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熾天使さんは傍観者  作者: 位名月
戦闘狂の誕生

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龍災追悼式典

 『葵さんは弟さんがいらっしゃるんですね?』


 『ええ…ん?ちょっとすいません』


 お嬢様と話していると師匠から連絡が入る。自分だけ音声が聞こえるように設定しながら少しお嬢様から離れる。


 『はい葵です。どうしました?』


 『〈おう、どうだ?そっちで何か気になることはねぇか?〉』


 『大丈夫です。特に異常もないです。』


 『〈そうか、もうすぐ会場につく。車から降りたらオレもそっちに合流するから、とりあえずそっちの護衛メンバーと一緒に行動しろ〉』


 『わかりました』


 師匠から短く指示を受け取ると通話は切れる。お嬢様の元に戻ると、初めの頃よりもかなり態度もほぐれてきたお嬢様から話しかけられる。


 『どうしたんですか?』


 『すみません、師匠からの連絡でした。もうすぐ会場に到着するみたいです』


 『そうですか、大丈夫ですか?私お仕事の邪魔になってませんか?』


 心配そうな表情で聞いてくるお嬢様に、葵は笑顔で応える。


 『大丈夫です。元々私は師匠のサポートだけなので』


 そうして話しているうちに車は減速し始める。少し外の見えにくい窓から外を覗き込むと、大きなホールがすぐ近くに見える。前後に護衛の車も並んで入場の受付をして、今回の会場になるホールの入り口付近にリムジンが停車して他の護衛の方が扉を開く。


 『皆様、到着です』


 『ありがとう、式典中も頼むよ』


 扉を開けた護衛の方の案内でリムジンから出ていく一条家の3人に他の護衛の方に紛れるようについていく葵。一歩リムジンの外に出れば、そこには大勢のマスコミが並んでいた。マスコミを抑える護衛と一条家の方々の護衛に別れ、師匠と葵も含めた何人かで一条家の方々を囲むようにして会場に向かって進んでいく。


 『ご覧ください。今、一条家の3名が到着しました。あちらにいらっしゃるご息女の由奈様は、追悼式典は今年が初参加になります』


 離れた場所からアナウンサーがレポートし、カメラのアイコンが一条家の方に向けられる。そのうちの何台かのカメラは、お嬢様の方に向けられていた。お嬢様は不安そうな表情ながらも、静かに両親の後ろをついて歩いていた。


 『一条家の3名が会場へ入って行きました。それでは、三十分後の式典開始時間までこちらで待機します。三十分後にまたお会いしましょう』


 会場に入りながら、葵の耳にはアナウンサーの声がうっすらと届いていた。葵は集中して周りに意識を向けながら師匠の後をついて会場に入って行く。


 会場の中はすでに多くの人で溢れていた。席は一般向けと記者向けの席と、少し離れた場所に貴賓席が用意されていた。多くの人の視線が集まる中、師匠たちが周りを囲んでいる一条家の方々は貴賓席の最前列に向かって行く。


 『…!?』


 貴賓席に近づいて行き、既に貴賓席に座っていた人の顔を見た葵が驚愕の表情を浮かべる。席の場所で言えば一条家の席の隣に座っていた人物は、葵もよく知る人物だった。


 『む、一条の倅か。お父上はいらっしゃらないのか?』


 『双葉様!お久しぶりです。父なら今回からもう表には出ないようにすると言っていましたよ』


 『…そうか、儂もそろそろ引退するか?』


 そうして御当主と言葉を交わしていたのは、葵の祖父…つまり父の父である康蔵だった。御当主と少し言葉を交わした祖父は、護衛である師匠や葵の方に目を向けて葵と同じように驚愕の表情を浮かべる。


 『…!一条の、後で少し話す時間をくれないか?』


 『…?あぁ、構いませんよ』


 祖父の短い言葉で察したのか、短く返して席につく御当主達。葵は少し落ち着かない様子で師匠達と共に周囲の警戒に加わる。


 『葵?何かあったか?』


 『い、いえ…大丈夫です』


 葵の様子がおかしいのを気にした師匠に声をかけられ、なんとか落ち着きを取り戻して護衛に集中する葵。一条家の方々のそばで控えてしばらくすれば、会場にアナウンスが響き渡る。


 『〈会場の皆様、ただいまより龍災犠牲者の追悼式典を執り行います。初めに…〉』


 アナウンスに従って追悼式典は進んで行った。この式典は、約40年前に起こった龍災…巨大な龍が天災を伴って暁の各地を荒らし回った際の犠牲者や、戦闘での死傷者への追悼のための式典だ。


 今式典に出席している祖父は、若い頃に龍災に立ち向かった戦闘員の一人だったらしく、幼い頃に祖父の口から聞いた話ではかなりひどい戦いだったらしい。一般人も戦闘員も、数え切れないほどの犠牲が出て他国の力も借りながらなんとか納めたものの、復興には今の発達した技術を持ってしてもかなりの時間がかかったらしい。


 『〈…それでは、黙祷〉』


 アナウンスで黙祷の号令が流れると、参列者は揃って目をつぶって俯く。中には手を合わせて祈るようにしている人もいた。どうすればいいのか迷った葵は他の護衛の方達を見る。すると、護衛の方達は黙祷の形を取りながらもうっすらと目を開けて周囲の警戒をしていた。葵は、なるほど…と思い見習って黙祷の姿勢をとりながらうっすらと目を開けて周囲の警戒をする。


 その後も何事もなく式典は進んで行き、その日の日程は無事終了するのだった。


閲覧、ブックマーク、評価やいいねして頂けた方、誠にありがとうございます。

感想も励みになっています。誤字報告も助かります。


作者プロフィールにあるTwitterから次話投稿したタイミングでツイートしているので気が向いたらどうぞ…

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