言っているようには思えなかった。
…とにかく、夢でも夢じゃなくても悪いことになりそうな感じではなかったし大丈夫か。
そう思考に区切りをつけて、凛月を起こさないようにベッドから起き上がる。凛月が起きていないのを確認して、頭を撫でてから部屋を出る。
「あら葵、おはよう。よく眠れた?」
「お母さんおはよう。ちゃんと眠れたよ」
「なら良かったわ。それじゃあ早く準備しちゃいなさい?」
朝早くから朝食の準備をしていた様子のお母さんと短く会話を交わしてから準備を始める。いつも学校に行く時のように顔を洗い髪を整えて、荷物にしていない服の中から今日の服を選んで着替える。
「葵〜、ご飯できてるわよ〜」
「はーい、今いくよ〜」
お母さんに返事をしてすでに料理の並んだ食卓に向かう。料理器具の片付けをしているお母さんと会話を交わしながら料理を食べて時間を確認すると、まだ時間には余裕があった。
昨日用意しておいた荷物を玄関先に移動しておいて残りの時間を本を読みながら過ごす。目線は本の文字を追っていても、僕の思考は夢でみたことに向かっていた。
なぜか懐かしさを覚えるあの不思議な空間と、あの無機質に見えて優しい雰囲気の天使さん。そして、僕が物心つく前にできていた今は忘れてしまっていること。僕が物心つく前に起きたことで思い当たることなんて、蒼が家族になったことぐらいか…。
そういえば、今まで気にしたことはなかったけど仮想体の蒼はどうやって僕達の家族になったんだろう?いるのが当たり前すぎて考えたことがなかったけど、一度気になり始めると止まらなくなってしまい本を閉じてキッチンにいるお母さんのところへ向かう。凛月やお父さんのご飯の用意を始めているお母さんの邪魔にならないように声をかける。
「ねぇお母さん、ちょっと聞きたいことがあるんだけどいいかな?」
「どうしたの?」
「蒼って僕が生まれたあたりでうちに来たみたいだけど、蒼はどうやって僕らの家族になったの?」
「…」
僕の問いかけに、お母さんは動かしていた手を一瞬止めて考え込むようにする。でもすぐにやわらかい笑みを浮かべて僕に向き直り口を開く。
「そうね、確かに教えたことはなかったわね。あのね、蒼が家族になったのは葵のおかげなのよ?」
「…僕の?」
「ええ。蒼を葵が助けてあげて、蒼も葵も家族になりたがったから蒼はうちに来たのよ」
蒼を、僕が…?生まれたばかりの物心もついてない僕が蒼を助けた?あの仮想体頻出地帯にいた仮想体なんかよりよっぽど強い蒼を赤ん坊だった僕が助けるなんてことがあるのか?
「それって何があったの?」
「それはね…あら?葵、時間は大丈夫?」
そう言われて時計を確認すると、もう予定していた家を出る時間だった。蒼のことを聞きたい気持ちはあったけど、それで修学旅行に遅れてしまっては元も子もない。
「ふふふ、蒼のことは修学旅行が終わってからゆっくり話しましょうか?」
「うん!約束だよ」
「えぇ。さ、修学旅行楽しんでいってらっしゃい!」
「行ってきます!」
お母さんにそう言って玄関に行って靴を履く。荷物を持って家を出ようとしたところに、眠そうな目をした蒼と凛月が出てくる。
「にーさん、もういっちゃうの?」
「わう!」
家を出る前にふたりを抱きしめて頭を撫でて声をかける。
「うん、行ってくるね。蒼も僕がいない間よろしくね、帰ってきたら蒼のこといっぱい教えてもらうから」
「…行ってらっしゃい!」「わうっ!」
二人に見送られながら僕は家を出る。いつもより荷物は多いけど、師匠のところの訓練で鍛えた体ではこんなの楽な方だ。それにいつもよりもなんだか足取りも軽い気がする。予報通り晴れた空の下を歩きながら、僕は期待と不安を胸に学校へ向かって歩き出した。
…そういえばあの天使さん、なんて名前なんだろ?
そろそろ葵が何を忘れているのかバレちゃってそうですね
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作者プロフィールにあるTwitterから次話投稿したタイミングでツイートしているので気が向いたらどうぞ…




