仮想体との初戦闘
師匠の声で浮き足立った心が一瞬で静まる。師匠の視線の先を追っていくと、上空に影を見つける。眩しさを堪えてよく見れば、鷹をそのまま大きくしたような仮想体が一条家の方々が乗る車とその周囲の僕らを狙い定めるように上空を旋回しながらこちらを見ていた。
「こちら守宮、飛行型の仮想体を発見。対処に当たる」
師匠が他の護衛さん達に連絡する声を聞きながら、あの仮想体とどう戦えば良いのか思考を巡らせる。
あんな上空を飛ばれてたら流石に戦いづらい…けど、どうやって地面まで引き摺り下ろすか。おびき寄せる?どうやって?…僕の手札じゃ難しいな。それじゃあ空で戦う?…あいつがどれぐらいの強さかもわからないのに慣れてない対空戦なんてできるのか?
「葵、どうする?お前がやるか?」
僕が迷っている間にも師匠は大鎌を構えて戦闘準備を終わらせて僕に声をかけてきていた。…どうなるかわかんないけど、この機会を逃したら次があるとは限らない。
「やります!」
気づけばその言葉は僕の口から飛び出ていた。僕の言葉を聞いて、師匠は僕の背中を叩いて押し出してくれる。
「フゥー…」
大きく息をはいて前に出ながら、指輪に異能力を込めていく。出現した大鎌を握りしめて上空を飛ぶ鷹に目を向けると、鷹は僕が見ているのに気づいたのかこちらを警戒するように飛ぶ軌道を変えていた。…そうだ、あれなら試す価値ありじゃないか?よし!行くか!
「…ふっ!」
「…!」
森に入ってからかけっぱなしにしていた身体強化をさらに強めて、上空でこちらを見下ろしている鷹に向かって跳躍する。鷹もこちらに気づいて、僕が跳んでくる軌道を避けるように旋回する…けど、そこなら届く!
「ハッ!」
「クエェッ!?」
大鎌を握っていない空いた手から、青い炎を噴射して強引に軌道を変える。推進力を出すほどの炎をそのまま出すと流石に燃費が悪いけど、幸いこれぐらいなら問題ないぐらいの異能力量には恵まれている。…両親に感謝。
鷹は僕の空中での軌道変化に完全に不意を突かれたみたいで、腹を見せつけるような体制のままで固まっている。炎を噴射していた手も大鎌に戻して、ガラ空きになっている腹目掛けて大鎌を振り抜く。
「クァア!!!」
「…あれ?」
振り抜いた大鎌から帰って来る感触はシミュレーションで感じていたものよりも軽かった。流石に空中だから浅かったのかな?と鷹を見ると、力を失って血を流しながら地面に向かって落下していっていた。
「あれ〜?」
おかしいな…もっと難しいと思ってたのに。と、そんなことを考えていると僕の体も重力に従って地面に向かって落下し始めていた。落下地点を確認すると、既に師匠が先回りして待っているのが見える。…あ〜、どうしよう。このままだと木に直撃する軌道だな。
「葵〜!受け止めてやろうか〜?」
落下しながらぼんやりと考えていると師匠が僕に向かって声を上げる。どうしようかな、別にそれでも良いんだけど…あ、さっきのあれで良いじゃん。
「大丈夫です!ほっ!」
師匠に返事をしながら空中で体勢を整えて、大鎌を分解しながら空いた手から炎を噴射させる…と、体が回転し出す。あ〜…さっきは噴射の勢いのまま鷹を切りつけちゃったからわかんなかったけど、そりゃこうなるか。
でもまぁ、周りが見えないほど回ってるわけじゃないし行けるか。
「ふっ!」
「お〜お見事」
強化した身体能力で無理やり回転しながら地面に着地すると、近くで師匠が気の抜けた声を上げながらぱちぱちと拍手していた。とりあえず師匠を無視して近くに落ちたであろう鷹を探す。
少し周囲を見渡せばすぐに鷹は見つかった。近づいて確認すれば、呼吸も止まっていて確実に死んでいることがわかる。…手応えは軽かったんだけどなぁ、まぁ実際はこんなものなのかな。
粒子になって行く鷹を見ていると、師匠が近づいて来る。
「どうだった?初めて仮想体と戦ってみて」
「…正直、シミュレーションとそんなに変わらなかったですね」
「そうか?…まぁそこまで強い個体じゃなかったしな。とりあえず行くか」
「わかりました」
師匠は鹿モドキの時のように報告を済ませて順路に戻って行く。鷹に対処した後は僕と師匠のところには仮想体が出現せず、他の護衛さんが仮想体の対処をした報告だけ聞きながら仮想体頻出地帯を抜けたのだった。
…やっぱり鷹と戦えてよかったぁ。
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作者プロフィールにあるTwitterから次話投稿したタイミングでツイートしているので気が向いたらどうぞ…




