実家が太すぎた件
初日の会場で行う予定が終了し、会場から宿泊予定のホテルへ向かうことになった。事前に師匠からもらった資料では、宿泊するホテルのホールで会食が行われる予定になっていた。会食会場には師匠と葵に深山さん、片桐さんが同行することになっていた。
一度一条家の方々をホテルの部屋まで送り届け、会食の時間まで部屋の近くの巡回をしつつ待機することになった。
『どうだ葵、初日もそろそろ折り返しだが』
『正直疲れますね。何も起こってないんですけど、常に気が抜けないので』
『ま、初めてならそんなもんだ。今のうちに少し気を休めとけ…ホレ』
『うわっと…』
師匠は話しながら自販機で買っていた飲み物を一本葵に投げ渡してくる。渡されたのは葵がよく飲んでいるジュースだった。
『ありがとうございます…ふぅ』
飲み慣れたジュースの味に少し落ち着いていると、通路の向かい側から葵のよく知る人物が歩いてくる。
『守宮、葵、久しぶりだな。今大丈夫か?』
『双葉さん!お久しぶりです。大丈夫ですよ』
遠慮がちに話しかけてきた祖父に、師匠は父に対する態度とは大違いの丁寧な態度で応える。葵はなんとも言えない感情で師匠を見ながら、自分の祖父に対して口を開く。
『おじいちゃん、どうしてここに?』
『まぁ、儂も面倒な付き合いが多くてな…葵こそなぜ一条の護衛をやっているんだ?』
『それは…』
祖父に師匠との関係を行っていなかったことを思い出し、どこから話したものかと師匠の方を見ると、師匠の方から話し始める。
『葵はオレの弟子なんです。今回近くで勉強させようかと思いまして同行させています』
『む、そうなのか。康太め…葵が守宮に弟子入りしているなら儂に一言ぐらいあってもいいものを』
『すみません、オレの方からも報告すれば良かったですね』
『いやいい、うちの孫を頼むよ』
『もちろんです。葵は強くなりますよ』
師匠と祖父がそんな会話をしている中、葵はなぜ祖父が今回の式典の貴賓席にいたのか、師匠がなぜこんな敬意を持って接しているのかわからず混乱しきっていた。
『えっと、師匠とおじいちゃんはどういう関係なの?』
『ん?あぁ、守宮は儂が対仮想にいた時の部下でな。儂がやめる前に最後に持った部下が守宮なんだよ』
『色々とお世話になりました…』
『本当にな、入ったばかりの守宮はそれはもうやんちゃな小娘でな?』
『双葉さん!弟子の前なので勘弁してください…』
珍しく手玉に取られる師匠と軽快に笑う祖父に呆気に取られる葵だったが、自分の祖父がなぜ貴賓席にいたのかという疑問を思い出す。
『そういえば、おじいちゃんが貴賓席にいたのって対仮想の時に龍災の対応をしたからなの?』
『あ〜…それはな』
『なんだ葵、お前自分の生まれも知らなかったのか?』
言い淀む祖父に師匠が驚いた表情で聞いてくる。生まれと言われても、両親から祖父母まで対仮想で結構な実力者だったということぐらいしかわかっていない葵は思い当たる節がなくポカンとしてしまう。
『生まれですか…?普通ではないかもしれないけど、一般家庭の生まれだと思うんですけど』
『…双葉さん、葵には隠してるんですか?言わないほうがいいならオレも言わないようにしますけど』
師匠の言葉に祖父はバツが悪そうな顔をしながら少し考える様子を見せる。
『…まぁここまで言ってしまったし、いずれ解ることか。もう隠す必要もないしな』
『え?何か秘密にされてたの?』
祖父の言葉に困惑する葵をよそに、祖父は師匠に言ってもいいぞというような視線を向け、それを受けた師匠も『よくわからんけど言っていいのか』ぐらいの感覚で話し始める。
『葵、お前の家は暁の中では一条家に次ぐ名家だぞ?その双葉家の現当主で龍災の英雄の双葉さんが貴賓席にいるのなんて当然のことだろうが』
『……はい?』
自分の家が名家?おじいちゃんがその当主?龍災の英雄?そんな疑問で頭の中を埋め尽くされてフリーズする葵に、祖父はゆっくりと説明を始める。
『まぁそういうことだ。康太があまり子供を家の面倒なしがらみと関わらせずに育てたいと言うから葵には隠して普通の暮らしをさせていたんだが、葵もそろそろ自分の家がどんな家なのか知ってもいいだろう。今度儂の家に来るといい』
『双葉家の屋敷も一条家に負けず劣らず見事なもんだぞ?…というか双葉さん、よく今までバレずに隠せましたね?』
『まぁ意外となんとかなるものだ』
『えぇ…?』
自分の父の実家が国内有数の名家だと知り呆然とする葵。確かに所々で家がそこそこ裕福なんだなぁという意識はあったものの、両親が仕事で成功しているからなんだと思い込んでいた。
今思えば祖父が葵の誕生日プレゼントで買おうとしていたもののスケールが大きかったのも、ただの孫バカではなくそれを気軽に変えてしまう財力があってこそだったんだろう。
『僕が、一条家の次ぐらいの名家の…?』
『あぁ、とはいえ生まれで将来を縛るつもりもない。いずれ当主にはついて貰うかも知れんが、気にせずやりたいことをやるといい』
『そうなの…?』
『康太にも好きにやらせているからな。葵のお母さんは別に名家の出ではないが、結婚を認めずに今の暮らしになっているわけではないからな?』
『そうなんだ…?』
その後もあまり話が頭に入ってきていない様子の葵に、祖父はこれ以上は護衛任務の邪魔になるからと早々に話を切り上げて去っていった。
『マジかよ、葵今まで全く気づかなかったのか?』
『???』
『葵?…だめだこりゃ』
その後も葵は現実を処理し切れず、会食の時間になって師匠に頭を引っ叩かれてようやく意識が現実に戻ってきたのだった。
一条、双葉と名家が続いてれば大体わかってきますよね。…ハイ安直ですいません。
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作者プロフィールにあるTwitterから次話投稿したタイミングでツイートしているので気が向いたらどうぞ…




