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熾天使さんは傍観者  作者: 位名月
断章:セラス、異世界に立つ

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人か熾天使か

新しい章の始まり〜。久々のセラス視点ですよ〜。

 街中の商店街で和菓子屋を発見した僕は、思わず中に突撃していって大好物を見つけてしまった。


 「すいません、みたらし団子ひとつください」


 「はい、ひとつ150円です」


 「はーい」


 ナノマシンを操作して電子決済でみたらし団子を購入する。葵のお小遣いを少し拝借して株取引で増やしておいて良かった…!うわぁ〜!みたらし団子を食べるのも大体50億年ぶりだなぁ!前世(?)だと一番好きな食べ物だったんだよなぁ!


 「蒼、お待たせ〜」


 「クゥ…」


 入り口でお利口に待っていた蒼を撫で回してから、どこで食べようかと周囲を見渡すとすぐ近くにベンチを発見する。


 和菓子屋さんの入り口横に設置されていたベンチに座ってみたらし団子を取り出して口に頬張る。すると、口の中いっぱいにお団子の弾力と優しい甘さと控えめなしょっぱさが広がっていく。


 「ん〜!おいし〜!」


 このお店はかなり当たりだな!また暇があったら来ようかな。僕が小さい口でみたらし団子を頬張っていると、なぜか数人吸い寄せられるように僕が先程出てきた和菓子屋に入っていったけど僕は気にしない。僕は串に刺さった最後のひとつを食べ終わると、蒼のリードを握る。


 「よーし蒼、行こうか?」


 「アゥ!」


 小さく鳴いて頷く蒼と一緒に、マップアプリで目的地を設定して歩き出す。目的地は対仮想。一条先生のところで新しく創った僕の体の性能テストをしたいからだ。



 …さて、なぜ葵の裏人格である僕がこんなに自由に歩き回っているかと言う話をしようか。



 話は数日前に遡り、視点も少し切り替わる…。


 いつものように葵を見守りながら本を読んでいた時のことだ。視界の端に一条先生からもらった僕の個人証明ができる権限付きカードが目に入って、ふと思った。


 …これ、僕だけで動くことも出来るんじゃないか?


 現実から物を持ってこれるということは、その逆もまた可能だということじゃないか?思いついてしまえば、僕のスペックなら実現は容易だった。


 僕の精神世界の中で僕のカタチと機能を真似たコピーを創造(サクセイ)して、僕の意識が移れるような端末として設定しておく。そこまで何かしたいわけでもないから能力は脳の処理能力と身体能力のみを特化して、この世界と馴染ませるためにちょっとした『異能』も付与しておいた。


 そこまでいけば後は他人の目がない時に葵の外に出して隠しておけば、好きな時に葵の裏人格であるセラスとしてではなく、独立したセラスとして活動出来るはずだ。


 意識を分割してコピーに宿らせたから、情報の共有も感覚の共有も出来るし、いざという時は葵の中から完全に出てコピーに宿ることで短時間なら熾天使の能力を十分に発揮できる計算だ。


 夏休み中の両親が出かけている隙に葵と入れ替わり、僕の精神世界で創造(サクセイ)したコピーを引っ張り出す。


 「おぉ…!完璧…ではないんだよなぁ」


 目の前に立った僕の分身は、本来男の体にしてあげるはずだったんだけど…しっかりと女の体をしていた。葵の体を使っている僕は少しだけ葵っぽさが残っているから、若干中性的な印象を覚えるような見た目なのに…目の前の僕のコピーは完全に葵っぽさを無くした、熾天使の時の僕の見た目をそのまま10歳にしたような完璧な女の子の見た目をしていた。


 「はぁ…なんであのク◯神は無駄なところで手が込んでるかなぁ…?」


 一度僕の前世…というか生前の姿を再現して精神を宿らせようとしたら弾かれてしまったというわけだ。ということで、しぶしぶ熾天使の頃の姿を元にコピーを創造(サクセイ)したというわけだ。



 と、ここまでが葵の体にいる方の()の思考だったわけだけど…。


 「はぁ…全く、変な趣味の上司を持つと大変だよ…蒼もわかってくれる?」


 「クゥ〜ン…」


 歩きながら独り言のように蒼に話しかけると、困ったように眉を寄せながら小さく鳴き声をあげる蒼。そうだよね、蒼もそう思うよね?


 あ、なんで蒼がここにいるのかって話をしておくと、葵の方の僕にチョチョッと認識阻害をしてもらってからこっちに送ってもらっただけの話だよ。


 リードも葵や両親がつけようとすると嫌がるんだけど、僕が創造(サクセイ)してつけてあげるとおとなしくしてるんだよなぁ。ちゃんと言うこと聞かないとめっ!だぞ?


 「クゥ〜ン…」


 顔をわしゃわしゃしながら見つめ合っても、蒼は相変わらず情けなく鳴き声をあげてされるがままにされる。


 …と、ふとさっきの和菓子屋で買ったみたらし団子のゴミが目に入る。これから対仮想に行くのにずっと持ってるのは邪魔だなぁ…。あ、そうだ。()にもらった『異能』を試してみようかな。


 周囲を確認して、周りの目がこちらを向いていないことを確認しながら袋に入ったゴミに手のひらを向ける。そして、エネルギー…この世界で言う異能力や気力を操作して…。


 「〈破壊〉」


 異能力を込めた手でゴミをそっとなぞると、触れた先から一瞬で目視が困難なレベルの大きさの粒子に分解されて風に乗ってサラサラと流されて行く。


 「よし!うまくいった!」


 「キュ〜ン…」


 今の僕はこの『破壊』の異能と、身体能力に処理能力ぐらいしかないけど、なんとかなりそうだな!


 …相変わらず蒼が情けない声を出しているのは、可愛いしもう気にしないことにした。


セラスが女の子の体から逃げられるわけないじゃんか。だって僕の趣味なんだから。


閲覧、ブックマーク、評価やいいねして頂けた方、誠にありがとうございます。

感想も励みになっています。誤字報告も助かります。


作者プロフィールにあるTwitterから次話投稿したタイミングでツイートしているので気が向いたらどうぞ…

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― 新着の感想 ―
[良い点] 物語がシンプルだから王道におもろい。 [一言] セラスが女の子の体から逃げられるわけないじゃんか。だって僕の趣味なんだから。 いいぞ、もっと癖出してけー。
[良い点] 蒼は強いからこそ可哀そうなことになってる。 適当に異能を付与するなんてもうやってることが神の側…… [一言] > 「はぁ…全く、変な趣味の上司を持つと大変だよ…蒼もわかってくれる?」 > …
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