一緒に訓練-2
お久しぶりです
どうしてこうなったのでしょう…今日は葵さんが我が家に修学旅行のお土産を渡しに来てくださって、とても楽しい一日になるはずでしたのに…。
「……」「……はぁ」
あわよくば二人っきりでお話なんかして仲を深めるチャンスと思っていたのですが…現実はどうでしょう?私は今黙って見つめあうお二人のことを傍から見つめることしかできません。
「…っ!」「…はぁ」
私にはわからないやり取りの後、お二人…守宮様とセラス様は私の目では追うことのできない速度で何度目なのかわからない衝突を始めてしまいます。離れた位置に立っていてもたまに届く衝撃と殺気で今にも意識を失ってしまいそうです。
「…どうしてこうなったのでしょう?」
セラス様の癖が移ったのかため息をつきながら私の口からそんな言葉が漏れ出てしまうのと同時に、私の意識は衝撃を感じながら遠のいていくのでした。
あぁ…お稽古が始まる前に戻りたいです…。
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着替えを済ませた一同が道場に戻り、僕は早速守宮さんと由奈さんにすごく雑に紹介されて表に引っ張り出されていた。
「ほぉ~ん?こいつがねぇ…異能の副産物みてぇなモンか?」
「ほ、ほんとうに葵さんが女性に…」
葵め…詳しい説明をするっていうからこの二人にも紹介していいって言ったのに。結局僕に丸投げじゃないか。
「…はぁ」
「ふぅん?お前、葵よりデキそうじゃねぇか。いっちょ試してやっから武器取れ武器」
「守宮様!?」
ほんでこの葵のお師匠さんはどんな野生の勘なんだ?別にらしい立ち振る舞いはあえてしていなかったんだけど…まぁでも
「…後で。二人には毒」
「ほぉ…よぅしわかった!さっさと葵と変われ!訓練始めんぞ!」
「何がですか?!何がわかって何が始まるんですか!?」
師匠には伝わったけど、お嬢様には伝わらなかったらしく一人あたふたしていらっしゃる。まぁ僕がフォローしてあげる義理もないのでさっさと葵と変わってしまおう。
『あの、セラスさん?師匠?僕にもちょっと理解できないんですが?』
戻った葵も困ったように僕と師匠にそう聞いてくるが、僕らが葵とお嬢様にやってもらいたいことなんて実に単純だ。
『あ?そんなん決まってんだろ?』「別に大したことじゃないよ」
直接話したのは今日がはじめてだけど、このお師匠さんが言いそうなことは想像に難くない。あえて口調を真似して内側から同時に言葉を放つ。
『「ブっ倒れるまで訓練すればイイんだよ」』
葵の目に映る師匠の眼光は爛爛と輝いて二人を見つめていて、二人の血の気がみるみる引いていくのを葵の中からでも明確に感じ取れた。
…さて、元気いっぱいの三人が訓練を始めたのを尻目にさっきのお師匠さんとのやりとりを思い返してみる。といっても大したやり取りはしていないんだけど。
多分彼女はよくわからん勘で僕が葵よりは強いことは察して実際に手合わせをして確かめようとしたんだろうけど、僕と本気の彼女がやりあうところを今の二人に見せても毒になるだけだ。「やるなら二人が見ていないところで」そう伝えたところ元気いっぱいに二人の訓練を始めようとしたので、僕は「あぁこいつ二人が気絶するまでやるつもりだ」と察したのであった。はいおしまい。
『しまっ…!がっ』『葵さんっ!』
あ、お嬢様をかばった葵が落ちた。2分持たなかったか?
『オイ!こっちのお嬢様は見てもわからんしどうせもう限界だ!もういいんじゃねぇか?』
…まぁ事実だろうけど別に本人の前で言うことねぇんじゃねぇかなぁ?
そんなことを思いながら僕は意識を失っている葵と変わって出る。
「お!よしちゃんと変わってんな!じゃ始めんぞ!なに使うんだ?」
さっきまで二人相手に訓練していたとは思えない元気な様子でまくし立ててくるお師匠さんを一旦放置して膝から崩れ落ちて息を荒げているお嬢様に目線だけ向けて口を開く。
「…離れておいて」
「は、はい…」
よたよたと僕らから離れていくお嬢様を待って…よし、これぐらい離れたら僕が気を遣ってあげれば大丈夫だな。
「もういいか?で、なに使うんだ?オレはもう準備できてっけど」
「はぁ…本気の得物じゃなくていいの?」
「あ?何言って…」
話し切らないうちに軽く踏み込んで懐に入り、反応できるギリギリの速度で軽い掌底を打ち込む。
「なっ?!」
数メートル押し出された彼女は、僕の考え通り反応できていたようで訓練用の鎌での防御が間に合っていた。だが…
「マジかよ…ワリィな、準備できてねぇのはオレの方だった。ちっと待ってろ」
僕の掌底を受けた鎌は柄が真ん中のあたりでぽっきりと折れていた。彼女は折れた鎌を道場の隅に置いて、代わりに丁寧にしまってあった得物を持ち出してくる。
無骨ながら一目で業物だと理解できる鎌を改めて構えた彼女は空気を一変させて、その鎌の刃のような鋭い目つきと殺気で僕を見てくる。
「始めましょう」
「……はぁ」
すごく改まった雰囲気のところ申し訳ないが…僕にとって、もうこれはつまらない消化試合だ。油断があったとはいえ、さっきの攻防で彼女の限界は測れた。それでも…
「いいよ、好きに来なよ」
それでも、葵の師匠である彼女が僕と本気でやりたがっている。それだけで彼女の相手をする理由には十分だ。それに彼女を少しでも強くしておいて損はしない。彼女が満足するまで付き合ってあげよう。
「…ッ!」
短く息を吐きながら本気で斬撃と打撃を織り交ぜて攻め立ててくる彼女を尻目に、僕はそんなことを考えていた。
…あ、お嬢様が余波で気絶しそう。




