耐え難い欲求
あれからおもちゃ屋巡りも中断になって、仮想体を連れて家に帰ることになった。帰り道でも狼のような仮想体は、母親に抱かれた葵の近くで寄り添っておとなしく歩いていた。
『すっかり寝ちゃったわね…』
『あれほどの仮想体を撃退したんだ、無理はない』
仮想体と戯れながら帰っていた葵も、僕の力を使ったとはいえ疲れたのかすっかり眠ってしまっていた。仮想体も葵を起こさないようになのか、葵を見守りながら静かに歩いている。
しかし、まさか精神世界にいる僕の力を引き出されるとは思わなかった。僕が主動で何かするときは、精神体として外に出るか葵の力だけを使って何かすることしかできないんだけど…。
まさか表層意識として出ている間は、裏人格の力も使えるのか?
そうだとしたら、僕が表層意識として出ている時も葵の力を使えるのか?僕の力を葵の『過剰出力』で使えたら、この仕事楽どころの話じゃあないんだけど。試したいけど葵も寝てるし、周りに人も多いから今度試すかぁ。
葵が寝ている時に僕が出ても問題はないけど、葵は感覚が敏感だから力を使ったら気付きそうなんだよなぁ。
『…ひとまず問題なく帰れたな』
『えぇ、お帰りなさい』
そうこうしているうちに家に帰ってきた。両親たちは仮想体が問題を起こさずに帰ってこれたことに安心しているようだ。
『ただいま。とりあえず葵を寝かしてきたらどうだ?』
『そうですね、葵〜ベッドに行きましょうね〜』
母が葵を連れて行こうとすれば、狼も着いて行こうとする。両親と祖父母は一瞬顔を見合わせるが狼が譲らなそうな雰囲気を出しているのを見て母が口を開く。
『念の為私が着いているので、お話を進めておいてください』
『あぁ、済まないな。何かあったらすぐに呼んでくれ』
父の言葉を聞いて、母は葵を寝室に連れて行く。母が葵をベッドに寝かせると、狼もすぐ近くで丸くなって目を閉じる。母は葵の近くに椅子を置いて本を読み始めた。
……今ならいいかな?そろそろ我慢が効かないんだけど。
僕は静かに眠っている葵と精神交換する。そっと目を開いて近くで丸くなっている狼に視線を向けると、何かを敏感に感じ取った狼は耳をピンと立ててこちらを向く。
「…(じ〜)」
「……グゥ」
…もふもふ、かわいい。
母も僕らが見つめあっているのに気づいたのか、近づいてきて僕をベッドから下ろしてくれる。
「……(じ〜)」
僕が純白に青い炎が入り混じった毛並みに見惚れている中、狼はなんだかすごく気まずそうにしている。
「…キュウ」
「!」
僕の視線の圧に耐えかねたのかはわからないが、そっとお腹を見せてくる狼。
そっちがそのつもりなら、全力で撫でさせてもらうぞ…!
四つん這いで近づいてわしゃわしゃと撫でれば、さっき葵から伝わってきた優しい温かさと柔らかな毛並みの感触が返ってくる。
「…!」
もふもふ〜!かわいいなこいつ〜!
「キュゥ…」
「…ふふ」
狼は気まずそうに撫でられながらも、たまに尻尾を揺らしている。そんな僕らを見て、母は優しく微笑みながらそっと何かの端末を構えていた…。
Tips:狼さんはセラスくんちゃんの存在をなんとなく感じ取っている
前回に引き続き閲覧、ブックマークして頂けた方、誠にありがとうございます。
また、評価やいいねをつけて頂いた方も本当にありがとうございます。
総合評価Pt1000超えました!何が起きてるんですか!!わけわかんないです!!!ありがとうございます!!!!
作者プロフィールにあるTwitterから次話投稿したタイミングでツイートしているので気が向いたらどうぞ…。




