限界と現界
今回はセラス視点です。次からまた葵視点です。
僕は葵が対峙した事態を24億年前に書庫に加えた本を片手に見守っていたけど、葵の限界を悟って…見切りをつけて呟く。
「やっぱり、ここらへんが限界か」
『…え?』
おっと…葵に聞こえないようにするのを忘れてた。僕の呟きに反応して敵への警戒を一瞬緩めた葵を熟練の殺人者が見逃すはずもなく、一瞬で背後に回られている。
敵のダガーが葵に到達する前に、葵が意識を失うのを確認しながら僕が葵に変わって表に出ていく。
「〈障壁〉」
「…!?」
はじめに葵の首筋にダガーを突き立てようとした時と全く同じ動作で突き出されたダガーを障壁で防ぐ。黒装束の男は、自分の手に帰ってきた感覚と僕の外見の変化に動揺して動きを止める。
さて、もし師匠さんが後から来ちゃって僕の姿を見られたら流石に困るから対策はしないとな。
「〈絶縁結界〉」
葵が張った炎の壁に手を加えて、中庭の僕と黒装束のいる部分だけを何の影響も受けない断絶された空間に設定する。先ほどまで壁のように中庭を分割していた炎は一瞬で僕と黒装束を囲むドームのように大きくなり、全てが外と断絶された空間に一変する。
「君は一体、どこまで隠し球があるんだ…?」
「…別に、あなたが本気で僕を殺す気がなかったら、師匠がこの場に間に合っていたら、僕が出なくてもよかったんですけどね」
「なるほど、虎の尾を踏んでしまった訳か…でもどうするんだい?自分の逃げ場までなくしてしまって、結局僕と二人きりの状況は変わっていないけれど?」
「…そんなことを言っている割に、仕掛けてこないんですね」
黒装束は僕が出てから、障壁を避けてダガーを突き立てれば僕を殺せる場所に立っているにも関わらず僕に手を出せないでいた。黒装束も僕に言われて初めて自分が攻撃をしていないことに気付いたようで、戸惑いながら距離をとってくる。
「…そうだね、正直に言って今の君は私には計り知れない」
そう言った黒装束の少しだけ見えている肌には、汗が一筋流れ落ちていた。僕との力の差が、まさしく天と地ほどあるのがある程度実力がある故に気づいてしまったんだろうな。
…さてと、これからどうするか?葵を死なせるわけにはいかないから出てきたはいいけど、僕がこいつを処分すると流石に不自然なんだよなぁ。今の葵の実力じゃあ百回やって一回も勝てない相手だし。なんてことを考えていると、黒装束が何か仕掛けようと異能力を動かし始めていた。
「…はぁ、とりあえず〈動くな〉」
「…!?…!」
「うん?あぁ、〈息はして良い〉し〈話しても良い〉ですよ」
「グッ…何なんだ一体…!」
適当に縛りすぎて余計なものまで縛ってしまった。さて、動きも封じたことだしオハナシしようか?さっき黒装束に距離を取られた分、僕の方から近づいて行く。
「…ッ!…ッ!ハァ、ここまでか…」
「そう悲観しなくても良いですよ、別に僕はあなたを殺すつもりはないですから。…ただ、ちょっとお話したいだけですよ」
「…一体、こんな状況で私に何を聞きたいのかな?」
「あぁ、お話と言っても別に答えてもらわなくて良いんですよ。勝手に教えてもらうので」
「…?」
困惑した様子の黒装束を無視して少し浮き上がって男に近づくと、その深く被っているフードを外す。出てきた顔は思いの外綺麗な顔の20代後半ぐらいの男だった。僕はフードを外した手でそのまま男の両目を覆い隠す。
「…なんだ?君は何がしたいんだ?」
「気にしないで良いですよ」
困惑する男に適当に返事をしながら輪を出して男の脳内を確認していく。目的、動機、共犯者、実行方法、逃走手段と、それらしい情報を適当に抜き出して行く。
…なるほど。さて次は未来の話だ。
この男がここで死んだ場合、生かした場合、僕のことを忘れさせた場合、覚えておかせる場合…何千、何万通りの未来を確認していく。…と、そこで結界の外に気配を感じる。外の情報を拾ってみれば、葵越しによく聞いた声が聞こえてくる。
『おい!葵!居るのか?!生きてんなら返事しろ!』
結界の外では、テロリスト共を片付けた師匠達がお嬢様を見つけて保護していた。おそらくお嬢様から炎の壁の中に葵がいることを聞いたのか、師匠が何とか壁を越えようとしてきていた。
「…ふぅ、さて犯罪者さん。あなたは今から〈僕にされたことを忘れます〉。そして…」
僕の言葉を聞きながら意識を朦朧とさせている男に再度フードを被せ、距離をとってから結界を解除して意識を気絶したままの葵に戻す。体が地面に向かって倒れていく浮遊感を味わいながら、僕は精神世界に帰っていった。
もうやめて!犯罪者さんの尊厳はもうゼロよ!次回、犯罪者さん…。〇〇〇〇スタンバイ!
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作者プロフィールにあるTwitterから次話投稿したタイミングでツイートしているので気が向いたらどうぞ…




