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熾天使さんは傍観者  作者: 位名月
ふたりの異能

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構成力

お久しぶりです。更新遅くなっていて申し訳ないです。

視点がコロコロ変わりますが、セラス視点です。

 さて、僕は少々困っていた。


 何をと言えば、葵にどうやって僕の…というか天使の力の使い方を教えるかということだ。僕ら天使は、神に力を与えられたことで世界を構成する最小単位のようなモノを直接認識して干渉する力が備わっている。


 その世界を構成する最小単位、僕らは構成力と呼ぶ物。天使が無尽蔵に活動できるのは、この構成力を体内で循環させることでエネルギーを生み出せる機構が備わっているからだったりするんだけど…まぁ今はあんまり関係ない。


 問題なのは、構成力に干渉するために神から与えられたモノが葵には備わっていないということだ。…じゃあ無理じゃない?と思うかもしれないが少し待ってほしい。葵が赤ん坊の頃、もっと言えば蒼を浄化した時に、葵は僕のエネルギーを使って浄化しているのだ。僕の中にストックしていた構成力に干渉したのだ。


 つまり、葵は『過剰出力(オーバースペック)』で異能力を集めるような感覚で、異能力を媒介して僕の構成力に干渉して見せたのだ。


 葵なら僕らには及ばずとも構成力に干渉できるようになれるはず…と思うんだけど、残念ながらそれが可能かはなんの根拠もない。


 「それで、僕は何をすればいいんでしょう?」


 状況をあまり理解していなそうな葵が僕に言う。…この子、僕を認識したのはつい最近のはずなのに僕のこと信じすぎじゃない?大丈夫かな…将来変な人に騙されなきゃいいけど。


 「…とりあえず、葵は何もしないで立っていて。少し手を握らせてもらうよ」


 僕はそう言いながら葵の手を握る。ん、いい位置に剣ダコ…鎌ダコ?がある。頑張ってる証拠だね。


 「えっと…?セラスさん?」


 思わず鍛錬具合を確かめてしまって手を握ったまま黙っていた僕に、葵が困ったような照れたような顔で僕を見てくる。葵が頑張った証拠なんだから、別に照れなくてもいいのに。


 「ごめんごめん、それじゃあ目を瞑って?」


 「は、はい…」


 僕の言葉に従って目を瞑る葵。…伝わってくる感情から、なんとなく落ち着かないような、なんとも言えない感情が伝わってくる。


 これからやるのは、僕が力を使う時の流れに葵を中継させることで葵の感覚を呼び起こせないかというもの。可能かどうかの確証もないんだから、できるだけのことはやっておきたい。


 「葵、ゆっくり息をして?」


 「はい…」


 言葉に力を持たせて、ゆっくりと言葉を吐く。初めは言葉を吐いている僕だけに意識が向くように。そしてゆっくり葵自身だけに感覚を集中させるように。


 「自分の異能力を感じて…体の輪郭を感じて…無意識の体の動きを感じて…」


 「……」


 「自分と世界の境界を感じて」


 ゆっくりと言葉を紡ぎながら、僕は自分の中から構成力を動かす。普段は刹那よりも短い時間で行う動作を、ゆっくりゆっくりと。水が重力に従って坂を流れていくようにゆっくりと。


 「感じて、君と世界の共通項を」


 ゆっくりと時間をかけて葵の体を構成力で満たしていく。葵に流した構成力で形作るものは、葵にも馴染み深いカタチ。


 「思い出して、君が触れていたものを」


 生まれてすぐから抱いていた葵の思い。その思いが実現させた奇跡の炎。


 「いくよ、『浄火』」


 世界を丸ごと包み込むような青い炎が、手を繋いだ僕と葵の間から遥か星空へ向かって立ち上る。葵の真似から生まれた異能力由来の『浄火』ではなく、100%構成力で再現した『浄火』は、葵が使うものとは比べ物にならない大きさに膨れ上がって僕の世界の星空を暖かく照らしながら迸り…消えてゆく。


 「……目を開けて?」


 「…」


 僕の言葉で、葵がゆっくりと目を開く。黙り込む葵の表情は、落ち着いているとも呆然としているとも取れる表情だった。


 「どう?何か感じた?」


 僕が続けてかけた言葉に、葵はようやく意識を現実に戻したようで、ハッとしたような表情で口を開く。


 「っ、はい。何か僕を通して…うまく言えないんですけど、確かに何かが僕を通って出て行きました」


 葵の言葉に一瞬思考が止まる。本当に?構成力を知覚できたのか?自分でやると言っておきながら本当にできるとは正直思っていなかった。


 「っ!…それなら、葵の体を通って行ったものは今でも感じられる?」


 「え?えっと…」


 僕の言葉に葵はもう一度目を閉じて集中し始める。僕はその様子を眺めながら、久々に手に汗握るような感覚を覚えていた。


 …天使の輪も翼もない葵が構成力を本当に?もしきっかけだけでも掴めているなら…


 僕は目を閉じて集中している葵の後ろに構成力を集めていく。世界中どこにでも存在している構成力の中でも目立つように、でも葵には僕が何かしているのがわからないようにこっそりと。


 「…?」「!」


 葵が目を開けて振り返った。その光景に思わず声を上げそうになるも、なんとか堪えて葵の反応を待つ。


 「…あれ?何かあったと思ったんですけど、気のせいでした」


 葵はそんなふうに少し恥ずかしそうにしながら僕の方に向き直る。僕は必死に表情を殺しながら思考を続ける。


 体内の構成力は極度の集中状態で認識可能、操作可能かは現段階では判別不明。体外での構成力感知は兆しがある。異能力を媒介して知覚すればもっと…?いや、むしろさっき感知できたのは異能力が理由か?いずれにしろもっと検証を…。


 「セラスさん?」


 そこまで考えたところで葵から声をかけられて思考を中断する。


 「えっと…結局これってなんの意味が?」


 そんな葵の疑問を聞いて、ようやく僕がなぜこの検証をしたのかを説明していなかったことを思い出す。


 「あぁ、ごめんね。さっき葵が感じたものは『構成力』っていう葵が普段使っている『異能力』の、さらに言えばあらゆる物の大元になるエネルギーなんだ」


 「異能力の…?」


 「うん。僕は構成力を操ることで色んな力を使っているんだ」


 「なる、ほど?」


 まだ飲み込みきれていない様子の葵に、実際に目の前で鎌を作り出したり何もない空間から炎を吹き上げさせたり、空間を自在に移動できるゲートを開いて見せたりしながら説明をしていく。


 「構成力は言葉の通り、全てを構成する力。どんなものにもなることができる」


 そこで言葉を区切りながら、説明のために創った物を消す。そして、葵にとって馴染み深いものを…さっき葵が見ていなかった浄火を出す。


 「構成力が使えるようになれば、君の力は格段に強くなる」


 「……!」


 僕の言葉と共に現れた浄火を前にして、葵は初めて異能力を使った時のように目を輝かせていた。

次回の更新はまぁ4日以内で出来たらいいなと思っています。

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