お仕事見学-3
書き始める前はやる気が出てなくても、始めると止まんなくなって気づくと数時間経ってるんですよね。
『パパ!』
父を見つけた葵が声をあげるが、同僚達の前で恥ずかしいのか、父は表情は変えずにこちらに一瞬手を振るだけだった。
『葵、お仕事の邪魔はしちゃダメよ?』
母に注意された葵は、いつもとは違う父の姿に目を輝かせながらも静かになる。僕らに気づいた同僚の人たちは、ニヤニヤしながら父をからかいはじめて、すぐに父に叱られて仕事に戻っている。
父の職場での人間関係が良好なのを確認できたところで、綾香ちゃんさんから声がかかる。
『今日は大型の敵性仮想体を想定した戦闘訓練ですね。ちょうど始めるみたいですよ』
そう言われて父たちを見ると、装備を整え終わって仮想訓練室と書かれたプレートがある部屋に入っていくところだった。全員が入り終わると、中の様子が見えるように壁が透明になってアナウンスが流れる。
『仮想敵:大型猪型仮想体、脅威度:B、訓練を開始します』
アナウンスが終わると、部屋の中の様子が一気に変化する。無機質な白を基調とした内装は、森の中の開けた場所のような空間に変化する。詳しい原理は面倒だから調べないけど、多分視覚とか触覚とかに直接作用して実際にそこにいるような感覚を作っているんだろう。
景色が一変した後、出現した森の奥からゆっくりと大きな影が近づいてきていた。
『接敵、対大型陣形B!』
そう父が号令を飛ばすと、迷いない動きで近づいてきた影に対応した陣形を組む父たち。前衛と思われる人たちが異能を発動させたあたりで、影の主が姿を現す。
『ブルルゥ!』
現れたのは、体長10m、体高7mほどの牙や蹄がかなり発達している猪だった。猪は、父達の姿を確認すると猛烈な勢いで突進してくる。
『〈能力向上:部位特化〉』
とてつもない質量に任せて突進してくる猪に対峙した父は、気を下半身に集中させると、地面に触れそうなほどの前傾姿勢を取る。
『私が"浮かせる"。後衛は準備しておけ』
『ちょっと康太先輩?!』
ドンッッッッ!!!
困惑した様子の同僚さん達を置いて、父はとんでもない音を出しながら猪に向かって突進して、一瞬のうちに猪の股の間に体を滑り込ませる。
直後、部屋の外にいる僕らのところにも伝わるほどの大きな衝撃が猪の腹に叩き込まれる。
『ブゴォ!!!???』
足を180度近く開いて上に振り抜いた姿の父と、肺の中の空気を全て吐き出しながら、突進の勢いはそのままに斜め上に跳ね上げられる猪。
『ああもうっ!遠距離型、総攻撃!』
一瞬あっけに取られていた後衛の人たちも、すぐに体勢を整えて宙に浮く猪にそれぞれの異能を叩き込む。
集中砲火を浴びた猪は空中で見事に爆発して、勢いそのままに残骸が僕らの目の前の透明な壁にぶつかる。
『あの人、やっぱり張り切りすぎねぇ』
『優華先輩、張り切りすぎで片付けていいレベルじゃないと思うのですが!』
呑気に感想を言う母に元気に突っ込んでいる綾香ちゃんさん。その気持ちもわかる。今まで受け身の対応をしている父しか見てこなかったけど、守るものがなくて完全に攻めに回った父があそこまで化け物だとは思わなかった。
やはり未来の英雄の父なだけはある、と言うことなんだろうか。そして、未来の英雄くんはというと…
『ふぉぉぉぉ!パパしゅごい!』
猪の残骸が目の前に飛んできたことも気にしないで大喜びである。これは…かわいい見た目で、将来はかなりの戦闘狂かな?
そうこうしているうちに、部屋の景色が元の殺風景なものに戻って、壁も透明ではなくなって扉から父たちが出てくる。
『康太先輩…?お子さんにいいとこ見せたいからって張り切りすぎじゃないですか…?』
『ん…すまん』
出てきた父は、呆れたような同僚達に囲まれてバツが悪そうにしている。しかし、目を輝かせている葵を見て満足そうな表情を隠せていない。
『とにかく!これじゃあまともな訓練にならないので、状況を変えてやり直しますよ!』
『あぁ、すまないな。次は極力自重する』
そうして、自重する気があるのかわからない父と同僚達はまた仮想訓練室に入って行き、葵はそれをキラキラとした目で見つめていた。
Tips:パパは人類の中ではかなり強い
お仕事見学はこの話で終了です。次から検査開始です。
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作者プロフィールにあるTwitterから次話投稿したタイミングでツイートしているので気が向いたらどうぞ…。




