一緒に訓練‐3
師匠視点です。
軽い気持ちで始めた手合わせだった。久しぶりに人前で息が上がっているのを自覚しながらそんなことを内心で思う。
急に来た葵が自分の中にもう一人いるとか言い出して紹介されたセラスとかいう女。そいつは歩き方から立ち姿までまるでど素人だったが、オレの勘が一目見た瞬間に告げていた。
「クソ強ェ…!」
そしてオレの勘はこうして手合わせをして証明された。今もオレの全力を表情一つ変えず、息一つ乱さずにその華奢に見えるこぶし一つで受け流して見せている。
「クッ…!マジでどんな度胸してんだよ?!」
「……」
オレは今間違いなく全力を出している。…刃引きしていない鎌を、敵にしか向けない本気の得物を十代の女に殺す気で振っている。それをこのセラスとかいうガキは平気な顔して素手で捌いて来やがる…!
くそっ…!心が乱れてんな…!いつもみてぇに冷静に頭が回んねぇ!まるで、まるで先生に…双葉さんに稽古をつけてもらってるみてぇだ…!
「……異能は?」
「ッ!?」
目の前のガキの言葉が耳に入った次の瞬間、オレの体を浮遊感が襲う。
…は?食らった?モロに?
「お、やればできるじゃん」
何を言って…とそう考えた時に気づく。ぶっ飛ばされている割に体にそこまでのダメージを負っていないということに。体勢を立て直して着地し、自分の体を確かめて驚く。いつの間にか鎖が…オレの異能がオレの腹に巻き付いていた。
「何が…」
思わずそう言ったオレにガキはうっすらと口角をあげて歩いて近づいてくる。
「やっぱりそうだね」
「は?何言って…」
「ごちゃごちゃ考え過ぎなんだよ。合ってない」
ゆっくりとオレに歩み寄りながら、ガキは話し続ける。オレの疑問に答えるというより、ただただ自分の考えを述べるだけのように。
「ちまちま頭を回すやり方が通用するのは同格か格下だけだ。守宮蓮香、君の相手は格上だ。使えるものはなんでも使え。死ぬ気で喰らいついて来い」
「…!」
そうだ、こいつの言った通りだ。何をしてんだオレは…!
一度目は舐めて油断して訓練用の鎌をへし折られた。二度目は警告されてようやくたまたま防御できたが腹にイイのをもらっちまってる。それに余裕のないオレに比べてこのガキは…セラスは余裕たっぷりだ。実戦なら何度殺されたかわからない。
「フゥーー…」
一つ大きく息を吐いて頭を切り替える。やりたいことを、やりたいように。思いっきりやろう…あの頃みたいに。一度思い切り肩の力を抜いて、改めてセラスに向き直る。
「…ふふっ。イイね、イイ顔になった」
さっきまでより明らかに鮮明に見える視界で笑うセラスが何か言っているのを聞き流しながら、自然とオレの口角も上がっているのを自覚する。
「ここまでやったんだ。僕もとことん付き合ってやるよ。だからよォ…」
これから先これ以上の相手と手合わせ出来る機会なんて二度とこないかもしれない。そう、これはオレにとってまたとないチャンスだ。だから…
「「楽しもうぜ!!」」
セラスさん「生前に部活やってた時のメンタルを再現してみました」




