仕事の顔
ちょっとやりたいことがあるので短めです
車が館を囲む塀に沿って進んでしばらくすると、警備が控える入り口につく。師匠は警備の誘導に従って車を進める。少し行ったところで車は停車し、コンコンと窓をノックされる。
『お疲れ様です、念のためお顔を確認させていただきます』
『おう、よろしく頼む』
そうして警備の方に何かスキャンされたり、じっくりと近くに表示したディスプレイと顔を見比べられた後に通行許可が出る。警備の方に要件を伝えると警備の詰所に案内される。
『家の中に道路があるなんて…すごいですねぇ』
『それを言うならお前も…いやなんでもない』
大きな敷地内を車で走りながら感動したように言う葵に、師匠は何かを言いかけて言葉を濁す。葵が不思議そうな表情で師匠の方を見ても、師匠は何もなかったような顔で運転していて葵もそれ以上気にしないことにしてまた館を見始める。
『…ん?』
館を見ていた葵の目に、ふと女の子が映る。その女の子はある窓から外を眺めていて、葵達が乗る車の方に視線を向けていた。車が進んでしまってすぐに見えなくなるが、葵にはあれが資料にあった一条家の娘に見えていた。
『葵、どうした?』
『…いえ、なんでもないです』
ルームミラー越しに葵の方を伺って来る師匠に、葵は首を振って答える。そうしているうちに、車は警備の詰所に到着する。詰所の前にはすでに葵や師匠と似た服装の護衛らしき方が待っていて、車から降りる師匠に近づいてくる。
『守宮様、お疲れ様です。今日からまたよろしくお願いします』
『お〜深山、よろしく頼むぜ』
そうして親しそうな様子で握手を交わす二人。師匠に深山と呼ばれた男性は、車から降りた葵と片桐さんに気がついて声をかけてくる。
『片桐さん、お疲れ様です。…それで、そちらが話にあった?』
『おう!オレの弟子の葵だ。まぁそこそこ使えるから、経験を積ませるためにも今回同行させることにした』
『守宮様がそう言うなら問題ないのでしょう。葵君、私が今回の警備の責任者の深山です。よろしく』
『双葉葵です。深山さん、よろしくお願いします』
『…?』
深山さんから差し出された手を取りながら名乗る葵に、深山さんは不思議そうな表情で葵の顔を見つめてくる。葵も不思議そうな表情で見つめ返していると、師匠がニヤニヤしながら口を開く。
『深山?事前に送った資料にもあったと思うが、葵は男だぞ?』
『いえっ!そうではなく…いや、すみません葵君』
『あはは…よく間違われるので』
若干気まずい空気になりながら握手していた手を離し、師匠の車から荷物を下ろし始める。師匠の大鎌を下ろしていると深山さんが不思議そうな顔で葵に聞いてくる。
『葵君の武装が見当たりませんが…葵君は徒手のスタイルですか?』
『あぁ…いえ、師匠と同じく大鎌を使います』
『ご自分の武器がないのなら貸すこともできますが?』
『問題ありません。これがあるので』
葵はそう言って自分の手につけた指輪を見せつける。指輪から大鎌を出現させて見せる。深山さんはそれを見て表情を変える。
『それは…!』
『あれ?ご存知なんですか?』
『…えぇ、以前にサンプルを触らせていただいたことがありまして。なんにせよそれがあるのなら問題なさそうですね』
葵はなんとなく一条家の護衛の方だから一条先生と関わりがあるのかなぁと思いながら準備を進めていく。深山さんと雑談しながら準備を終わらせると用意された高級車に乗り込む。
『それではこれから当主様方を向かえに行きます。みなさんも初めに一度挨拶をして頂きます』
『『『はい(おう)』』』
何台かに分けて護衛の方達と車に乗り込み本館の入り口の方へ向かう。玄関先に車を停めて外で待機していると、扉が開いて資料でも見た顔が三つ出てくる。
『おや、今回は守宮さんが護衛なのかな?』
『お久しぶりです、式典中の護衛を務めさせていただきます』
『…!?』
当主であろう男性が師匠に声をかけると、まるで訓練中のように真剣な表情で師匠は答える。今まで師匠が誰かにこんな態度をとっていた場面を見たことがない葵は、なんとか声だけは出さずにいられたものの目を見開いて師匠の方を見てしまっていた。
家でふざけまくってる家族が友達と話してる時とかびっくりしますよね
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作者プロフィールにあるTwitterから次話投稿したタイミングでツイートしているので気が向いたらどうぞ…




